北村の政治活動

 (平成13年11月1日) 白い粉の恐怖 バイオテロ防止に全力

 狂牛病騒動が一段落したと思ったら、“白い粉”の恐怖が日本列島を襲っている。米国では炭疸菌の白い粉末がワシントンの各機関に郵送され、10月末までに炭疸病の発症者は15人を数え、うち3人が死亡した。権力の象徴である国防省などの同時自爆テロに次いで、政治中枢のホワイトハウスや連邦議会、マスコミが狙われたことから、FBI(米連邦捜査局)は生物・化学テロの疑いで本格捜査に乗り出している。日本では炭疸菌の郵送もなく、発症者も出ていないが、不審な郵便物が首相官邸に届いたり、新幹線座席に粉が撒かれたりで10月末現在、数十件の騒動が持ち上がっている。“愉快犯”のいたずららしいが、衛生研の検査や徹底した捜査活動には膨大なコストが掛かる。政府は抗生物質の確保や治療体制の確立に躍起だが、犯人に厳罰で臨む生物兵器使用罪の創設を検討している。

 肺炭疸は致死率百%

 米国の死亡者中2人は郵便物を取り扱った首都の郵便局員。炭疸菌を吸い込んで起きる肺炭疸で死亡した。肺炭疸は軽い発熱や疲労感が数日続くインフルエンザの症状に似ており、吸引に気づかず治療しない場合は、発症から24−36時間以内に毒素が肺から血液に乗って全身に回りショック死する。致死率はほぼ100%で助からない。菌が肌の傷口から入る皮膚炭疸は約20%、汚染された食物を食べて起きる腸炭疸は25−60%の致死率だ。いずれも感染と同時にペニシリンなどの抗生物質を投与すれば救われる。いずれの場合も人から人には感染しないし、粉入り封筒に触れても石鹸でよく洗えば安全という。

 芽胞状態で毒素温存

 朝日新聞は「細菌研究の歴史は炭疸菌から始まったーーといわれるほど古く、1876年にドイツのコッホが羊から炭疸菌を分離したのが最初。5年後にフランスのパスツールがワクチンを作った。感染して死んだ家畜の死体が黒ずんだので「炭疸」と名付けられた。炭疸菌は桿菌と呼ばれる棒状の細菌で、納豆菌も仲間。土の中で普段は生きているが、環境が変われば姿を変える。栄養が悪かったり、大気に触れると殻に包まれた芽胞状態になる。この状態は乾燥や熱、消毒薬などに強い。乾かして粉末にすれば瓶などに詰めて簡単に持ち運ぶことが出来る。動物の腸に入れば、ねばねばの膜に包まれ毒素を出す。トルコからパキスタンにかけては“炭疸ベルト”で年間数百人が発病」と解説している。

 イラクで製造の疑いも

 さらに朝日は、「米戦略国際問題研究所は、ミサイルで炭疸菌30キロをばら撒くと、10平方キロにいる3万ー10万人が死亡すると試算しており、培養は細菌学を学んだ大学生でも出来るが、芽胞を乾燥させて肺に入りやすい大きさ(0・01ミリ以下)にするには技術がいる」ーーと報じている。米国で郵送された炭疽菌は粒子が細かく、空中に浮遊して肺炭疽の被害を大きくした。生物兵器には、ほかにポツリヌス菌やエボラ熱菌などもあるが、湾岸戦争後に査察を拒んだイラクが、ひそかに生物・化学兵器を開発・製造していたことは間違いなく、それがテロ組織に渡ったとしても決して不思議はないわけだ。

 主要機関が標的

 「米国、イスラエルに死を!アラーは偉大なり!」――。連邦議会など2カ所に届けられた“白い粉”にはペン字でこう書かれていた。テロ組織の仕業に間違いない。炭疸菌の送付先は、連邦議会の上下両院、ホワイトハウス、国務省、最高裁、CIA(中央情報局)、陸軍医学研究機関など立法、行政、司法の主要機関すべてに及んでいる。ホワイトハウスなどは事前に配達をチェックしたが、取り扱った職員や郵便局員の感染者が増えている。

