第219回(5月16日)解けるか4次元方程式(上) 中国・北朝鮮の脅威強まる
 安全保障、基地問題と多年取り組んできた私は、言うまでもなく沖縄の米軍普天間飛行場の移設問題に重大な関心を抱いている。だが、基地移設問題は①米軍の抑止力維持(日米同盟)②沖縄の負担軽減(沖縄の心)③普天間飛行場のリスク軽減(住民の安全)④連立政権(イデオロギー)――の4次元方程式を解く必要があり、パズルは極めて複雑。それを首相は沖縄入りで「海兵隊が必ずしも抑止力として沖縄に存在しなければならない理由にはならないと思っていた。ただ、学ぶにつけ、海兵隊は、抑止力が維持できるという思いに至った」と記者団に臆面もなく語った。正直と言えば正直だが、昨秋の日米首脳会談でオバマ米大統領に日米同盟の深化を唱え「トラストミー」と誓って約半年間、国政第一の安全保障について一体何を学習していたのか。八方美人的発言を繰り返し、パフォーマンスのみを加熱させる首相に県民が呆れ、怒るのは無理からぬところだ。北東アジアでの中国、北朝鮮の軍事力増強に絡め、抑止力などの点から問題点を検討してみたい。

現行計画に2案抱き合わせ
 政府は4月28日、5月末の決着を公約している米軍普天間飛行場移設の最終案を大筋で固め、米国や移設先と大詰めの調整に入った。政府案は①日米が2006年に合意した沖縄県名護市辺野古に移設する現行計画を基本に、杭打ち桟橋(QIP)方式など異なる工法に修正②鹿児島県・徳之島へのヘリコプター部隊の分散移転③地元負担軽減策に、沖縄本島東側の米軍訓練水域「ホテル・ホテル区域」の一部解除と鳥島・久米島の射爆撃場返還――の3案を抱き合わせたもので、首相が5月4日に沖縄を訪問し、仲井真弘多知事らに説明、協力を求めた。辺野古の修正案は首相が珊瑚礁の破壊など環境面への影響を懸念し、海面埋め立てに反対しているため、海底に数千本の杭を打ち込んで桟橋を建設し、その上に滑走路を作るQIP方式が最有力。これで徳之島へのヘリ部隊分散移転は現在沖縄に1万人前後駐留する海兵隊のうち、約1000人を移転する。だが、技術的な困難さや高額な建設費に加え、テロリストのプラスチック爆弾による破壊攻撃の恐れなどの難点もある。これに対し、稲嶺進名護市長は「「海はもとより、陸上にも新たな基地は造らせないと訴え市長に当選した。信念を貫きたい」と述べ、高嶺善伸県議長ともども辺野古沿岸への新基地建設に反対した。亀井静香郵政改革相も「杭打ちは大手海洋土建業者に利するだけ。地元建設業には貢献しない」と反対、国外移設主張の社民党も杭打ち方式反対を正式に決めた。

当初はうるま市埋め立て案も
 政府が当初検討した移設案は、名護市の米軍キャンプ・シュワブ陸上部案と、同県うるま市の米軍ホワイトビーチ沖埋め立ての2案で、いずれも社民党が容認できない「県内移設」がメインだった。シュワブ陸上部案は(イ)500メートル級の短い滑走路か、ヘリ離着陸帯を建設し、普天間飛行場の機能を沖縄本島から200キロ離れた鹿児島県の徳之島や馬毛島、あるいは本土の長崎県大村市の海自基地などに分散移転する(ロ)1500メートル級の滑走路を建設する――の2つで(イ)案が有力だった。沖縄本島中部の勝連半島の米海軍基地ホワイトビーチ沖合を埋め立てる案は(ハ)同基地と海域が比較的浅い近隣の津堅島との間の埋め立て(ニ)同半島沖の宮城島と浮原島・南浮原島の間の埋め立て――の2つがあった。シュワブの500メートル滑走路を作る案はヘリの離着陸が可能となるよう整備するが、その場合、固定翼機や米軍が導入予定のヘリと飛行機機能を兼ね備えた垂直離着陸機「MV22オスプレイ」が使用出来ないため、2000メートルの滑走路がある徳之島や海自大村航空基地、空自新田原基地(宮崎県)などへの訓練分散を組み合わせる。これにより、「現飛行場訓練の5割以上を県外に分散移転できる」計算だった。

米司令官、徳之島に強い疑念
 しかし、二つの案は過去の在日米軍再編協議で検討され①シュワブ陸上部案はヘリが住宅地の上空を飛ぶという安全上の問題がある②ホワイトビーチ埋め立て案は建設に10年もかかり、滑走路取り口を繋ぐ長い橋が必要となる――などで最終的に米側が拒否しており、米軍は受け入れに否定的。米太平洋軍のウィラ-ド司令官は米下院公聴会後の記者会見で「現行計画が今なお最善の選択肢だ」と強調した。沖縄以外の自治体も受け入れ反対を強め、鹿児島県の伊藤祐一郎知事も平野博文官房長官に徳之島への移設反対を伝えた。読売が来日したティモシー・キーティング前米太平洋軍司令官に聞いた見解によると、①沖縄の海兵隊は相反する軍事的意図を持つ国々への強力な抑止力で非常に重要②十分な装備を持ち前方展開し、(有事の際の)潜在的な活動現場により近い③沖縄を離れたらアジア太平洋地域での米軍の態勢、能力は弱まる④航空・陸上両部隊が出来るだけ近くに駐屯し幅広い任務に迅速に対応することが不可欠⑤沖縄との往復に時間が掛かり燃料が増加する分散案は困る――とし、「徳之島で強襲揚陸訓練や実弾射撃が出来るか、環境の影響はどうか」などに強い疑念を示した。

島民感情悪く3町長即座拒否
 首相はその米国疑念の徳之島にご執心で、4日の沖縄訪問で「徳之島移設案」をブチ挙げたが、地元に影響力のある徳田虎雄元衆院議員を療養先の病院に訪ね協力を依頼したうえで7日、徳之島の高岡秀規・徳之島、大久保明・伊仙、大久幸助・天城3町長と首相官邸で会談、普天間飛行場の分散移転方針を正式に伝え、受け入れを要請した。しかし、3町長は「民意は反対だ」と即座に拒否、再会談にも応じなかった。1953年まで沖縄同様に占領下に置かれた徳之島には米軍への抵抗感が根強く、島民感情に加えて米軍の部隊運用上の問題も多い。徳之島空港を活用するヘリ部隊の分散移転は、駐機場や海兵隊員らの宿舎整備が必要で時間も費用も掛かる。徳之島と沖縄本島間の距離は200キロだが、陸上部隊との一体的訓練が不可欠とする米軍にとって有効距離は120キロが限界。訓練だけ移転しても、その都度、沖縄から移動する度に給油するなどヘリの耐用面から負荷が大きい。しかも、徳之島空港の着陸帯は幅150メートルしかなく、計器飛行による着陸には300メートル幅が必要で、沿岸部埋め立ての拡幅工事を要すると米側は反対している。5月決着まで後2週間だが、小沢一郎幹事長と距離を置く仙谷由人国家戦略相、前原誠司沖縄相、枝野幸男行政刷新相はそろって「5月決着にこだわる必要はない」との見解を発表、政局の主導権を握ろうとしている。首相はますます袋小路に追い込まれた。(上)