第192回(4月1日)北が人工衛星打上げ 弾道ミサイル破壊命令
北朝鮮は4月9日、国会に相当する最高人民会議を平壌で開くが、開催前日までの4~8日間に「人工衛星を打ち上げる」と予告した。日本海側の北東部の舞水端里ミサイル基地で、「テポドン2」(射程4300~6000キロ)を発射台に設置する作業を開始したことが衛星の偵察で分かった。北朝鮮が2月24日、「朝鮮宇宙空間技術委員会」報道官の談話で弾道ミサイル発射を再予告したのは、クリントン米国務長官がアジア歴訪(同15~22日)で対北政策の「日米韓連携」を強調したことへの揺さぶりだ。人工衛星による「宇宙の平和利用」の目的を打ち出すことで国際非難を交わそうとする狙いが込められているが、人工衛星発射を隠れ蓑にミサイル開発を進めているのは明白。政府は3月27日、安全保障会議(議長・麻生首相)を開き、北朝鮮のミサイルが打ち上げに失敗し日本に落下する場合に備え、自衛隊法82条に基づく「弾道ミサイル等破壊措置命令」を発令した。衆院安全保障委では、ミサイル破壊命令、海賊対処法案などを巡り論戦が展開されよう。

PAC3やイージス艦配備
「直接被害が及ぶのであれば、自衛隊法で対応できる」――。首相は記者団に、「日本に落ちるかも知れない物は無視しない」との態度を表明した。06年改正の自衛隊法の破壊措置命令には、ミサイルなどが①「日本に飛来する恐れがある」時に閣議決定を経て防衛相が命じる②「日本に飛来する恐れがあるとは認められない」が、事態の急変に備え、あらかじめ防衛相が判断し原則非公開で命じる――の2種類ある。ただ、発令した場合でも、北朝鮮が国際機関に通報した計画通り、日本の上空を通過する軌道を取れば、迎撃は出来ない。打ち上げ失敗などで、弾頭部分やブースターなどが日本の領土・領海に落下すると判断した場合にのみ迎撃対象となる。政府は25日に官房長官、防衛相、外相による3相会合を開き、最終判断をした。防衛省は関東や中部地方の航空自衛隊基地にある迎撃用の地対空誘導弾パトリオット3(PAC3)を、ロケットが通過すると見られる秋田、岩手両県など東北地方と、都心の防空を強化するため、陸自の習志野演習場、市ヶ谷、朝霞両駐屯地などに配備する。海上配備型迎撃ミサイル(SM3)を搭載したイージス艦2隻も日本海に展開させ、発射に備える。政府は北朝鮮がロケットを発射した時に国民に瞬時に周知するため、全国瞬時警報システムの使用なども検討している。

緊急事態の迎撃を最優先
北朝鮮は98年8月にテポドン1号を発射。日本を飛び越え、1部が三陸沖の太平洋状に落下した。発射4日後に「人工衛星だった」と主張し「白頭山1号」と命名した。06年7月にテポドン2号など7発のミサイルを発射したが、失敗し空中分解した。翌日に「軍事訓練の一環」と主張した。今回は「銀河2号」と呼ぶそうだが、日本がミサイル迎撃の法律と装備を備えた後、初めて迎える危機だ。政府は07年に迎撃用の海上型配備SM3と地対空PAC3の配備を始めた。現在、日米の情報収集衛星などにより情報分析を進めている。発射の兆候があれば官房正副長官、副長官補、内閣危機管理監らが首相官邸で対応を協議。日本に飛来する恐れがある場合、首相を議長とする安全保障会議を開き、首相の承認を得て防衛相が破壊命令を出す。飛来の恐れがあるとまで認められない場合も、事態が急変し首相の承認を得る余裕がないことを想定し、防衛相が安保会議を経ずに破壊命令を出しておくことも出来る。その後、日本飛来の可能性が出てきた場合、時間的余裕があれば首相の承認を得るが、間に合わなければ、そのまま迎撃を行う。このように緊急事態の迎撃を最優先に考え、首相の承認なしで行う破壊命令を、政府は公表しない方針だ。

