第187回(1月16日)寒風の越年派遣村 雇用・賃上げ春闘激化
3月末までの「派遣切り」「雇い止め」は当初の予想よりも5万5千人増えて8万5千人に達するという。師走に解雇通告を受けて社宅や寮から追い出され、寒空の下で路頭にさ迷った非正規労働者は全国で数千人を数えた。東京の日比谷公園では「年越し派遣村」が設置され、大晦日から正月5日まで炊き出しに行列が出来た。ネットカフェやマンガ喫茶で年を越した人も多く、都市の公園や河川敷には水色テント、段ボール箱のベッドが立ち並び、トヨタの城下町・名古屋市でも「越年集会」が開かれ、離職者は寒さに打ち震えた。まさに「不況難民」の姿だ。国会では深刻な雇用問題で与野党が斬り結んでいるが、殺伐とした労働環境の中で久々に賃上げ要求が強まるなど本格的な春闘が戦われつつある。雇用情勢の急激な悪化は一刻も早く救済しなければならないが、農業、漁業ともに高齢化が進んで後継者不足に悩んでいる。私は前水産部会長として、若者たちに故郷や地方へのUターン、Iターンを促し、減反政策見直しに伴う飼料米栽培や水産振興、「緑の雇用」などに就労させる好機であると考える。それには魅力ある農水産業を育成することが肝心だ。

非正規は雇用労働者の34%
厚生労働省の昨年調査では10月から半年間に職を失う非正規労働者は3万人に達すると見込んでいたが、その後8万5千人に増加したことが分かった。大量に首を切ったのは財界総理こと御手洗冨士夫経団連会長が会長を務めるキャノンと奥田碩前経団連会長が相談役のトヨタ、岡村正日本商工会議所会頭が会長を務める東芝など我が国を代表する基幹産業。ソニーも全世界で1万6千人の人員整理を発表するなど大手が続々とリストラを断行した。非正規労働者は雇用労働者の34%の1780万人を占め、年収2百万円以下のワーキングプアが多く、生活保護者と変わらない生活を送っている。高度成長を支えた原動力の終身雇用、年功序列型賃金はどこへ行ってしまったのか。今年の春闘はいびつな姿の雇用を少しでも改善し格差社会をなくそうとするものだ。電機産業労使などを中心に4千円から7千円のベースアップを要求、十数年聞かれなかった「賃上げ」が復活した。労使間では1人当たりの仕事を減らして雇用を分かつワ-クシェアリングが協議されている。

安全網なく正規の足引く死錘
労働運動全盛の昭和35~45年代、太田薫議長、岩井章事務局長率いる総評は、高度成長期の労働力売り手市場を背景に「ウソ8百万」人とも呼ばれた強大な組織力を動員、ベア要求、最低賃金制確立、労災撲滅などで堂々とゼネストを打ち、成果を挙げた。とりわけ、期間労働・日給制臨時職員などは、正規社員の防波堤や調整弁の扱いを受け、正社員の足を引っ張る「死錘」になるとして総評は差別解消運動を展開した。ところがバブル崩壊後、橋本政権時代の金融ビッグバンで、経営者は4半期ごとの業績開示が求められ、コストを削減し利益最大化を図らねば株式代表訴訟が待っている事態となり、労使環境は様変わりした。さらに、市場原理主義を唱える小泉政権は「小さな政府」の規制緩和と取り組み、04年には職業の多様化と称して、経営者が心を痛めず野放図に労働者を切り捨てられるよう派遣労働者を製造業にも解禁、07年3月には勤務期間を最長3年まで延長したため、製造業の派遣労働者は46万人に達した。その多くが来年中に期間を満了する。非正規労働者は雇用保険、年金など社会保険の未加入者が多く、失業保険などが貰えず、セーフティネット(安全網)が欠落しており、中央と地方、個人間の格差社会が増大した。

労働者は帰属意識・忠誠心喪失
トップ企業の経営者は株主に目を向け、利益最大化には手段を選ばず企業倫理を忘れ、株主の配当に備えてしっかり内部留保をため込み、派遣労働者を血も涙もなく切り捨てるようになった。そればかりか、優良な人的資産である正規社員にも退職金割り増しの早期退職制度を活用して退職の「肩たたき」勧告をするなどリストラを進めている。就労者は企業に対する帰属意識が薄れ、企業忠誠心(ロイヤリティ)を失ってしまった。悲惨なのは内定取り消しを受けた今春卒業の学生達だ。就職先の資料を取り寄せ勉強していた矢先に突如取り消しの通知が届いた。来春卒業予定の大学生や高校生のうち、昨年11月までに87社、331人が採用内定を取り消されたが、さらに増えて約770人に達するという。100万円程度の補償金を貰っても新卒肩書きの取り返しが付かず、やむなく留年する学生が多いようだ。失業者の増加で購買力は減る一方。輸出産業が円高で打撃を受けるなら、内需拡大で景気を回復しなければならない。デフレスパイラル、景気の悪循環を断ち切るには雇用を確保し、日本経済の約6割を占める個人消費を盛んにする必要がある。

