第221回(6月16日)朝鮮半島緊迫化 問題多い貨物検査特措法
  韓国海軍哨戒艦撃沈事件は「6月初旬にも開戦か」との噂が流れたほど、朝鮮半島情勢を緊迫化させている。オバマ米大統領が、東アジアの安全保障を揺るがす「重大な挑発行為」と見なし米単独で金融制裁などに踏み切る姿勢を示し、韓国が「心理戦」として北朝鮮向けラジオの宣伝放送を計画中であるのに対し、北朝鮮が「主人(米)と手先(韓)がでっち上げた同族圧殺の捏造劇」と非難し、ラジオ・スピーカー破壊の照準射撃を行うとの「警告状」を発表したからだ。他国を交えた調査団が科学的に「北朝鮮の攻撃」と断定しているというのに、加害者が平然と被害者を装い開き直る。「盗人猛々しい」とはこのことだろう。開戦なら、同時に日本が紛争に巻き込まれる一触即発の危険性は日増しに強まっている。5月29日の日韓首脳会談で、鳩山前首相は前日に成立した特措法により、北朝鮮船舶の貨物調査に積極的に取り組むとともに、対北送金規制を強化すると約束、李明博大統領に感謝された。だが、貨物検査特措法は社民党の主張を入れて修正したため、検査権限を海上保安庁と税関に与えただけで海上自衛隊の関与は認めず、問題点が多い。

台北制裁決議案に中露は微妙
  韓国・済州島で5月29日,30日の2日間開かれた日中韓首脳会談は、北朝鮮の魚雷攻撃による韓国哨戒艦撃沈事件で、国連安保理への対北制裁決議案の提起に向け、日中韓で緊密な連携を続けることを確認し、共同報道発表文では3カ国が連携して「適正に対処していく」ことで一致したが、会見で温家宝中国首相は「各国の反応を注視する」と述べただけで、北朝鮮に対し慎重な対応を求める姿勢を崩さなかった。科学的調査団に加わったロシアも最近になって「北朝鮮の仕業とは断定できない」とコメントするなど、国連安保理開催前に態度を変化させている。これに先立つ29日の日韓首脳会談で、李明博大統領は、沖縄の米軍普天間飛行場移設問題で日米が前日に合意したことを「北東アジア情勢が予断を許さない中、日本の米軍基地の果たす役割は非常に重要だ。鳩山首相は大局に立って非常によい決断をした」と高く評価した。国内での評価は散々で退陣に追い込まれた鳩山前首相だったが、この発言には喜び、「(哨戒艦撃沈と言う)大変な事態の中、日米の信頼関係を一層深める必要があると考え断腸の思いで(合意を)決断した」と答え、日本政府が28日、独自に決めた対北送金規制強化措置と同日に成立した貨物検査特措法を説明した。

海保で対処し海自の出動否定
  貨物検査は、核実験を強行した北朝鮮への制裁措置として、昨年6月の国連安保理事会決議に盛り込まれた。日本には貨物検査を実施できる根拠法がなく、麻生前内閣が貨物検査特措法案を国会に提出したものの、衆院解散で廃案になり、国際協調行動の一翼を担えない状態が1年間も続いていた。鳩山内閣は、昨秋の臨時国会に法案を一部修正して再提出したが、他の法案処理を優先させ、成立を先送りしてきた。特措法は船舶が武器などを積んでいないか検査する権限を海保と税関に与え、船長が検査に同意しない時は、最寄りの港に向かうよう回航命令が出せる。問題なのは修正内容だ。麻生内閣の法案は、海上保安庁で対応が困難な場合は海上自衛隊が出動することを定めていたが、自衛隊の活用に否定的な社民党に配慮したため、その規定を削除してしまった。政府は、この規定がなくても自衛隊法に基づく海上警備活動を発令すれば、海自を出動させることが出来るとし、海保と海自の連絡を密にし連携して行動すれば、運用上の支障はないと説明している。

偽装商船攻撃に対応出来るか
  しかし 、海自を活用しても、貨物検査の実効性を高めていくうえでの課題は多い。北朝鮮籍の船舶や北朝鮮人船長の場合は、貨物検査や回航命令に応じる可能性は少ない。まして商船を装って重武装しているケースも想定されるが、海上警備行動を発令して海自を出動させても、海自は警告射撃が認められていない。日本独自の対北送金規制強化措置に対する報復措置として、北朝鮮の偽装商船が攻撃を仕掛けてきたらどうするか。哨戒艦撃沈で7・5メートル級魚雷の性能に自信を深めた北朝鮮のことだ。魚雷を商船に満載して、中東輸出に向けて日本海を航海させる恐れは多分にある。先の国会で社民党の福島瑞穂党首は「憲法9条こそが、攻撃を受けない最大の抑止力だ」などと能天気な答弁をしていたが、連立を離脱した今こそ民主党は危機管理に目覚め、自民党と提携して北朝鮮の奇襲攻撃に備える自衛隊法の改定などを検討しなければ安全保障は維持できないだろう。