第226回(9月1日)菅政権の外交・安保政策を斬る(上)
基地移設凍結で普天間固定化進む
 日米政府が5月末、「滑走路の位置と工法の検討を終わらせる」と合意した米軍普天間飛行場の移設問題は8月末に期限が切れた。菅政府は対米折衝が難航したうえ、沖縄地元の説得が出来ず暗礁に乗り上げたままだ。9月には移設先辺野古の名護市議選、11月には沖縄県知事選がある。地元の反対運動が強まり同問題の9月決着は先送りされる。同時に「普天間移設の実現とセット」と位置づけられた沖縄海兵隊8千人のグアム移転も施設整備の遅れから事実上14年移転を断念、普天間飛行場の固定化が強まってきた。これでは安保改定60周年の日米同盟の深化どころか、日米関係の軋みは増大するばかりだ。管政権は参院選公約に「現実主義を基調とする外交」を掲げたが、現実には、これも朝鮮戦争勃発60周年の今年、朝鮮半島では韓国海軍の哨戒艦が魚雷攻撃で沈没、日本海で米韓が合同軍事演習をすれば北朝鮮軍が黄海に130発の砲弾を発射するなど一触即発の危機。ホルムズ海峡では日本のタンカーがテロ攻撃にさらされた。首相は日韓併合100年を機に「首相談話」を発表し日韓関係の強化を図ったが、外交・安全保障では全くの無策。民主党が代表選にうつつを抜かす間にアジア情勢は緊迫の度を深めている。恐るべきことだ。

辺野古案は11月まで先送り
普天間飛行場の代替施設を検討する日米専門家会議は、5月の日米合意を受けてこれまでに4、5回開催、8月末までに報告書をまとめる段取りで進められていた。日本政府が沖縄の負担軽減策として明記した米海兵隊の訓練を鹿児島県徳之島に移転する案は徳之島地元の反対が強いうえ、滑走路整備費が約1000億円に達する見込みのため早々と断念。名護市辺野古地区に建設する施設も「杭打ち桟橋方式」はテロ攻撃の危険性から取り止め、①沿岸部にV字形滑走路2本(原案)②沖合にV字形③沿岸部に滑走路1本④数百メートル沖合に滑走路1本――の4案を提示し、技術的な見地から意見を交換した。最終的には①工法は埋め立て方式②滑走路は米側支持の「V字形2本」と日本提案の「沿岸部のI字形1本」の両案併記の報告書をまとめ、31日に公表した。 日本側資産では字形の場合、字形に比べて埋め立て面積が25%、土砂量が10%少なく、サンゴ類の消失面積は20%減少、建設費も3%減らせる。だが、米側が自民党政権時代の日米合意原案にこだわったうえ9月12日の名護市議選、11月28日の沖縄県知事選を控え、地元の政治情勢に左右されるのは避けられないとの見通しから、決着を11月末まで先送りした。とはいえ先送りとなれば、11月13,14日に横浜で開くアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に合わせた、オバマ米大統領との日米首脳会談は開けなくなる可能性が強い。

米中間選挙に影響、軋み拡大
 米側が8月末日までの日米合意にこだわったのは、沖縄米海兵隊8千人のグアム移転費を巡る米議会の予算審議が秋以降に本番を迎えることと、11月の米中間選挙前に同盟国日本との関係改善を深めておきたいとの願いからだ。その意味で、米国は6月に合意遵守をオバマ氏に明言した菅首相の政策遂行能力を見守ってきたが、約束を果たせない菅政権に対する米国の不信感は高まり、軋みは一層拡大している。海兵隊のグアム移転は日米が06年5月に合意した「米軍再編実施のための日米ロードマップ(工程表)」の柱で「普天間移設とセット」と位置づけられた。だが、私もかつて防衛副大臣当時に現地を視察したが、グアムの電力・上下水道、港湾、道路などインフラの整備を海兵隊移転に伴う急激な人口増加に対応させるには、電力供給など民間インフラの整備が不可欠。グアム政府も同様に主張している。日米合意で日本政府は7億4千万ドル(約632億円)をグアムのインフラ整備を行う事業体に融資し、米軍やグアム市民らの利用料で返済する建て前だ。

6年延長で米軍再編に影落とす
 ところが、グアムで唯一、上下水道事業を経営している「グアム水道事業庁」は、利用料収入の低迷などで赤字を抱えており、米海軍の統合グアム計画事務所が行った環境影響評価では、「日本融資の約6割が返済不能になるだろう」と指摘し、「もし日本政府からの必要資金の獲得に失敗したら、資金拠出が行われるまで事業の発注を延期する必要がある」と明記。「日米合意の移転完了期限は14年とされているが、グアムのインフラはそのような急な建設速度には対応できない」とし、インフラの供給能力に合わせた速度で建設を進める「適応性の計画管理」を導入することで、「基地建設の期限は延長される」との文書をグアム政府に説明、日本政府にも伝達した。延長は6年程度になろう。米政府がグアム移転の14年達成を事実上断念したのは、グアムの軍事施設と民間インフラ整備の財政支出が事前の予想を遙かに上回り、整備の長期化が避けられなくなったことと、長引くアフガニスタン戦争や景気低迷で、国防予算の削減を求める声が米議会内で強まってきたことが背景にある。これにより11会計年度の予算法案では、軍事施設建設に関するグアム移転費が大幅に削減され、西太平洋地域の米軍再編全体にも影を落とす結果になった。    =次号=