第205回(10月16日)凍結・融資2本立て 「ウエル亀」氏善政
補正予算の見直し作業が難航する鳩山政権の中で日増しに存在感を増しているのが亀井静香金融・郵政担当相だ。首相が早仕舞いをしたがっている臨時国会に、中小企業を対象とする貸し渋り・貸し剥がし対策法案(モラトリアム)と郵政株売却凍結法案の重要法案を2本立てで提出、成立させると張り切っている。モラトリアムに藤井裕久財務相が難色を示すと「(反対なら)首相が私を更迭すればいい」と開き直り、銀行株が下落しても平然。株式売却凍結法案以外にも経営陣の刷新を断行。次期通常国会には組織変更を盛り込んだ民営化見直しの郵政改革基本法案を提出する方針。民営化見直しは国民新党が「1丁目1番地」と唱える基本政策で、民・社・国3党の連立政権合意に含まれている。必ず成立させて、来年7月の参院選で党勢拡大に結びつけたいとしている。NHKテレビ小説の題名ではないが、郵政ファミリーにとっては「ウエルかめ」の亀井氏善政だ。民営化で地域の窓口が閉鎖され、私の出身地である離島や過疎化の限界集落で、サービスが低下していることは紛れもない事実。法案が提出されれば、郵政本来の全国あまねくというユニバーサルサービスが復活し、地域活性化が図られるかどうか。じっくり内容を吟味してみたい。

3年程度のモラトリアム提起
亀井金融相は就任早々、景気悪化に直撃された零細企業や個人は銀行借入金や住宅クローンが返済できずに年を越せないでいるとし、3年程度、借入金の返済を猶予する措置を取るべきだと提起した。これに対し、藤井財務相は「昭和初期の金融恐慌時にはやったが、さて今はそういう状況なのか」と首を傾げ、平野博文官房長官も「この問題は慎重にやっていかねばならない」と釘を刺した。関東大震災時や取り付け騒ぎが起きた昭和恐慌時に1ヶ月以内の臨時措置として実施したことはあるが、企業・個人と金融機関の間で結ばれた民間同士の貸借契約を国が一方的に解約させるような「徳政令」的な方法は、憲法が保障する財産権に抵触する恐れがあるとの指摘があり、政府としては慎重にならざるを得ないわけだ。亀井発言で金融業の株価は一斉に下落したが、永易克典全銀協会長ら金融界は「自由主義経済の下で一律的かつ長期的にわたるモラトリアムは発動された例がない」と一斉に反発した。直嶋正行経済産業相も不良債権が膨らむことから「内容によっては金融機関の心配も分からないではない」と懸念を表明した。これに対し、亀井金融相は「官房長官は各大臣を兼務しておらず、あーだこ-だとコメントされる立場にない。首相から『お任せします』と言われた.。首相と私に何の齟齬もない。私が担当大臣として法案を出す。(反対なら)首相が私を更迭すればいい。できっこない」と強気な発言を繰り返した。

要職経験の貫禄で主導権発揮
このように連立政権内では確執が生じているが、新政権の閣僚経験者は、亀井、藤井の両氏と菅直人副総理の3人だけ。中でも自民党時代に運輸・建設相、政調会長を務めた亀井氏は最古参だ。2008年の資金管理団体の収入では2回のパーティなどで1億1696万円を集めた亀井氏が首相や岡田外相を抑えてトップ。国民新党代表としてもこの際は貫禄を示し閣内で主導権を発揮しなければ、と考える。しかし、融資しても返済猶予となれば、中小企業への融資が多い地域の金融機関は利益が減り、大きな打撃を受けるため、銀行は新規の貸し出しに慎重になり、貸し渋りを強めることにもなりかねない。そこで、大塚耕平金融副大臣がトップのワーキングチームで検討した結果、9日に「貸し渋り・貸し剥がし対策法案」の骨子をまとめた。「ラテン語のモラトリアムは返済猶予と言うより『遅れる・遅延する』と言う意味合いが強い」とし、猶予の表現は避け「貸し付け条件の変更」(猶予)制度を創設することにした。これは貸借契約を反故にしないことが前提で、①貸し手と借り手の話し合いで合意できれば3年程度、制度を適用する②借り手が破綻した場合は各地の信用保証協会と連携し、国の緊急保証制度を使って事実上政府が肩代わり(損失補填)する――などが盛り込まれる見通し。今後、猶予を元本に限るか、金利の支払いまで含めるかなど対象の範囲を細かく検討し成案を得れば臨時国会に提出する方針だ。

