第227回(9月16日)菅政権の外交・安保政策を斬る(中)

米韓2プラス2、北指導者制裁
 12日の名護市議選は辺野古移設に反対する稲嶺進市長派が過半数を占め、地元調整をさらに難しくした。心配なのは辺野古移設の期限延長が普天間飛行場の固定化に繋がることだ。辺野古移設で優柔不断な日本を蚊帳の外に置いて、米韓両政府は7月21日、北朝鮮による韓国海軍哨戒艦沈没事件を受けた米韓外務・国防閣僚会議(2プラス2)をソウルで開き、①合同軍事演習などを通じ一体化した防衛態勢を維持する②北朝鮮に攻撃の責任を取るよう強く要求。韓国への攻撃や敵対行為の中止を求め無責任な行動には深刻な結果をもたらす③核開発計画と核兵器の追求放棄を北朝鮮に強く要求する――との共同声明を発表。クリントン米国務長官は記者会見で、北朝鮮の兵器売買などを規制する米国独自の経済制裁により、北朝鮮指導部に対する圧力を強化すると言明。制裁は「北朝鮮の核拡散行為を防ぐため、資金源となる違法活動はやめさせる」とし、長年苦しむ民衆が対象ではなく政府指導者の違法行為を標的に北朝鮮の兵器や関連部品の売買、たばこや高級酒など贅沢品購入を対象とした独自制裁を米国が導入するほか、従来の金融制裁や外交特権を悪用した違法行為が行われないよう渡航制限の拡充、北朝鮮指導者の資産凍結などを強化する方針を明示した。

過去最大規模の米韓演習
 米韓閣僚会議後の25日から28日まで、日本海で行われた米韓合同軍事演習で、米国は沖縄・嘉手納基地から最新鋭ステルス戦闘機F22を初めて4機飛来させたほか、空母ジョージ・ワシントン、イージス駆逐艦、潜水艦、P3C対潜哨戒機、E2C早期警戒機を投入。韓国も駆逐艦、揚陸艦、潜水艦が参加、米韓両軍8千人で艦艇約20隻、航空機約200機が動員され過去最大級の演習を行った。北朝鮮を威嚇する効果を狙って米韓演習では異例にも空中給油訓練も実施した。演習の柱はP3C対潜哨戒機などが米韓潜水艦を北朝鮮潜水艦に見立て、探知、捜索、攻撃の訓練を実施。両国が北朝鮮の軍事挑発に対する警告を行動のレベルに移し、朝鮮半島有事の際の両軍の展開、作戦遂行能力をアピールした。中国への配慮から米空母は中国の「のど元」黄海でなく、日本海に投入させたが、米韓両軍は黄海での演習も年内に行う方針であり、韓国軍当局者は「8月の定例合同軍事演習を含め、年内に約10回の演習を計画中」と述べた。これに対し、中国の人民解放軍南京軍区の砲兵隊は同25日、黄海付近で長距離ロケット砲の大規模な発射演習を実施して米艦を牽制、7月下旬には海軍が南沙諸島を抱える南シナ海で大規模な実弾演習をした。

小競り合いが局地紛争に発展
 北朝鮮も8月初旬、韓国独自が黄海で実施した演習の終了を待って、沿岸の砲台から約130発の実弾を北方限界線(NLL)内に発射し、韓国を威嚇・牽制した。黄海では南北艦艇が睨み合い、過去3回銃撃戦を交えているが、艦艇同士ではなく韓国側の艦艇が近づけば、今回のように沿岸砲台から砲撃する可能性は多分にある。さらに、非武装地帯で韓国が宣伝用スピーカーで韓国海軍哨戒艦の沈没事件を非難すれば、北朝鮮が砲撃を加え、これに韓国側が仕返しをすると、小競り合いはエスカレートし局地的紛争に発展する危険性大だ。韓国は北朝鮮の最も嫌がる大型拡声器やラジオ、風船ビラを使って兵士や住民に心理戦を展開しようとしたが、スピーカー宣伝を思いとどめた。韓国では国民の80%が戦争を望んでいないが、事件後、戦争が起きるとの緊張が高まり、最近の統一地方選では、北朝鮮に強硬策を採った与党のハンナラ党が大敗、李明博政権の支持率も40%を割り込んだからだ。それにしても3月26日夜、兵士104人が乗った哨戒艦「天安」(1200トン)が北朝鮮の小型潜水艦の発射魚雷で沈没、兵士46人が犠牲になった事件は衝撃的だ。

後継・正雲氏に国内引き締め
 今年は朝鮮戦争が勃発して60年だが、過去のラングーン事件、大韓航空機爆破事件を見ても分かるように、国際関係で何らかの緊張関係に持ち込むことが、国内の引き締めには有利に働くと北朝鮮は見ているようだ。北朝鮮ではデノミ失敗や洪水の農作物被害による経済不安、金正日総書記の健康不安などがあって不安定期に入り、後継問題がクローズアップされている。国会にあたる6月の最高人民会議では金総書記の義弟、張成沢・行政部長が国防委副委員長に選ばれた。張氏は金総書記の後継者に内定したとされる三男、金正雲氏(27)の後見人といわれる。朝鮮労働党が1966年以来44年ぶりに9月下旬に開く党代表者会では、「党最高指導機関選挙」を実施するが、金正雲氏はまず政治局員に選ばれ、その後に開く中央委の総会で、政治局常務委員など党の最高幹部ポストに就き、公式に後継者として登場する可能性が予測されている。10年1月の正雲氏の誕生日には「祝杯を上げよう」と題した歌謡曲が放送された。バネッタ米CIA長官は「哨戒艦爆破をやったのは金正雲氏の信用確立のためだった」との観測を強めている。若くて指導者の経験が浅い正雲氏の軍当局内での実績づくりを図ったとの見方だ。