大気圏外と圏内の二段構え
日本版の弾道ミサイル防衛(BMD)は、米国の早期警戒衛星などが発射を探知したミサイルを、SM3が大気圏外で迎撃する。撃ち漏らした場合はPAC3が大気圏内に再突入したところを撃ち落とす二段構えの作戦だ。だが、SM3は08年のハワイ沖での実験で、標的を見失い失敗した。しかも、これを積むイージス艦2隻のうち「こんごう」は改修中で、使用可能なのは「ちょうかい」だけ。PAC3は防衛範囲が半径数十キロに限られ、配備済みの関東や中部地方以外にミサイルが飛来すれば、対応できなくなる。ミサイルが明らかに日本を標的にしている場合は問題ないが、日本上空を通過し、米国に向かった場合、日本が迎撃すれば、憲法が禁じる集団的自衛権の行使に当たる恐れがある。システム上、発射されれば着弾地域が日本の領域内かどうかの判断は出来るが、日本に届くまでは約10分しかない。判断に迷って迎撃を見送ったり、迎撃に失敗して、現実にミサイルが国内に着弾すれば「何のために巨費を投じたのか」との批判を招きかねない。またも政府筋が23日、迎撃ミサイルについて「当たらないと思う」と述べ、中曽根弘文外相も24日の会見で「難しいのは事実」と失敗を認める発言をしたため、26日の参院予算委で追及された。鴻池祥肇官房副長官は「ピストルの弾同士が当たるのは、難しいことだなあと思っている」と、迎撃困難の認識を示したが“政府筋”発言にはノーコメントを通した。政府高官のオフレコ会見記事が問題になるのは漆間厳官房副長官に次いで2度目だ。

迎撃に北は報復打撃と警告
日本が迎撃態勢を固めているのに対し、北朝鮮の朝鮮人民軍総参謀部は9日、「我々の平和的な衛星に対する迎撃行為には、最も威力のある軍事手段で即刻対応する」との報道官声明を発表。その中で、「迎撃手段(への反撃)だけでなく、(日米韓の)本拠地に対する報復打撃戦を始める。迎撃は戦争を意味する」と警告した。声明は9日から始まった米韓合同軍事演習に合わせて発表されたもので、南北朝鮮間の軍事通信を同日から演習期間の20日まで遮断することも主張した。軍事通信は開城工業団地用にも使われており、支障を来した。20日訪中の浜田防衛相は、北京市内で呉邦国・全国人民代表大会常任委員長、梁光烈・国防相と相次ぎ会談した。呉氏との会談では、北朝鮮が人工衛星と主張しても、ミサイルが発射された場合には国連安保理決議違反に当たるとの日本の立場を説明し、北朝鮮に自制を促すように要請。呉氏は「人工衛星の問題は関係国の冷静かつ適切な対応が必要だ」と答えた。梁氏も「北朝鮮が撃たないのが一番よい」との認識を示したという。

祝賀行事にテポドン花火
北朝鮮の最高人民会議は、3月8日の代議員選挙で改選された金正日総書記ら687人が出席、国家最高のポストとされる国防委員長に金総書記を3選するほか、対米関係や南北関係などに言及すると見られる。さらに、故金日成主席の誕生日など祝賀行事が続く。テポドン発射はその打ち上げ花火だが、韓国政府は「発射成功を祝い、金総書記の健康問題などで動揺した国内を結束させる狙いがある。それに、将来のミサイル交渉を有利に進めるための技術確立の狙いもある」と見ている。韓国の柳明・外交通産相は20日、「北がミサイルを発射すれば、PSI(大量破壊兵器の拡散防止構想)に全面参加を検討する契機になる」と記者団に語った。朝日新聞によると、2段式長距離弾道ミサイル「テポドン2」の射程は6千キロ以上でアラスカなどに到達できるとされる。日米韓は今回、発射準備を進めている本体は「テポドン2」を改良した3段式ミサイルの可能性があり、射程に入る米本土の範囲が大幅に広がる恐れがあると見ている。北朝鮮は85年頃からイランとの間でミサイル開発の協力協定を結んだとされ、イランは2月に初の国産人工衛星の発射に成功。北朝鮮も成功に向けて自信を持ったと、報じている。

国連決議か議長声明で非難
首相は13日の朝日新聞インタビューで、「たとえ人工衛星だとしても国連決議に違反している。日本は断固、国連安保理に話を上げる」と述べた。1月から国連安保理事会の非常任理事国を務めている日本は米韓両国と協力、ミサイル発射と同時に安保理の緊急会合の召集を要請、新たな制裁決議の採択を各理事国に働きかける方針だが、中国やロシアが拒否権を発動して安保理決議がまとまらない場合は、理事国の全会一致による議長声明で北朝鮮を非難することを目指している。一方、首相は19日の参院予算委で「4月13日に制裁期限が来るので、延長するしないという問題から、制裁をさらに強めるという案も含めて、総合的に判断したい」と述べ、日本独自の経済制裁を強化する可能性を示した。だが、昨年8月の日朝実務者協議で合意した拉致被害者再調査のための委員会立ち上げの見返りとして、日本が北朝鮮に科してきた制裁のうち、人的往来と航空チャーター便の再開を約束した経緯もあり、制裁にこれという妙案はなく難しい局面にある。