 米市民はパニック

 「我々が戦っている戦争には、海外と国内の2つの前線がある」(ブッシュ大統領)というように、米国は一連の炭疽菌事件をテロ戦争の一部と受け止め、感染源と感染経路特定の捜査に全力を上げている。フロリダ州の1マスコミに端を発した同事件は、CBS、NBC、ABCテレビの米3大ネットワークやニューヨークポスト紙にも被害が広がった。政治中枢の議会など主要機関やマスコミを標的にすれば世界の耳目を集め、国民の不安を駆り立てる。これはテロ組織の常套手段だ。米国の首都は一種のパニック状態に陥り、米全土でも国民が旅行やショッピングを避けるなど消費生活が一層落ち込んでいる。

 首相官邸にもいたずら

 ところで日本の生物(バイオ)テロ対策は万全か。“白い粉”入り封筒が10月中旬、福島市の郵便局で見つかり、首相官邸や大阪の米国総領事館などにも郵送された。不審郵便物として全国の警察に通報された事例は400件もあるが、ほとんどは架空の団体、人物が差出人で、内容物もでんぷんなどの毒性のないものばかりだった。中には「炭疽菌在中」と書かれた悪質ないたずらもあり、警察庁はこうした行為で郵便局や郵送先の業務が混乱したとして、威力業務妨害や偽計業務妨害容疑で捜査している。通勤客も敏感になっており、東京のJR山手線や新幹線の乗客から「車内に白い粉が撒かれている」との通報が頻繁にあって電車の発車が遅れたり、車庫に戻って消毒するなど費用がかかる騒ぎが起きている。

 バイオ検知機間に合わず

 一番迷惑を受けているのが全国の郵便局だ。米国の官庁集配局・ブレントウッド局では郵便の区分け作業中に封書から飛び散った炭疽菌が、空調の送風機で霧状に拡散・汚染され、肺炭疽の発症者が出たと見られる。仮にテロ組織が、米国同様に日本で炭疽菌を郵送したとなれば、自動区分読取機周辺で働く郵政職員はもとより、局全体が危険にさらされることになる。郵政事業庁は全国郵便局の集配作業にマスクと手袋を着用するよう指示するとともに、バイオ検知機の設置を検討しているが、緊急対応には間に合いそうもない。

 対応遅れた生物テロ

 95年の地下鉄サリン事件以降、警視庁や大阪府警はNBC(核・生物・科学兵器)テロ捜査隊を設置するなどテロ対策を進めてきたが、化学テロが中心で生物テロへの対応が遅れている。国内の炭疽病患者は94年の2人が最後だ。発症が少なかった点もあるが、国立感染症研究所の職員数は米国の半分以下で400人、予算規模も米国の30分の1以下で90億円に過ぎない。感染症予防法はテロを想定していないし、全国75ヶ所に自治体が設置する地方衛生研究所も炭素の検査が可能なのは3分の1でしかない。このため、厚生労働省は10月25日、地方衛生研の職員を対象に、炭疽菌検査法の講習会を開いた。テロ対策には早期診断と現場医師の問題意識が何よりも大事だからだ。

 生物兵器使用罪創設

 神奈川県で県警、各市消防局が合同訓練をしたり、埼玉県が生物テロ対策連絡会議を発足させるなど、首都圏ではバイオテロ防止に懸命だが、厚労省も、衆院厚生労働委員会で「感染症治療に有効な抗生物質は、国内で数十万人分が入手可能」と述べ、国民の間で高まる不安解消に努めている。また、政府は生物兵器の「使用罪」を創設する方向で検討に入った。現行の生物兵器禁止法は、銃やミサイルで生物剤を放出し、人を発病させたり、死なせたりする生物兵器の「製造」「所持」「譲渡」を禁じ、製造は1年以上15年以下の懲役、所持・譲渡は10年以下の懲役が科せられる。これに加えて「使用罪」を創設し、2年以上の有期か無期の懲役、1千万円以下の罰金を科す予定であり、“愉快犯”には厳しい罰則となる。私は以上の諸点や対策を十分に考察し、衆院厚労委や自民党の関係部会で、生物テロ撲滅のため大いに発言していく考えである。