第206回(11月1日)迷走で軋む日米関係 安保で厳しく追及
 オバマ米大統領は11月12~13日に来日、鳩山首相との首脳会談で米海兵隊・普天間飛行場の名護市へ移設、アフガニスタンへの人道復興支援などについて話し合う。しかし、露払いとして10月21日に来日したゲーツ米国防長官は強い調子で日米合意の早期決着を迫り、日米関係は早くも軋み始めている。鳩山連立内閣の政権合意で、外交・安保政策について社民党の求める「米軍再編や在日米軍基地のあり方の見直し」や「日米地位協定改定の提起」などを盛り込んだため、首相、岡田克也外相らが普天間飛行場移設の先送りやインド洋給油活動の中止など安保政策の全てに渡り慎重姿勢を示しているからだ。核・沖縄返還を巡る日米密約問題の解明を唱えたことも米側を刺激している。政府は年末に期限が切れる防衛大綱の改定も1年間先送りを決めた。船舶検査法案の臨時国会提出でも社民党の主張を入れて「自衛隊の関与規定は削除し、検査は海上保安庁が対応する」ことにした。民主党は連立政権の維持を優先するあまり、国家基本の外交・安保政策で安易に社民党に妥協してきている。自民党が半世紀をかけて築き上げた日米安保体制を崩壊させることは断じて許せない。我々は国会で変節する安保政策の追及に全力を挙げる構えだ。

日米同盟の亀裂―と米紙論評
 「今や、最も厄介な国は中国でなく日本だ」――。10月22日付の米紙ワシントンポストは、鳩山政権が米海兵隊普天間飛行場の移設計画見直しなど「日米同盟の再定義」に動いていることに、米政府が神経をとがらせているとする、国務省高官の発言を珍しくも1面に掲載した。朝日新聞によると、ポスト紙は、ゲーツ国防長官が日本側に強い警告を発したのは、日本が米国との同盟を見直し、アジアに軸足を置こうとしているのに対し、米政府内で懸念が生じたと指摘。米政府がパキスタンやアフガニスタン、イラン、北朝鮮などへの対処に苦しんでいるとき、普天間飛行場移設問題などで「アジアで最も親密な同盟国との間に、新たな厄介な問題を抱え込んだ」とした。国務省高官は、鳩山政権や民主党が政権運営の経験に乏しいうえ、官僚組織への依存から脱却しようとしていることが背景にあると語ったという。一方、ウオールストリート・ジャーナル紙(電子版)も同日、「広がる日米同盟の亀裂」と題する論文を掲載した。元ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)不拡散戦略部長のキャロリン・レディ氏が執筆。普天間問題などを挙げ、鳩山政権の対応が東アジアの安全保障の礎石の日米関係を蝕む恐れがある」と指摘している。

普天間と米軍再編は1セット
 米国内の対日感情がこのように急激に悪化したのは何故か。それは、普天間飛行場の移設問題への対応が最大の焦点と考えるゲーツ米国防長官がオバマ米大統領の訪日までに結論を出すよう再三再四、強く求めたのに対し、鳩山首相らは具体的対応を明言せず、すれ違いに終わったからである。来日したゲーツ長官は、沖縄県が要望する名護市辺野古に建設する代替施設の沖合50メートル程度の移動を容認したものの、「代替施設建設なしでは海兵隊のグアム移転もないし、沖縄での兵員縮小と土地返還もない」と述べ、米軍再編の目玉である8000人米海兵隊のグアム移転と普天間飛行場の移設、沖縄の基地負担軽減はあくまでワンセットであることを強調、日米が06年に合意したロードマップ(工程表)を早急に履行するよう迫った。さらに長官は会談や記者会見を通じ、アフガン支援策でも国軍と警察拡充の財政負担拡大を求めたり、核持ち込みに関する密約調査を取り上げ、「日米関係に悪影響を与えないようにして欲しい」と言及した。長官は、防衛省・自衛隊が外国賓客を迎える際の栄誉礼を今回は断るほど、厳しい折衝を覚悟してきたようだ。

嘉手納飛行場へ統合案も示す
 これに対し、日本側は、北沢俊美防衛相が「時間を浪費する暇はない。日本側の努力がかなり重要だ」と前向きな記者会見をし、辺野古案を容認する姿勢を示したものの、岡田外相は、先の衆院選で沖縄県内の全選挙区で現行計画に反対の候補が当選したことを挙げ、「早期に結論を出したいが、困難な政治状況は理解して欲しい」と結論先送りの意向を明らかにした。また、岡田氏は米軍嘉手納飛行場への統合も腹案として示した。同飛行場は3500メートル級の滑走路を持つが、米空軍のF15戦闘機、空中給油機など100機が常駐し、垂直離着陸の海兵隊ヘリが主力の普天間とはいささか違う。飛行速度や機能が異なる航空機とヘリが混在すれば、効率的な離着陸が出来ず危険であり、おまけに「エリート」空軍と「荒くれ者」海兵隊とはそりが合わないため、米側は以前から難色を示していた。地元住民も騒音が倍加すると強く反対している。岡田氏はインド洋の給油活動についても、新テロ対策特措法が期限を迎える来年1月に撤収する方針を説明、「日本の得意分野を生かした支援策を取りまとめている」と述べ、反政府武装勢力タリバーンからの離脱を促す職業訓練など民政分野を中心に強化する考えを説明した。

