第194回(5月1日)海賊対処法今国会成立へ 修正協議は物別れ
アフリカ・ソマリア沖の海賊対策の新たな根拠法となる海賊対処法案は4月24日、衆院本会議で自公与党が賛成して可決後、参院に送付された。衆院での与野党の修正協議は合意できなかったが、民主党が早期採決に応じる方針を固めているため、参院での審議は長期化せず、今国会で成立する見通しだ。政府は既に自衛隊法に基づく海上警備活動を発令して護衛官2隻をソマリア沖アデン湾に派遣しているが、①護衛対象が日本関係船舶に限られ、外国船を守れない②武器の使用が正当防衛・緊急避難に限られ、停戦命令に従わない海賊船への船体射撃が出来ない――ことを理由に、①②を可能にする新法案を提出、早期成立を目指していた。これに対し、民主党は①海賊対処は海上保安庁のみが行い、対応が困難な場合は国土交通相の要請を受けて「海賊対処本部」(本部長・首相)が対応②自衛隊が海賊対処業務を行う場合、自衛官らは本部員(隊員)の身分を「併有」③海賊対処業務の実施に国会の事前承認を義務づける――などを柱とした修正案を提出、与野党は双方の妥協点を模索する修正協議を進めていた。しかし、衆院海賊対処・テロ防止特別委員会(深谷隆司委員長)の審議では、「海賊対策の主体は海自か海保か、国会の関与は事後報告か事前承認か」を巡り与野党が対立。修正協議も歩み寄ることが出来ず、決裂した。

P3C哨戒機にも派遣命令
海上自衛隊の護衛艦「さざなみ」と「さみだれ」によるソマリア沖の海賊対策は3月30日から始まった。同海域を航行する日本関係船舶は1日平均6隻で、年2000隻以上にも達するが、東西約900キロの海域を5隻の船団を組んで往復するだけでも5日程度かかり、5日間で10隻、1年間では730隻が限界で3分の1しか警護対象とならない。ソマリア沖では米英仏中など約20カ国の海軍艦船が警護活動に従事しているが、今年の海賊被害は22日現在、87件に上り、早くも昨年1年分の111件の半分を超している。護衛艦が警護活動を開始する直前の3月22日には商船三井の自動車運搬船「ジャスミン・エース」が銃撃された。襲われたのは護衛艦の活動海域の南約1500キロで、スエズ運河―アデン湾―インド洋の航路とともに、南アフリカのケープタウンを経由する海上交通の要衝だ。さらに警護が手薄なソマリア東方沖にまで被害が拡大している。このように広範囲の警戒が必要なため、浜田靖一防衛相は17日、海自P3C哨戒機の派遣準備命令を出した。ソマリアの隣国ジブチと地位協定を結び、哨戒機駐機場を警護する陸上自衛隊も派遣、空から海賊を監視し、海自の護衛艦だけでなくソマリア沖一帯の海賊掃討に参加している米国や欧州連合(EU)など約20カ国の海軍に情報を提供していく方針だ。

護衛艦が外国船を3回保護
ソマリア沖で日本船舶の護衛に当たっている護衛艦2隻は、20日までに4日夜と11日午前、17日の3回にわたり、自衛隊法82条に規定する海上警備行動の対象外の外国船を保護する事例が起きている。いずれも「海賊らしきものに追われている」と無線通報を受けて現場に急行、夜はサーチライトを向け、大音響を発する装置を使ってソマリ語で「海上自衛隊だ」と伝えると離れていったという。外国船を襲う海賊を追い払うことは、日本関係船舶のみが対象の海警行動では法的根拠がなく、武力攻撃することもできない。防衛省は「船長は他の船舶の遭難を知った時は人命の救助に必要な手段を尽くさなければならない」とする船員法14条に基づいた活動だと説明、首相も14日の衆院本会議で「強制力を伴わず問題はない」と答弁した。しかし、野党は衆院海賊・テロ特委で「警護対象外の外国船を保護したのは海上警備行動の脱法行為、なし崩し的な拡大行為になってしまう」と追及、浜田防衛相は「人道上の観点から、強制力の行使を伴わない行為として行ったものであり、指摘は当たらない」とかわし、私も防衛副大臣として何度も答弁に立った。