離職者に手厚い生活防衛予算
首相が「生活防衛のための大胆な実行予算」と名付けた09年度予算案の中では離職者対策を重視している。本予算案には、①住居を失った離職者への家賃補助(最大36万円)、入居初期費用(最大50万円)、生活・就職活動費(最大100万円)の貸し付け=計255億円②25~39歳の年長フリーターなどを正規雇用する企業向け支援として大企業に一人当たり50万円、中小企業に100万円を支給=250億円③ハローワークでの「福祉人材コーナー」の設置=159億円④企業と家計負担軽減のため雇用保険料の料率を1・2%(労使折半)から0・8%に引き下げる――ことにしている。これに対し野党は、昨年の臨時国会で廃案になった、①新卒者内定取り消し規制の「労働契約法改正案」②解雇者救済の「住まいと仕事の確保法案」――など4法案を再提出し、政府の定額給付金制度を第2次補正予算から削除し、その給付財源を雇用の財源とするよう迫っている。

貧困者駆け込み寺の共産党
野党案は①契約打ち切りで寮などから退去を迫られた非正規労働者の住宅確保や生活支援金最高月額10万円貸与②雇用保険法の適用要件緩和――など非正規労働者救済を重視した内容だが、政府の追加雇用対策に盛り込まれていたり、実施中のものがほとんどで重複が多く、新政策は見当たらない。朝日は11日、「解雇…そこに共産党」の記事を載せ、共産党が貧困者の駆け込み寺になっていると報じたが、日比谷の「年越し派遣村」に300人の予想を超えて500人が詰めかけ、厚労省の講堂を開放するハメになったのは、マスコミ人によると共産党などがホームレスらの約200人に動員をかけたからだという。これを聞いたせいか、坂本哲志総務政務官は「本当にまじめに働こうとしている人が集まっているのかという気もした」と述べたが、野党から罷免要求を出されて直ちに発言を撤回し、謝罪した。坂本氏は熊本の地元など地方で、寒空の下の支援が少ない悲惨な解職者と比較して見れば「派遣村に集まった人たちはむしろ恵まれている」と思ったに違いない。

政府、自治体も雇用対策に懸命
厚労省は12月26日、「雇用・能力開発機構」の合理化計画で、廃止・譲渡などの処分が決まりながら新規の入居を停止している雇用促進住宅約7万3千戸のうち、空き家になっている約4万5千戸を非正規労働者の住宅確保策に活用することを決めた。総務省も、地方自治体が失業者に行う年末・年始の緊急雇用・居住者安定確保対策の費用を、08年度予算の特別交付税で5~8割を財政支援すると通知した。愛知県は期間従業員ら約2百人を2ヶ月間、河川や道路の点検など臨時職員に雇用、神戸市、岐阜県大垣市なども臨時職員として採用するなど地方自治体の救援活動は活発化している。失業者を雇おうとする回転寿司大手の「元気寿司」や外食産業、パチンコグループ、学習塾なども現れている。政府与党は日雇い派遣の原則禁止や製造業への派遣を見直すなどの労働者派遣法改正案を検討中だが、オバマ米新政権の向こうを張って、日本版グリーン・ニューディール政策を3月中旬にもまとめる方針である。

U・Iターン若者に農漁業習熟を
少子高齢者社会の進展で過疎地の危険集落や後継者不足の農山産漁村が増えているが、ボランティアの集落支援制度員派遣活動などを通じ若者の間に故郷回帰や地方勤務を望むUターン、Iターン現象が徐々に増えてきた。日本は環境・省エネ対策で世界のトップクラスだが、医療・介護ケアや植林・間伐などの「緑の雇用」に雇用を拡大することが肝要だ。若者には農漁業や介護ケアの技術を習熟させる高校教育、専門校を充実させ、産直販売など流通機構の合理化と生産手段の省エネ化を図り、農漁業を魅力ある職場に改善する必要がある。農漁業の振興は、過疎、雇用対策の両面からも最重要の課題であると考える。