第183回(11月16日)給油活動延長法成立 空幕長更迭で紛糾
インド洋での給油活動を継続する新テロ対策特別措置法改正案は11月20日、ようやく衆院で再可決・成立する。同法に協力姿勢を見せていた民主党が衆院解散の先送りに反発、参院で審議を引き延ばしたからだ。同党は、田母神俊雄航空幕僚長(空将)が政府見解に反する論文を発表し更迭されたことでも、同氏を11日の参院外交防衛委員会に参考人として招致し、責任を追及した。論文は民間の月刊誌に応募して最優秀賞を得たというもので、太平洋戦争に関し「我が国が侵略国家だったというのは濡れ衣だ」などと主張している。組織上の問題は、航空幕僚監部教育課が全国の部隊に懸賞論文の応募要領を紹介、97人の空自隊員が応募していたことだ。浜田靖一防衛相は田母神氏を定年退職扱いにしたが、野党は懲戒免職を要求し、文民統制の観点から政府の任命責任、再発防止策などを巡って厳しく追及した。時あたかも、守屋武昌前防衛次官が懲役2年6月の実刑判決を受けた。浜田防衛相は、制服組、背広組のトップによる不祥事のダブルパンチに見舞われ、「国民に不信感を持たれた。態勢を組み直して頑張っていきたい」と記者団に語った。私も同様に隊員の志気に影響する2つの暗い事案に心を痛め、再発防止策に取り組んでいる。

大東亜戦争はAA諸国解放
航空自衛隊トップの田母神航空幕僚長(60)は、10月31日深夜の持ち回り閣議で更迭された。論文は田母神氏が、ホテル・マンション経営のアパグループ(本社・東京都港区)の懸賞論文に応募して3百万円の最優秀賞を受賞したもの。11月5日発売の同グループが発行する月刊誌に掲載された「日本は侵略国家であったのか」と題する論文は、「今なお大東亜戦争で我が国の侵略がアジア諸国に耐えがたい苦しみを与えたと思っている人が多い。しかし、私たちは多くのアジア諸国が大東亜戦争を肯定的に評価していることを認識しておく必要がある」と主張。①日本は相手国の了承を得ないで朝鮮半島や中国大陸に軍を進めたことはない②蒋介石により日中戦争に引きずり込まれた被害者だ③日米戦争は米国によって慎重に仕掛けられたワナだ④大東亜戦争後多くのアジア・アフリカ諸国が白人国家の支配から解放された⑤集団自衛権も行使できないがこのマインドコントロールから解放されない限り国を自らの力で守る体制が完成しない――などを挙げた。田母神氏は昨年5月、空自の部内誌「鵬友」にも同じ趣旨の論文を投稿しており、定年退職後の記者会見でも「政府見解に反論できないなら北朝鮮と同じだ」と述べるほどの確信犯的な行為だ。

村山首相談話を大きく逸脱
田母神氏は防衛大15期生で1971年に航空自衛隊に入隊、航空総隊司令官などを経て2007年3月に空爆長に就任した。同氏は歯に衣着せぬ発言をする性格が“ネアカ”のタイプで、イラクでの航空自衛隊による空輸活動の一部を違憲とした今年4月の名古屋高裁判決に対し、定例記者会見で、「私が(隊員の)心境を代弁すれば、大多数は『そんなの関係ねぇ』という状況だ」と、お笑いタレントのギャグを引用してコメントするなど、ユニークな言動とストレートな物言いが省内でしばしば波紋を広げていた。しかし、今回の論文は、過去の植民地支配や侵略について「反省とお詫び」を表明した1995年の村山首相談話から大きく逸脱し、日本政府の外交方針の根幹に反する内容だ。また、防衛省の内規に反し、論文発表を事前に届け出ていなかったため、浜田防衛相が田母神航空幕僚長を更迭し、航空幕僚監部付きとした。スピード更迭は新テロ対策特措法改正案の審議に影響が出るのを懸念したからだ。自衛隊の最高幹部が言動を理由に更迭されるのは、1978年に栗栖弘臣統合幕僚会議議長が金丸信防衛庁長官に更迭されて以来のこと。

政府見解と異なり「不適切」
栗栖氏は「現行の自衛隊法には不備な面が多く、奇襲攻撃を受けても法的に即応出来ない場合がある。その際は第一線指揮官が独断で超法規的な行動をとるだろう」と記者会見で述べた。この「超法規的」発言がシビリアンコントロール(文民統制)の考え方に誤解を招くとして解任された。田母神氏の場合は内規違反の問題もある。自衛隊員は論文を外部に発表する際、文書で届け出るよう内規で義務づけているが、田母神氏は投稿前に中江公人官房長に「職務に関係ない個人的な論文を出す」と口頭で伝えただけだった。浜田防衛相は31日夜の記者会見で「空幕長の立場で政府見解と異なる意見を公にすることはふさわしくない。大変不適切だ。空幕長という要職にとどまることは望ましくない」と説明。麻生首相も同日夜、首相官邸で「個人的に(論文を)出したとしても、立場が立場だから、適切でない」と記者団に述べている。村山談話は先の大戦を「国策の誤り」と明確に認め、日本の植民地支配と侵略」により、「とりわけアジア諸国の人々に対して多大の損害と苦痛を与えた」として「痛切な反省の意を表し、心からのお詫びの気持ちを表明」している。