名護市長選後に先送りする考え
 日本は既に農業のインフラ整備、警察官の給料肩代わりなど2000億円の民政支援で貢献してきたが、岡田氏は先の訪米後に予告なしにアフガン訪問、カルザイ大統領にタリバーンの元兵士に職業訓練を行うなど新たな支援策を伝えている。「在日米軍再編、基地の見直し」を掲げて衆院選を戦った民主党は、県外、国外の表現は避けたものの、社民党が主張する「県外、国外への移設」を念頭に、同じく「再編計画・基地見直し」の文言を3党の連立合意に盛り込んでいる。これを総選挙のマニフェストにも掲げた鳩山首相は「計画見直し」の結論を来年1月の名護市長選以降に先送りする考えを維持してきた。名護市長選は、代替施設建設に受け入れ姿勢を示す島袋吉和現職市長に、見直しを訴える新顔が挑戦する図式。先の日米首脳会談で、首相は「緊密で対等な日米関係」を謳い上げ、「バラク」「ユキオ」とファーストネームで呼び合ったと得意になった。同じく「チェンジ」(改革)を唱え政権交代を果たしたオバマ大統領は首相にとって大先輩。首相にしてみれば、高支持率を得た愛弟子の鳩山政権をオバマ氏が温かく見守ってくれると受け止めていた。

アフガン支援策で帳消し狙う
 それが証拠に、ゲーツ氏来日前の16日の記者会見では「(米国は、普天間よりも)アフガンにおける協力の方を遙かに重要視している。この問題に明るいメッセージを出せるような方向を見出していきたい」と語り、新たなアフガン支援の貢献策で普天間問題を帳消しにして貰えると楽観視していたようだ。このように外交・安保を担当する関係閣僚の間では発言にブレが多い。しかし、日米関係の実態はそんなに甘いものではない。オバマ来日の地固めに来たゲーツ長官は岡田外相説明のアフガン支援にあまり関心を示さず、普天間飛行場の移設に絞って攻勢を掛け、嘉手納飛行場統合案や結論先送りに拒否の回答をした。かつて親米路線の吉田茂内閣が倒れた時、鳩山一郎政権は対米自主外交、対中ソ関係改善に舵を切った。祖父を信奉する由紀夫首相も「緊密で対等な日米関係」、日米中関係が正三角形の「東アジア共同体」を胸に外交デビューしたが、そうは問屋が卸ろさなかった。

オバマ氏来日前に反対集会
 沖縄県の仲井真弘多知事は13日、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設に伴う環境影響評価(アセスメント)について、意見書を防衛省に提出した。この意見書提出は麻生政権が普天間移設実現のシナリオの山場と位置づけていたものだ。この中で、知事は従来通りの代替飛行場を50メートル沖合に移動する修正を求める一方、どこに移設するかの方針を一向に示さない鳩山政権に対し「具体案を早急に示していただきたい」と異例の訴えを盛り込んでいる。しかし、鳩山首相はこの日も「県民の総意を伺う」と述べるだけで、仲井間知事は煮え切らない首相へ苛立ちを見せた。オバマ氏来日直前の11月8日には、県内移設反対派が県民大会を計画、この大会には仲井間知事と歩調を合わせてきた翁長雄志那覇市長が共同代表の1人に名を連ねた。社民党が嘉手納飛行場統合案にも反対し、あくまで「県外移設」を唱えていることから、折角まとまりかけた辺野古の代替施設建設計画にも再び反対を求める動きが広まり出した。

貨物、給油2法案で自民対案
 首相も事態を重視し、辺野古案を容認する方向で年内にも結論を出そうとしているが、米国が期待する給油活動のテロ特措法継続法案の臨時国会提出を見送り、普天間問題でも悠長な姿勢を取り続ける首相に対し、オバマ大統領が納得するかどうかは疑問だ。外交の継続性重視は政権交代に馴れた国では一般的慣行であり、オバマ政権もブッシュ政権の日米合意事項を受け継いできた。それを無視すれば米国は同盟国日本よりも中国に急接近しかねない。給油活動はテロ対策として日本が安上がりで効率的な貢献だったが、これに代わるアフガンへの民政支援策は最低でも4~5000億円の費用が掛かり、官・民のいずれの要員を派遣しても安全面のリスクが大きい。自民党は対案として、北朝鮮貨物検査法案を衆院先議で、インド洋上の給油活動継続法案を参院先議で今国会に提出、臨時国会でこれら安保の諸課題や普天間問題を厳しく追及する方針だ。

海賊対処法修正し給油継続も
 防衛省内や有識者の間では海賊対処法を一部修正、インド洋上からソマリア沖に補給艦を移し給油活動を継続すべきだとの声が起きており、北沢防衛相は27日の記者会見で「1月の法律期限切れで自衛隊の補給艦が撤収した後、ソマリア沖での海賊対策に参加する各国の艦艇に給油支援を行うことは十分考えられる」と転用を検討していることを明らかにした。ソマリア沖・アデン湾では20カ国以上が軍艦などを派遣、ジブチなど周辺国で給油しており、これを海自補給艦が米国主導の多国籍軍などの海上部隊へ補給すれば国際貢献策になると同省は見ている。だが、岡田外相は「インド洋とソマリア沖は別の問題」と述べ、首相も「そんな簡単に動かして済むという話ではない」と否定。社民党の重野安正幹事長が、「非常に軽率だ。そんなことまでして米国に恩を売りたいのか。海上保安庁で対処すべきだ」と批判し、代表質問でも内閣のバラバラ見解を質すなど迷走劇は続いている。