民主、国民新間でさや当て
「あの方は、私の主管事業に『こう絵を描く』と言える立場じゃありません」――。郵政改革担当を兼務する亀井氏は、就任早々の記者会見で郵政でも素早い対応を示した。原口一博総務相がやはり就任の会見で「郵政持ち株会社と郵便局・郵便事業会社を統合し、金融2社を傘下に収め、3社へ再編する」と、見直しの1試案を示したのに対し、不快感を表したものだ。国民新党内では郵便、貯金、保険の3事業をより一体的に運営するためには1社に集約すべきだとの意見が強く、社民党ともほぼ合意している。このため、郵政民営化見直しをめぐって、民主党と国民新党の間で早くもさや当てが始まっている。原口総務相は郵政に関する法律上の許認可権限を持つが、亀井担当相は首相から「郵政の見直し・改革推進の企画・立案担当」の辞令を受けており、専任大臣として抜本的見直し改革への意気込みは強い。5日の都内講演で、「10月いっぱいに新体制を国民に具体的に示さないといけない」と述べ、月内にも西川善文社長の退任を含め全経営陣を刷新する考えを示し、「出処進退はご自身で考えてもらうのが礼儀だ」と指摘、西川社長ら現在の役員が自主的に退任するよう促した。原口総務相も翌6日の会見で「私も10月中に体制を一新すべきだと思っている」と同調した。

小泉改革に協力の財界を批判
西川社長の後任には、JR東日本の副社長を務めた後、りそなの経営再建に貢献した細谷英二現りそなホールディングス会長の名が浮かんだが、本人は否定した。日本郵政の経営陣には西岡喬会長(三菱重工業相談役)のほか、元経団連会長の奥田碩トヨタ自動車相談役、牛尾治朗ウシオ電機会長、丹羽宇一郎伊藤忠商事相談役ら錚々たる財界人が社外取締役に名を連ねている。経営陣の総退陣となれば後継人事の人選は大変難しい。亀井氏には小泉政権の構造改革に協力した財界が日本社会を荒廃させたとの思いが強く、日本経団連の御手洗冨士夫会長と今年5月ごろ会談した際に「昔の経営者は景気の良いときに中小企業に(資金を)分け与えたが、今は内部留保としてため込んでリストラしている」と述べ、派遣契約の解除などを実施した大企業や経団連を批判したという。これに対し御手洗会長は「私どもの責任ですか?」と尋ねたそうだ。亀井氏は5日の都内講演でこの会談のエピソードを披露し、「日本で親子や兄弟、夫婦といった家族間の殺人事件が増えているのは(企業が)人間を人間として扱わなくなったためだ」と経営者側を厳しく批判した。

連立解消前成立に脱兎の勢い
亀井氏はモラトリアムであれ、郵政改革であれ、亀と言うより“脱兎の勢い”で政局に取り組んでいる。それは何故か。小沢一郎民主党幹事長の戦略に負けないためである。衆院308議席と圧勝し、参院109議席を保有する民主党は戦艦大和。衆院7、参院5の社民党はヨット、綿貫民輔代表、亀井久興幹事長が討ち死にして衆院3、参院4議席の国民新党は、衆院勢力比1%足らずの艀(はしけ)の存在だ。それでも民主党は、参院では“ねじれ現象”にあるため、民・社・国連立政権を組まざるを得なかった。しかし、25日の参院神奈川・静岡選挙区補選で仮に同党が2連勝すれば過半数まで後1議席に迫る。来年7月の参院選での単独過半数獲得は夢ではない。小沢氏は表向き否定するが、連立が解消されるのは確実だ。そのため、亀井氏は臨時国会で郵政株売却凍結法案が継続審議になっても、次期通常国会で必ず成立させる腹を固めた。また、国民新党が自民、民主両党の谷間に埋没しないよう、郵政の全特が来年擁立する組織内候補の長谷川憲正氏のほかに、比例区でもう1人ぐらい候補者を立てたいところだ。それには、かつて中京地区で中小企業の支持を得て民社党を率いた故・春日一幸委員長のように、銀行からの借金返済を猶予する措置など中小企業に対する手厚い施策を講じ、党勢を拡大したいと考えているようだ。