海外派遣・武力行使と反対
ただし、現行の海警行動では、護衛艦が外国船と海賊の間に入っても、不審船が護衛艦の制止に応じない場合は警告射撃しか出来ない。海賊から攻撃を受けた時点で「正当防衛・緊急避難に当たる」と判断して初めて応戦が可能になる。この弱みを知れば海賊が傍若無人に振る舞うだろうし、重火器で装備した海賊側が先にロケット・ランチャー砲を撃ち込んで来れば海自隊員が危険にさらされる。この点を考慮して、海賊対処法案は、警護対象を日本関係船舶に限らず「すべての船」に拡大、「停戦命令に従わない場合、海賊船への船体射撃を認める」ことにしている。政府は27日提出の補正予算案に海賊対策費40億円を計上した。海自が支障なく任務を遂行し、混乱を回避するには一刻も早い同法成立が望まれる。政府案は海警行動と同様、「海上保安庁が対応できない場合、防衛相が自衛隊に命令」とし、海賊対策の主体を海上の警察権を持つ海保に置くことを第一義的な原則としている。これに対し、社民党などは「自衛隊の海外派遣と武力行使」を狙ったもので、明らかに憲法9条違反であると反対、海賊根絶のためソマリアの政情安定化に向けた支援や周辺国の海上保安能力向上の人材育成など国際協力を求めている。民主党案も「防衛相命令」でなく「新設する海賊対処本部(本部長・首相)の下で自衛隊が活動」としている。

警察行動は国会報告で十分
野党は衆院海賊・テロ特委で、「自衛隊派遣ありきではないか、という国民の疑問は払拭できない。海保の大型巡視船『敷島』は海自の護衛艦並みだし、『みずほ』『やしま』という小型巡視船もある。なぜ海保では出来ないのか」と追及し続けたが、金子一義国交相は「日本からの距離、海賊が所有する武器、各国軍隊が対応していることを勘案し、現状では困難である」と否定、ソマリア沖に派遣するための巡視船は5隻必要で、約1750億円の予算と、造船に4年かかるとの試算を提示した。一方、国会の関与の在り方について、政府案では、自衛隊の活動は海警行動の一環として「対処行動の承認時と終了時に国会へ報告」としているが、民主党案は、自衛隊の海外派遣として「事前承認の義務づけ」を主張。与野党の修正協議でも文民統制の観点からきちっと「事前承認」を法案に盛り込むよう強く求めた。だが、麻生首相は「海賊行為への対処は(それこそ第1義的に)警察行動だ」と述べ、国会の関与は政府案通り事後報告で十分との考えを示した。政府与党内でも「海警行動は国会報告すら義務づけていないのに、海賊対処で国会承認を義務づけるのはバランスを欠く。参院でのねじれ国会の状況を考えると、不承認で帰還するなど現場が戸惑うような制度は困る」との主張が多く、与野党の修正協議では妥協に至らなかった。

民主内に大きく隔たる意見
読売新聞は社説で民主党案について、「海賊対処本部は、国連平和維持活動(PKO)を所管する国際平和協力本部がモデルだが、防衛省の屋上屋になりかねない。海自艦船は統合幕僚監部が指導するのが最も効率的だ」と旧社会党的な発想を問題にし、国会承認についても、「領海侵犯時などの海上警備行動には国会報告さえ義務づけられていない。国会承認が必要なのは、防衛出動や治安出動など、きわめて限定された自衛隊の行動だ」と批判している。民主党内には自衛隊の海外派遣を巡って、旧社会党系の絶対反対派と自民党に近い容認派との間には大きな意見の隔たりがある。従って、民主党が参院審議で海賊対処法案に一枚岩で反対したり、他の野党と連携して阻止するのは難しいと見られる。同党の修正案は旧社会党系を納得させるための内容だ。この辺りを読み込んで、同党の山岡賢治国対委員長は記者会見で、「大型連休後は09年度補正予算案などに集中する」として、連休前の衆院通過を容認したと見られる。同党は参院審議でも「いたずらに審議引き延ばしはしない方針」(幹部)であり、与党も会期内成立の確度は高まったと見ている。