北村の政治活動

 (平成13年11月16日) 5ヶ月切ったペイオフ 地銀は戦々恐々

 銀行が破綻した場合の預金払い戻し保証を1千万円までとするペイオフの凍結解除が5ヵ月後に迫った。庶民は折角の預金が消滅してはたまらないと、健全な銀行に預け替えるなど“虎の子”の保全に懸命。地方自治体も公金の預金を大手都市銀行にシフトしようと動いているため、取引先の地方銀行や信金、信組は戦々恐々だ。自民党内には「銀行の“取り付け騒ぎ”が起きては昭和恐慌の二の舞だ」と、2,3年の再凍結論議が高まっている。政府は再延期が構造改革に水を差し、国際信用を失墜する結果になるとして予定通りペイオフ解禁を強調している。このため、ペイオフは小泉政権の厄介な火種になりつつある。

 虎の子をどう守るか

 しからばペイオフの“恐怖”から虎の子を守るにはどうすればよいか。郵貯はペイオフの対象外で全額保証されるから最も安全だが、もともと郵貯限度額が1千万円だから預け変えても意味がない。それ以上の資産家は1千万円単位で信用できる金融機関に分散して定期預金にするか、普通・当座預金に切り替えて置けば安心だ。一時的な管理を目的とした決済性の強い普通・当座預金はさらに1年間凍結されて定期よりも優先的に保護される約束であるからだ。事情に疎い庶民の中には“たんす預金”や“金の延べ板”に変えるなど、自衛手段を考えている人も多いようだが、システムを知っていれば少しも怖くはない。

 流動性預金が流出

 ペイオフとは、預金保険機構が破綻した金融機関を清算したうえで、預金者に直接支払う保険金の保証額を元本1000万円と利息に限る措置。現在は公的資金で全額保護の特例措置がとられているが、来年4月から定期預金など、再来年4月からは普通・当座預金などでペイオフ凍結が解除される。このため、銀行の定期預金や郵便局の定額貯金が中心だった個人マネーが、さらに1年間安全な普通預金や投資信託などの流動性預金に大量に流出し始めている。“ゼロ金利”の超低金利時代で普通と定期の金利差はほとんどなくなり、定期性預金の魅力が薄れたことが、大手都市銀行への資金流入を加速している。

 投資信託や社債にも

 日銀によると、国内銀行の8月末の普通預金残高は,前年同月比17・3%増の132兆5919億円で、定期預金残高は同5・0%減の276兆6191億円だった。日経新聞によると、このうち、4大銀行グループの普通、通知両預金を合わせた流動性預金残高は、6月末に約35兆8900億円となり、この1年間に5兆1千億円も増えたという。定期預金や貯蓄性預金を含めた全体の個人預金残高99兆2370億円に占める比率は36・1%で、前年6月末から3・9%アップしたそうだ。大量に満期を迎えた郵貯の定額貯金も都市銀行の普通預金に流れているようだ。ペイオフと関係ない投資信託や社債にも個人マネーは流入しているという。株式相場の下落など運用環境が厳しい中での投信への逃避である。不況下で庶民がいかにペイオフに危機感を募らせているかを物語る。

 自治体も防衛に躍起

 総額20兆円の公金を金融機関に預けている地方自治体も公金の防衛に躍起。安全な金融機関、金融商品の選択基準を検討したり、金融機関の経営破綻に備えた対応策を煮詰めている。1兆2千億円を金融機関に預託している東京都は10月末、公金の管理や運用方法を探る検討委員会を発足させた。金融機関の経営状況を監視・評価した結果、経営悪化が目立つ場合は預金を引き上げる構えだ。福岡市のように、資金の一部を国債運用に振り替える地方自治体も出てきた。日経によると、自治体の定期預金は約3割が減少したという。総務省には「破綻金融機関が保有している地方債と、自治体の預金を相殺する手法を教えてほしい」「預金の一部を債券運用に切り替えたい」などの相談が相次いでいる。

 風評で優良銀行も破綻

 自治体の預金のうち、指定金融機関の占める比率は7−8割に達しているが、徳島県のように、指定金融機関に預けた預金の金利が他銀行より低いとして住民訴訟が起きたケースもある。このため、自治体は安全な資金運用を目指し,健全経営の都市銀行へ資金のシフトを始めており、指定金融機関の地銀,第二地銀,信金,信組などは脅威にさらされている。ペイオフ解禁で中小金融機関への預金が減れば、中小企業に資金が供給されなくなる恐れもある。1930年代の昭和恐慌は、時の大蔵大臣が国会で破綻の恐れある銀行を名指しして金融危機を説明しただけで市民が一斉に預金を引き卸す取り付け騒ぎに発展、それが全金融機関へ及び経済が麻痺状態に陥った。今でも経営難の風評が立てば、その銀行の預金は一気に流出し、倒産するはずのない銀行までが破綻する危険性がある。

 ペイオフ再延期の合唱

 こうした危機感を抱く地方金融機関が政治家に窮状を訴えているためか、与党の有力幹部はペイオフの再延期を強力に主張し始めた。「凍結解除は中小零細企業を大変な事態に追い込む。こんな時点でセーフネットを外す理由はない。2年ぐらい再延期すべきだ」――。小泉改革路線に対抗姿勢を強める自民党の亀井静香・前政調会長はこういう。麻生太郎政調会長も「このままペイオフを始めたらえらいことになる」といい,堀内光雄総務会長も「景気対策を行えば延期しなくても良いが、今のままでは危ない」と不安がっている。保守党の野田毅党首は2−3年延期を明確に主張、再延期の合唱は次第にオクターブを高めている。

 99年の延期論を踏襲

 この状況は政治主導で延期が決まった99年12月と似ている。このときは北海道拓殖銀行や山一證券の破綻で日本の金融システムに対する国際的な信用が失われ、信用組合など中小金融機関への影響が懸念されたことから、ペイオフ延期論が盛り上がった。その結果、与党3党は01年4月の実施を1年間延期することでこの問題を決着した。現在も株価が低迷する中で、金融機関は不良債権処理にあくせくしており、今年9月中間決算では大半の大手銀行が赤字の見通し。信金や信組では今年に入り約20件の破綻が起きている。これに加え、ペイオフで大銀行に資金が集中するなら地方の中小金融機関は潰れてしまう。こうした中小金融の悲鳴を受けてペイオフ再延期の要望は与党内に高まるばかりだ。

 延期は国際信用の失墜

 これに対し、政府は否定的で,金融庁は10月から新聞広告やテレビなどでペイオフ凍結解除のPR活動を展開している。再延期になれば「日本の金融システムはまだ不安定だ」と見られて国際信用が失墜するほか、政府が構造改革を先送りすると受け取られかねない。また、ペイオフの凍結を続け、破綻する金融機関に公的資金を投入することになれば、高額預金者を税金で保証することにもなる。億単位の高額預金者がざらにいる現状では、1000万円の保証限度内で預金を他行に分散するなど“自己責任”で自分の財産を管理することが望ましい、と政府は判断しているわけだ。大手都市銀は地銀などからの資金シフトを喜び、中小金融機関は危機感を強め、国民は言いようのない不安を感じている。いずれにしても、狂牛病に限らず風評の広がりは恐ろしい。取り付け騒ぎが起きないよう、政府は慎重に対応策を考えねばならないだろう。