第182回(11月1日)海賊対策に海自艦派遣 給油活動法で論戦
インド洋上での給油活動を再延長する新テロ対策特別措置法改正案は、民主党が参院で再び審議引き延ばしに戦術を転換したため、10月成立は見送られた。同法案は同月16日に審議入りし、わずか2日間の審議で衆院を通過したが、首相が解散を先送りしたため、解散の環境作りに協力してきた民主党が一転、慎重審議に切り替えた。新テロ対策特措法は昨年11月に臨時国会の参院で否決され、14年ぶりに越年延長し、60日間の「否決見なし規定」によってようやく1月15日、衆院で57年ぶりの再可決で成立した。改正案はテロ対策に従事する米英パキスタンなどの艦船に給油・給水活動を行う根拠法で来年1月15日に切れる期限を1年間延長するもの。衆院テロ防止特別委員会では民主党が提出した対案の「アフガニスタン復興支援特別措置法案」を並行審議したが、テロ対策が総選挙の争点になることを意識し、自民、民主の双方が相手側法案の問題点を厳しく指摘、活発な論戦を展開した。首相は17日の同委で、激増するアフリカ・ソマリア沖の海賊被害に対し、海上自衛隊派遣の法整備を検討することを明らかにしたが、私は防衛副大臣として野党側の要求も十分考慮し、防衛省内で早急に対応策をまとめたいと考えている。

民主は人道復興支援の対案
 新テロ対策特措法は昨年の臨時国会で野党の審議引き延ばしに遭って2ヶ月間も給油が中断、国際的信用を著しく失墜したが、今回は早期の衆院解散・総選挙を期待する民主党が審議に協力し、衆参両院を通じ実質6日間程度の審議で成立させる段取りだった。だが、解散先送りで民主党は姿勢を硬化させ、対決色が強まった。首相は論戦を通じ、日本が輸入する原油について「9割ぐらいインド洋を通過する。この地域の安全は日本の安全に繋がる」との持論を述べ、給油活動の継続は日本の国益に叶う対応だと強調した。これに対し、民主党委員は「給油活動継続でアフガンの状況は改善されていない。むしろ悪くなっている」と指摘し、同党の対案が提起した貢献策をアピールした。対案はアフガン政府と武装集団との抗争停止合意が成立した場合に、自衛隊や警察官、医師などを現地に1年間派遣し、医療や灌漑施設の整備など人道復興支援活動に従事させる内容で、活動地域も抗争停止合意の場所に限っている。与党委員は「そうした抗争停止合意を満たす地域が現在のアフガンに存在するのか」と質すなど対案そのものを批判したが、民主党側は「明らかに安全な地域はない」と苦しい答弁に終始した。

小沢氏と党の見解相違突く
与党側は「それでは(対案が成立しても)何も出来ない」と責め、小沢一郎代表と民主党の安全保障政策の不一致点についても厳しく追及した。特に公明党委員は、小沢氏が雑誌論文で「給油活動は憲法違反」と主張したことを取り上げたが、答弁者の民主党委員は、「イラク作戦への転用があれば憲法違反の疑義がある」と述べながらも、法案自体は憲法違反ではないとの認識を示し、小沢氏とは見解の相違があることを認めた。さらに、民主党側は、広島県江田島の海上自衛隊員が格闘訓練後に死亡した事故や、防衛医科大大学病院での汚職事件など最近相次いだ不祥事を取り上げ、「防衛省・自衛隊への信頼が揺らいでいる」と、激しく政府批判を繰り広げた。海賊対策に海上自衛隊の艦艇を活用する法整備は、これも首相の持論で、自民党にも与野党で具体策を検討するよう指示している。法整備では艦艇派遣のほか、PC3哨戒機による洋上監視などが検討課題になるが、自衛隊の活用には武器使用基準の緩和が必要で、憲法解釈が議論になると思われる。この点、平和政党を名乗る公明党は大田代表がすかさず「勉強が必要だ」と慎重姿勢を示している。

