第223回(7月16日) 議長提案は来年延期 反イルカ漁映画も
 6月末にモロッコで開かれた国際捕鯨委員会(IWC)は、日本の商業捕鯨再開につながる議長提案が合意に至らず、結論を来年以降に持ち越した。IWCの会期中に日本が発展途上国を捕鯨支持派に取り込む「票買い」を行ったとの噂が流れたり、調査捕鯨船の第2昭南丸を妨害した反捕鯨団体・シーシェパードの「アディギル号」のピーター・ベスーン元船長に対し、東京地裁が執行猶予付きの有罪判決が出したほか、鯨類のイルカ漁を描いた「ザ・コーヴ(入り江)」が上映禁止になるなど、このところ国内で捕鯨関連の問題が話題をさらった。映画は7月に解禁上映されたが反日的だ。一部には、日本は捕鯨推進国とともにIWCを脱退し、独自に商業捕鯨を再開すべきだとの意見も高まりつつある。水産資源を持続的に維持するうえからも、鯨類の科学的調査は極めて重要。自民党の水産部会長として絶えず対応策を検討しているが、今回はこうした一連の動きを追跡してみた。

捕鯨支持取り込みに票買い?
 モロッコで21~23日まで開かれたIWCでは、「日本沿岸でのミンククジラ商業捕鯨を再開する代わりに南極海での調査捕鯨を段階的に削減し、見直してもよい」とする議長提案をめぐり、欧州連合(EU)、中南米、豪州など反捕鯨国側の6グループと、日本、アイスランドなどの捕鯨推進4カ国が個別に交渉した。だが、合意の先送りを求める意見が大勢を占め、結論を来年以降に持ち越した。その折衝過程で、日本が金銭などで一部発展途上国を捕鯨支持派に取り込む「票買い」を行ったとの批判が欧米などで強まり、山田正彦農水相が記者会見で、「一切そういう事実関係はないと思っている」と不快感を示した。しかし、共同通信の取材によると、政府開発援助(ODA)のニーズ調査担当だった大手企業の社員は「我々は貴国の水産業の発展に寄与できる。興味があれば日本の捕鯨に協力を」と、2005年までの約18年間、アフリカやカリブ海諸国などの官僚に、捕鯨支持と援助のバーターを持ちかけてきたという。

反捕鯨活動しないは法廷戦術
 これはODAの水産無償資金協力の一環で、モロッコ南西部アガディールの漁船修理ドッグも90年代半ばに同資金協力で造られている。IWC未加盟国には加盟を求め、捕鯨支持なら無償協力に基づき日本企業による漁業整備、魚市場建設などの支援事業を行うという図式だ。捕鯨支持の見返りに金銭を与えるなら買収行為だが、この程度のODA勧誘なら単なる「誘い水」で、「票買い」には当たらないだろう。それでも、支援国家が多く、支援事業も数十億円に達することから、対立が激化する中では、あらぬ噂を立てられるようだ。1月に調査捕鯨船第2昭南丸にレーザ-の照射や酪酸弾、発煙筒などを撃ち込み、水上バイクで近づいて乗船し、海上保安庁に逮捕されたP・ベスーン元船長は、東京地裁で、「南極海での反捕鯨活動にもう参加しない」と涙ながらに訴えて執行猶予付き有罪判決を受け、強制送還された。だが、ニュージーランド・オークランド空港に到着したとたん、記者団には一転、「活動は決して止めない」と語った。6月に元船長を除名したシーシェパードのポール・ワトソン会長も、「除名や、元船長が『もう反捕鯨活動をしない』と語ったのは、法廷戦術に過ぎない」と述べ、元船長が妨害活動に復帰する可能性を示唆している。

豪州で姉妹都市提携解消騒ぎ
 読売によると、そのシー・シェパードは、和歌山県太地町と姉妹都市を結んでいる豪州北西部のブルーム町に目を付け、今年のアカデミー・長編ドキュメンタリー賞を受章した「ザ・コーヴ」の上映会を昨年8月に同町で行ってから混乱が起き始めた。かつて真珠貝採取の日本人潜水士で賑わい、人口の過半が日本人だったブルームの郊外には日本人墓地があり、移民した約900人の墓石が並ぶ。そのうち10基以上が倒されたり、まっぷたつに割られたりする嫌がらせが200件以上にも達したという。地元警察官は、「イルカ漁に反発した地元の若者の犯行だろう」と話し、墓地には1月から監視カメラが取り付けられた。今ではブルームの人口は約1万5千人。一時は町の主役だった日系人は200人ほどに減り、白人と、中国、マレーなどのアジア系住民および先住民が人口を2分し、豪州初の「他文化都市」に発展している。最近はシー・シェパードによる姉妹都市提携解消の呼び掛けを受け、町会議員のもとに数万本のメールや電話が殺到、イルカ漁に否定的な白人議員が多数の町議会は太地町との提携停止を決議。これに対し、イルカ漁に理解を示す日系を含むアジア系や先住民が議会に抗議し、議会は2カ月後に決議を撤回するなど、住民同士の人種対立で揺れ始めているという。

反日的「ザ・コーヴ」上映開始
 和歌山県太地町は400年にわたる捕鯨の歴史を持つ。古式捕鯨発祥の地として知られ、クジラや鯨類のイルカ漁は人口3500人の町を支える産業。太平洋を望む高台にはクジラの供養碑があり、毎年4月には漁業関係者らが霊を弔う。太地町では、水族館やテーマパーク用のイルカを沿岸に追い込んで捕獲し、残りは槍で突き殺して食用としている。そこへ60年代の人気テレビ番組「わんぱくフリッパー」で調教師兼俳優として活躍したリック・オバリー氏がやってきて、血に染まるコーヴ(入り江)を見、自分が無知だったことに気づき、イルカ救済をライフワークとして生きることにした。そして、入り江に隠しカメラを仕掛けるなど数年間にわたりイルカ漁を撮影、記録映画に仕立て上げたのが米映画「ザ・コーヴ」だ。3月に米アカデミー・長編ドキュメンタリー賞を受賞した。これには肖像権侵害などを理由に太地町漁協が上映中止を求めたり、「内容が反日的」として上映を阻止する運動が起きた。それとは別に抗議や街宣活動の予告を受け東京、大阪の計3館が上映を中止したが、「国民の知る権利」、「表現の自由」を巡る議論に発展し、日本映画監督協会が「断固抗議する」との声明を発表。6府県の6館で7月3日から上映されている。

IWCから脱退決意の声も
 「小魚を餌にするイルカは、食物連鎖の頂点に位置し、体内の残留水銀値が非常に高い。妊婦などは食べる機会を制限するなど、特に注意が必要だ」――とオバリー氏は力説、調査捕鯨にも反対している。映画には漁師と撮影隊が押し問答するシーンなどに「ぼかし処理」がしてあるが、継ぎはぎの合成された映像には残酷なシーンが多く、共同通信によると太地漁協幹部は「趣味で殺しているわけではない。映画は町民が持つ鯨類への畏敬の念を無視している」と憤っている。長崎県五島列島でも沿岸の魚類を大量に補食するイルカを食べる食文化があるが、水銀値汚染などは聞いたことがない。事実なら重大だ。政府は徹底的に調査し結果を公表すべきだろう。反捕鯨国の豪州でも農産物に被害を与えるカンガルーを食べる食文化がある。一方的な反日映画は問題だ。感情論で国際的に対立するよりも、相互の食文化を尊重し、イルカもクジラも資源状況を科学的に徹底調査し、商業捕鯨再開に漕ぎ着けないと、それこそIWCからの脱退を決意する必要に迫られるだろう。