第224回(8月1日)8月末の日米合意絶望 韓国も対日不信増大
 米軍普天間飛行場の移設問題は5月末、日米が8月末までに「滑走路の位置と工法」の検討を終わらせることで合意した。その期限が迫っているが、地元の反対は根強く、7月末の日米折衝でも進展は見られなかった。11月の沖縄県知事選後まで先送りされるのは確実だ。一方、22日には「日韓併合条約締結」100年を迎える。これも、日本による植民地化に対する韓国国民の感情は未だ改善されず、複雑な影を落としている。4月に予定された李明博韓国大統領の訪日は今年下半期に延期され、日韓首脳のシャトル外交は中断されたままだ。韓国の安全保障の生命線である沖縄駐留米軍の基地問題で、迷走を続ける民主党政権に不信感を強めた結果と言える。3月には韓国海軍の哨戒艦が魚雷攻撃を受けて沈没し、4月には中国の大艦隊10隻が海上自衛隊の護衛艦を挑発しながら、東シナ海から沖縄・南西諸島を越え、沖ノ鳥島近海で演習して帰った。北東アジアの緊張は一段と高まっている。今年は安保改定50周年。菅政権の公約には日米同盟の深化や「東アジア共同体」の実現、新防衛計画大綱と新中期防衛力整備計画の制定を謳っている。だが、何一つ実体は見えてこない。秋の臨時国会で自民党は安保問題を徹底的に追及したい。

徳之島訓練施設も事実上断念
  7月16,17日にワシントンで開いた日米専門家会議で、日本側は名護市辺野古移設の飛行場案について、従来のV字形滑走路に加え、辺野古容認派の仲井真弘多沖縄県知事らが求めていた「沖合数10メートルに大型1本の滑走路を建設する」など複数の案を提示したが、米側は聞き置く程度に止どめた。7月末の折衝でも進展していない。政府は沖縄の負担軽減策とした米海兵隊の訓練を鹿児島県・徳之島に移転する案も事実上断念した。5月末の日米合意では、米軍の訓練活動について「沖縄県外への移転を拡充する」とし徳之島の地名を明記、「適切な施設が整備されること」を条件とした。その徳之島断念は、菅政権に対する県民の信頼を失わせ、普天間調整を益々困難に陥れている。元々、鳩山前首相は「最低でも県外」と言って、自民党政権が苦労してまとめた辺野古移設の日米合意を、いとも簡単に覆した。その後散々迷走した揚げ句、県民に謝罪して元の案に戻し退陣した。この無責任さに沖縄県民の怒りは頂点に達し、民主党は参院選候補の擁立すら断念した。

11月沖縄知事選まで先送り
  裏切られた県民の感情は9月の名護市議選、11月の県知事選で沸騰すると見られる。それを予見してか、北沢俊美防衛相は「決着は11月まで先送りされる」との見通しを述べた。だが、辺野古容認派の仲井真知事が再選されても早期決着は難しいかもしれない。鳩山政権の迷走で冷えかけた日米関係は、菅首相が6月の就任後、5月末の日米合意を遵守する姿勢を示したことで米政府が歓迎、オバマ大統領は6月27日、カナダで行った初の日米首脳会談で菅首相を歓待し、会談後は2人揃って日米報道陣に応対するなど良好な関係作りを演出した。しかし、オバマ大統領が横浜のAPEC会議で来日し、日米首脳会談を開く11月までに前進がなければ、日米関係は再び亀裂が生じることになりかねない。それだけに、安保改定半世紀を経た今日、日米同盟の深化を目指す日米協議は重要である。日米両政府は辺野古移設作業と並行して、①沖縄の負担軽減②北朝鮮、中国の脅威に対する抑止力として沖縄・南西諸島の安全確保③米軍再編に伴う自衛隊の役割分担④集団的自衛権など米国が求める応分の負担――など長期的な防衛政策を煮詰めなければならない。

対米依存脱却の一郎氏DNA
  鳩山前首相は「脱官僚の政治」のほか、「緊密・対等な日米同盟」と「東アジア共同体」で米側一辺倒に偏った外交ではなく二等辺三角形の外交を推進したいと唱えてきた。これは、吉田茂元首相の政治姿勢に対抗して、「官僚政治の打破」と「対米依存から自主外交へ」、「米軍撤退」を唱えた祖父・鳩山一郎元首相のDNAを受け継いだものだろう。だから、鳩山前首相は沖縄基地の返還を主眼に「対米依存の脱却を」と短絡に走り、自民党政権が14年もかけて積み上げてきた普天間返還合意をぶっ壊した。しかし、鳩山氏は退任演説で「日本の平和は日本人の手で作り上げていく時を求めなければならない」、「米国に依存し続ける安全保障を50年、100年続けて良いとは思わない」と理想論を述べ、菅政権も「現実主義を貴重とする外交」を参院選の公約として打ち出した。それが本気なら、自民党政権当時から1年も策定が遅れた新防衛計画大綱と新中期防衛力整備計画を早急にまとめ、日本を守る本当に必要な防衛力強化策を真剣に大綱に盛り込まなければなるまい。

沖縄基地迷走に韓国は不信感
  また、北朝鮮の核や中国の軍拡を考えれば、自国を独力で守る能力がない以上、日米同盟を強化するため、集団自衛権など米国が求める応分の負担を真剣に考える必要があろう。一方、韓国政府は、民主党政権がアジア重視を掲げ、哨戒艦沈没事件は北朝鮮の魚雷攻撃であるとの韓国の主張を強く支持し、天皇訪韓にも前向きな姿勢を見せたことなどから、「未来志向的な両国関係」を前進させるものと期待していた。しかし、韓国の安全保障に深く関わる沖縄基地問題を巡る鳩山前政権の迷走ぶりに韓国は不信感を抱いた。さらに哨戒艦沈没事件で北朝鮮を名指しして非難する国連安保理決議が不発に終わったことから、李明博大統領の訪日は今年下半期に延期されたままだ。おまけに小沢一郎前幹事長が訪韓し、問題多く出来もしない「永住外国人地方参政権法案」を前国会で成立させると空約束したこともあり、日韓併合など歴史問題の不満が韓国内でくすぶり出している。

日米韓で北朝鮮の核包囲網
  韓国の外交当局者は「日韓併合条約の強制性に踏み込んで、日韓100年を総括する何らかの菅首相談話が必要だろう」と日本の対応を促しているという。日本海で25日から始まった米韓合同軍事演習は米最新鋭機ステルス戦闘機F22を初めて投入するなど過去最大級の規模となった。これは米韓が韓国海軍哨戒艦沈没事件を受け、北朝鮮の新たな軍事脅威に対処する防衛体制を強化するものだが、日米韓が北朝鮮に対する包囲網を作り、核開発を断念させることは極めて重要だ。米韓合同軍事演習には日本も当然参加するべきだし、日韓の信頼関係を高めて行かなければならない。それに、普天間飛行場の危険性は今も続いている。沖縄国際大学にヘリが落ちたのは6年前の夏のこと。事故が再発すれば基地問題はさらにこじれる。8月末の日米合意を履行するため、自民党は臨時国会で菅政権を厳しく追及していく構えだ。