ソマリア沖で79隻襲わる
海賊被害が激増しているソマリア沖の海域は、スエズ運河によって欧州とアジアを結ぶ海運の大動脈で、通航量は年間約2万隻を数える。日本籍船を含め日本企業が運航を管理する日本関係船舶は2千隻を超えている。海運会社など109社で構成する日本船主協会(前川弘幸会長)によると、貨物船やタンカーなど商船に対する海賊被害は今年急増、1月~9月までに79隻が襲われ、うち22隻が乗っ取られ、乗組員を人質に身代金を要求されている。日本の海運会社などが運航を管理する日本関係船も7隻が攻撃され、2隻が強奪されている。海運各社も海賊対策を講じているが、前川会長は10月10日、「9月だけで日本関係船を含め26隻が海賊に襲撃された。武器を持った海賊を相手に民間で取れる対応には限界がある」とし、海賊掃討に乗り出した各国と連携して取り締まりに当たるよう、同協会の要請書を携えて金子一義国土交通相に申し入れ、危機感を強く訴えた。

対アルカイーダの資金調達
読売新聞によると、海賊被害が集中するアデン湾は、東西約1800キロの長さで、通過するのに2日前後かかるが、常時、日本関係船舶は十数隻も通航しているという。「海賊は国際テロ組織『アル・カイーダ』につながるイスラム武装勢力に資金調達していると見られる。彼らは母船と呼ばれる中型の貨物船の中に、高速艇や漁船などの舟艇を積み込み、襲撃の機会をうかがっている。商船が近づいて来ると舟艇に乗り移ってロケット砲や機関銃などを発砲しながら襲撃、強制接舷して商船を停止させる。銃撃で乗組員が死傷したケースもあり、海賊は船ごと乗組員を誘拐し、数億~数十億円という法外な身代金が支払われるまでソマリア沿岸の港などに拘束する。現在、乗っ取られた各国の貨物船など10隻ほど(乗組員約150人)が拉致されたままで、内戦で無政府状態のソマリアは海賊の無法地帯となっている」――と同紙は報じている。プロのテロ集団なら危険極まりない。

EU合同艦隊で海賊掃討作戦
国連安保理事会は10月7日、欧州連合(EU)が起草し、日本などが共同提案国となった海賊掃討の新決議を採択した。この国連決議1838は、海賊を制圧するため、ソマリアの領海を含めた海上とその上空において、武力行使を含む必要な措置を取るよう国連加盟国に海軍艦船と軍用機の展開を要請している。インド洋の連合任務部隊(米・英・仏・独・加・パキスタン)は、国連が最初の海賊掃討を決議した6月以降、アデン湾に「海上パトロール区域」を設定、商船隊の防護を強化してきた。日本はインド洋やアデン湾で活動する同部隊に、海自が燃料を補給している。ソマリア対岸のイエメンや、海賊被害にあったデンマーク、ドイツ、ロシアなどは、軍艦や航空機を派遣して自国関係船の警護や危険海域の監視に当たっている。それでも、同海域で海賊の襲撃を受け、強奪される商船が後を絶たないため、EUは新決議に沿って合同艦隊を編成、海賊掃討作戦に乗り出した。

護衛艦とP3C哨戒機の2案
首相は17日、「国連決議があり、欧州が本気で取り組んでいる」として、自民党に与野党間で具体策を検討するよう指示した。海賊掃討策としては護衛艦による商船隊の警護、P3C哨戒機による洋上監視の2案が考えられる。しかし、洋上で他国の商船が襲撃されるなどの緊急事態に直面した場合は他国船を警護できる根拠法がなく、武器の使用に制約がある。このため、防衛省内には護衛艦を派遣するよりは、P3Cでアデン湾を警戒・監視し、その情報を湾内にいる他国の軍艦や商船に提供する方が、法整備がしやすいとの意見がある。テロ行為の無法海域は一刻も早く解消しなくてはならない。私はこれらの問題点を入念に検討のうえ、早急に海賊掃討の海自派遣法案を煮詰めたいと考えている。