第180回(10月1日)安保の問題次々浮上 国籍不明艦領海審判
自民党の総裁選、総選挙へと日本の政局が激動する中で、金正日北朝鮮総書記の重病説が流れたり、国籍不明の潜水艦が高知沖で領海を侵犯するなど、安全保障上の問題が次々浮上している。領海侵犯は総裁選・総選挙で生じる政治空白を突いて、我が国の危機管理体制を試そうとしたかのような行動だ。仮に金体制が崩壊し、軍部強硬派が実権を握れば北東アジアの安全保障は一変するだろう。総裁選に出馬した石破茂前防衛相は「北朝鮮で騒動が起き、難民が日本に上陸してくれば、どう対処するか」と集団的自衛権の法的不備を指摘した。08年版防衛白書は、中国の軍事力が地域情勢や日本の安全保障に与える影響について「懸念」を表明している。日中関係は今、友好親善を保っているが、20年連続で2桁の伸びを示す中国の国防費が何に使われているか透明性を欠いたままでは脅威である。私は来年度予算編成で近隣諸国の軍備動向に応じた防衛力の整備を唱える考えだ。

事実か?金総書記の重病説
北朝鮮が建国(共和国創建)60年を迎えた9月9日、金総書記は当然、平壌の軍事パレードを閲兵すると見られたが、なぜか欠席した。閲兵式の不参加は金氏が1991年12月に朝鮮人民軍最高司令官に就任して以来初めて。米国の主要マスコミは、「ここ数週間から数ヶ月の間に、脳卒中か脳梗塞を起こし、四肢が麻痺した可能性がある」と一斉に報じた。重病説が流れ始めた8月14日に、北朝鮮は核開発を巡る6カ国協議で合意された寧辺の核施設の無能力化作業を中断させた。その後、9月24日には国際原子力機関(IAEA)に寧辺の再処理施設でプルトニウム抽出の作業を再開すると通告した。米国首脳は、金総書記が失脚し軍部の強硬派が実権を掌握すれば北朝鮮が核武装を推進し米国との対決姿勢を強めることは必至と見て警戒を強めている。軍事パレードには短・中距離のスカッド、ノドンなどの弾道ミサイルが登場したが、これらは韓国、日本を射程距離に置いた武器であり、米国よりも近隣諸国を脅かすものだ。最近、ノドンの燃料実験を行ったとの説がある。金総書記の重病説が事実なら、朝鮮労働党中央委員会と最高軍事指導機関である国防委員会の2頭立てで非常国家運営体制に入ると見られ、日本人拉致問題の解決は遠のくことになりそうだ。

危機管理体制探りに来たか
ところで、海上自衛隊のイージス艦「あたご」は14日午前、国籍不明の潜水艦が、高知県足摺岬沖の豊後水道周辺で領海侵犯しているのを発見、追尾したが約1時間40分後に見失った。国際海洋法条約は、潜水艦が他国の領海を通過する際は浮上しての航行を義務づけているが、この潜水艦は潜望鏡だけを出して潜行、海底の地形を調査していたとみられる。海上自衛隊は原則的に1日1回、P3C哨戒機で北海道の周辺海域や日本海、東シナ海を監視し、対潜哨戒能力は世界のトップレベルと言われている。だが、今回は警戒が手薄な太平洋の海域が狙われた形だ。北朝鮮の潜水艦がそこまで到達できる航行能力はないし、ロシアの潜水艦が宗谷海峡を通過して入り込む可能性も薄い。中国の潜水艦は2004年11月、沖縄・宮古列島周辺で領海侵犯し、約3時間にわたり潜行した前歴がある。今回も関門海峡を抜けて豊後水道を南下したケースも考えられるが、大回りして高知沖の現れる目的がよく分からない。軍事評論家によると、福田首相の退陣表明で首相官邸機能が麻痺状態にあると見て、「危機管理体制を探りにきた」との見方もある。

日本周辺海域の情報収集
 先の日中首脳会談で中国は白樺ガス田(中国名・春暁)の共同開発で合意したが、海底油田開発と中台有事に備えた防衛対策に熱心な中国は、90年代後半から東シナ海―日本海―津軽海峡―伊豆諸島に至る日本周辺海域に海洋調査船を出動させ、海水温度や海底地形など情報収集活動を続け、これを潜水艦が支援している。今回は潜没した潜水艦を見失ったため、海自の海上警備行動発令は見送られたが、国籍不明の潜水艦が中国の潜水艦であっても不思議ではない。防衛白書では、中国が日本にも届く射程2千キロ以上の巡航ミサイルDH10を開発中であり、昨年9月には、中国の複数の中距離爆撃機H6が東シナ海の日本の防空識別圏に入り、日中中間線付近に至ったことも明らかにしている。普段なら偵察機を飛ばすはずだが、爆撃機を飛ばしたことは中国軍が情報収集段階から次の演習段階に入ったことを意味し、在日米軍や航空自衛隊の動きを牽制する狙いがあるといえる。

宇宙・サイバーの技術開発
 読売新聞は9月14日の社説で、「低空を飛行する巡航ミサイルは弾道ミサイルよりもレーダーで補足しづらい」とし、「日本は近隣国の軍備の動向に応じた防衛力整備を着実に進めることが大切であり、日頃の訓練を通じて部隊の連度を維持する努力も欠かせない」と指摘した。また、「中国は宇宙の軍事利用とサイバー戦専門部隊を強化し、宇宙とサイバーを陸海空に続く第4,第5の戦場と位置づけ、重視している」ことを、同紙は紹介している。防衛省は来年度予算で、空中警戒管制機(AWACS)のレーダー高性能化を要求しているが、私は省の宇宙開発利用推進委の委員長として、宇宙、サイバーなど新しい分野の技術開発や防衛対策に鋭意取り組みたいと考えている。一方、政府はイラクの復興支援活動に派遣している航空自衛隊を、年内に撤収させる方針で検討に入っている。多国籍軍がイラクに駐留する根拠となっている国連決議が今年12月末に期限切れとなるのに加え、ブッシュ米大統領がイラク駐留米軍を来年初めまでに8千人削減する計画を発表したことを踏まえたものだ。イラク南部サマワの人道復興支援活動も含め、5年に及ぶ自衛隊の国際平和協力活動は一人の犠牲者も出さず無事故で完璧に仕事を達成、国際社会で高く評価された。困難な任務を果たした隊員のご苦労をねぎらい、深く感謝したい。