侵略や植民地支配を正当化
歴代内閣は、村山談話を基盤に近隣アジア外交を展開しており、麻生首相もこれを踏襲する考えを表明してきた。だが、田母神論文は「日本が大東亜戦争を戦わなければ、現在のような人種平等の世界が来るのが100年、200年遅れていたかも知れない」などと日本の侵略や植民地支配を正当化し、村山談話が「損害と苦痛を与えた」とした点でも、「多くのアジア諸国が大東亜戦争を肯定的に評価している」と異論を唱えた。浜田防衛相が中国や韓国などの反発を考慮し、早急に空幕長を更迭するよう首相に進言したのは当然だ。持ち回り閣議の迅速な人事は対外的に効果を表した。中国は1日、外務省の副局長が「自衛隊の現役高級幹部が公然と歴史を歪曲し、侵略を美化したことに驚き、憤慨している」との談話を発表したが、一方では「両国はともに努力して、中日関係の大局を守らなくてはならない」と述べ、この問題で両国間の摩擦が強まらないよう望む姿勢を示した。

任命責任や文民統制を追及
韓国外交通商省報道官も「歴史の真実をごまかすもの」と非難し「過去の過ちを謙虚に反省し、歴史の教訓にすることが善隣友好関係の根幹で、歴史歪曲が繰り返されてはならない」と指摘したが、日本政府の責任には言及しなかった。両国とも日本政府の「素早い対応」を評価したものだ。むしろ、いきり立ったのが民主党。鳩山由紀夫幹事長は1日、千葉県の街頭演説で「更迭して『はい、それまで』と首相が思っているなら、とんでもない間違いだ。参院で深く掘り下げる」と意気込み、4月の名古屋高裁判決に対する田母神氏の『そんなの関係ねぇ』と茶化した発言にも触れ、田母神氏の歴史認識や防衛省・自衛隊の人事・組織の在り方を徹底的に批判した。輿石東参院議員会長も「直接の任命責任は防衛相にあるが、防衛相を任命した首相にも責任がある」として田母神氏の参考人招致を求め、「政府の任命責任とともに、論文発表を正式に文書で届け出ていなかった点についても文民統制の観点から追及する」と述べた。同党は次期通常国会で、自衛隊の統合・陸海空の4幕僚長人事に衆参両院の同意を義務づけるよう自衛隊法の改正を求めている。

空自97人が懸賞論文応募
防衛省は本人から辞表の提出がないため懲戒処分も検討したが、手続きが10ヶ月以上も長引く恐れもあることから、国会審議に影響が出ないよう、3日付けで定年退職とした。しかし、田母神氏は同日夜の記者会見で、「(論文内容は)今でも間違っていない。日本は決して侵略国家ではない」と述べたばかりか、「日本が悪い国だという認識は修正されるべきだ。戦後教育による『侵略国家』という呪縛が国民の自信を喪失させ、自衛隊の士気を低下させている。自分のことより国家、国民のことを常に優先した言動を取って欲しい」などの持論を繰り返し強調、国会の参考人招致にも積極的に応じた。アパグループが主催した懸賞論文は「真の近現代史観」がテーマ。応募した自衛官97人の内訳は、佐官級10人、尉官級64人、曹クラス4人などで、うち62人は空自小松基地の隊員だ。11日の国会で野党は「航空幕僚監部教育課が応募要領を紹介したのは田母神氏が呼びかけ、空自が組織を挙げて応募した可能性がある」と追及した。田母神氏は論文募集を教育課長に紹介したと認めたが、応募を指示したことは否定。「自衛官にも言論の自由はあり、政府見解に沿って言論を統制するのはおかしい」と反論し、退職金は自主返納しないと答えた。浜田防衛相は答弁で自衛隊員の教育内容を見直し、チェック体制を強化する考えを示した。

田母神氏の論文要旨は次の通り
【侵略国家】日本は朝鮮半島や中国大陸に軍を進めたが、相手国の了承を得ないで一方的に軍を進めたことはない。我が国は蒋介石により、日中戦争に引きずり込まれた被害者だ。日本が侵略国家だというなら、当時の列強で侵略国家でなかったのはどこかと問いたい。日本だけが侵略国家と言われる筋合いはない。
【日米戦争】日本を戦争に引きずり込むために、アメリカによって慎重に仕掛けられたワナであったことが判明している。大東亜戦争後、多くのアジア・アフリカ諸国が白人国家の支配から解放された。日本が戦わなければ、人種平等の世界が来るのがあと100年、200年遅れていたかも知れない。
【自衛隊】東京裁判は戦争の責任を全て日本に押しつけようとしたものだ。そのマインドコントロールは戦後63年を経ても日本人を惑わせている。自衛隊は領域の警備もできない、集団的自衛権も行使できない。がんじがらめで身動きできない。このマインドコントロールから解放されない限り、国を自らの力で守る体制が完成しない。
【アジア諸国との関係】多くのアジア諸国が大東亜戦争を肯定的に評価していることを認識する必要がある。日本軍に直接接していた人の多くは高い評価を与え、直接見ていない人が残虐行為を吹聴している場合が多い。侵略国家だったというのは正に濡れ衣だ。