核弾頭小型化、濃縮ウラン開発
  6月末にカナダで開かれた先進国首脳会議(G8)は哨戒艦事件を非難する声明を出したが、北朝鮮を名指しすることにロシアが反対、中国も核実験実施の際よりも批判をトーンダウンしており、米国は結局、北朝鮮の「テロ支援国家再指定」を見送った。逆に北朝鮮は米国がG8で見せた対北敵視政策に対処し、「核抑止力を新しく発展した方法でさらに強化する」との声明を出した。これは核弾頭の小型化や高濃縮ウランによる核兵器開発をさらに進める構えを示したものだ。第3回の核実験や中長距離弾道ミサイルの発射に踏み切る危険性が多分にある。共同通信外信部の幹部によると、クリントン政権時代の94年、米国はソウルをパトリオットミサイルの防衛で固め、北朝鮮の核施設をピンポイント攻撃で叩こうと本気で考えたが、全面戦争になるのを恐れ、カーター元大統領を特使として派遣、6カ国協議の道筋を付けた。米国も中国も北東アジアの平和を6カ国協議で話し合い解決する点では一致している。米国が絶対に認めないのは北朝鮮が核やミサイル技術をイスラム過激派に売り渡す場合だ。現在の北朝鮮ミサイルではどんなに頑張ってもアラスカまでしか届かないが、過激派に渡ると同時多発テロと同様、米本土が襲われるからだ。

均等同盟の小沢氏に米不信感
 「日米同盟は従属関係でなく対等のパートナーだ。第7艦隊があれば極東での米国のプレゼンス(存在)は十分」――。小沢氏は国連中心外交を唱え、米海兵隊の削減を持論としてきた。普天間移設でも「沖縄県民と米政府がともに理解し、納得し得る解決策を目指し双方と改めて話し合う」と仕切り直しの姿勢を見せ、米国が不信感を抱いている。小沢氏が首相になれなかったことはせめてもの幸いだった。海上保安庁は8日、尖閣諸島沖の日本領海内で違法操業し、巡視船2隻に漁船を衝突させて立ち入り検査を妨害した中国人船長を逮捕した。逮捕は当然だが、中国政府は丹羽宇一郎駐日大使を5回も呼びつけ、船長の釈放と漁船を返還するよう恫喝した。しかも、最終回の12日は副総理級の国務委員が午前1時(日本時間零時)に出頭を求めるという非礼ぶり。 丹羽大使は即座に中国の要求を拒否したという。 ほかにも11日には東シナ海のガス田交渉の延期を通告し、沖縄本島沖合の日本の排他的経済水域(EEZ)内で海洋調査を行っていた海上保安庁の測量船に中国の「海監51号」が接近し、「中国の水域だ」と無線で調査の中止を求めた。また15日から予定された中国全人代(国会)代表団の来日も中止を通告(ドタキャン)してきた。 中国に同調し台湾の民間団体「中華保釣協会」の漁船(2人乗り込み)も14日未明、 尖閣諸島沖の日本接続水域に入り、台湾側巡視船5隻に囲まれる形で停船、やがて引き返した。    

固有領土の認識持たぬ鳩山氏
  尖閣諸島は明治政府が1895年に日本領土に編入して以来、どの国も異議を唱えてこなかった日本固有の領土。中国や台湾が領有権を主張し始めたのは尖閣諸島近海の東シナ海に石油や天然ガスが埋蔵されているのが判明した1970年代初頭からだ。読売は9日の読売手帳で、鳩山前首相が「(尖閣の)帰属問題は日中の当事者同士でしっかり議論して、結論を見いだしてもらいたい」と5月の全国知事会で語ったことが中台に誤ったメッセージを伝えた、と非難した。こちらも、鳩山発言が中台に付け入る隙を与えたことは事実だろう。衝突事件当時、尖閣諸島沖では約160隻もの中国漁船が違法操業していたという。民主党政権になって中国に舐められっ放しの日本だが、クリントン米国務長官もこれまで「米、日、韓」の順で演説していたのを、意図的に「米、韓、日」の順に読み替えているという。 昨年末、民主党議員143名を引き連れ朝貢的訪中をした小沢氏は代表選で「鳩山、菅両氏を挙党体制の重要ポストで処遇する」と公言した。 「固有の領土」の基本認識すら知らない未熟な鳩山氏だが、本人は北方領土の返還を目指し、外相での入閣を望んでいる。菅首相が挙党態勢に配慮し、仮にもこんな人事を実現すれば中国は「くみやすい相手」とみて、益々強硬手段に出てきそうだ。菅政権になって日本の外交・安全保障は一層、危機的状況を迎つつある。