第178回(9月1日)秋までに拉致調査可能か 実効性検証が必要
 8月11日から13日未明まで中国・瀋陽で開いた日本と北朝鮮の公式実務者協議は、6月の前回協議で約束した拉致被害者の再調査について、北朝鮮が調査委員会を設置し、可能な限り今秋までに調査を終えることで合意した。その見返りに日本は調査開始と同時に対北朝鮮経済制裁のうち、人的往来の規制、航空チャーター便の乗り入れ禁止措置を解除する。高村正彦外相は「北朝鮮はこちらの言い分をのみ、前進した」と評価した。しかし、経済制裁の一部解除は「調査開始と同時に」と先取りし、調査完了を今秋としながらも「可能な限り」と逃げを打ち、さらに前回協議で約束した日航機「よど号」乗っ取り犯らの引き渡しについては「改めて協議する」と先送りしている。被害者の家族達は再調査に期待を寄せながらも、「結果を待たずに制裁を解除するのは拙速ではないか」と不安を募らせ、自民党内でも、「北が米国のテロ支援国指定解除へ向けた環境整備を狙った」との見方を強めている。

北の恫喝外交で調査停滞も
 この見方は直ちに立証された。北朝鮮は8月26日、米国が指定解除しないことへの「対抗措置」として、「6カ国協議の合意に基づく核施設の無能力化作業を中断した。寧辺の核施設を元通りに復旧することも考慮する」と発表した。米朝間では、核申告の検証手続きを巡る交渉がヤマ場に差し掛かっているが、核の完全廃棄に向け厳しい検証手続きを突きつける米国に対し、北朝鮮は得意の”恫喝戦術”を使ってテロ支援国指定解除の早期発効を迫ると同時に、軽い検証手続きによって「核カード」を温存しようと強硬姿勢に転じたものだ。米国は「(核放棄プロセスの)明らかな後退だ。6カ国協議の枠組みで北朝鮮が交わした約束に違反する」と非難したが、米朝間の駆け引きの推移によっては、先の日朝協議で合意した拉致被害者の再調査が停滞、対北朝鮮経済制裁は継続することになろう。
 臨時国会では新テロ対策法改正案と拉致再調査問題が外交政策の焦点になりそうだが、04年の前回調査で横田めぐみさんとは別人の遺骨が提供されたように、期待外れの調査結果が示されれば、福田政権にとってはマイナスイメージだ。外務・防衛当局としては、核申告の検証に加え、拉致問題の調査についても実効性が上がるよう北朝鮮に厳しく対応し、制裁解除には慎重な姿勢で臨まなければならないと考えている。

航空チャーター便等規制解除
 日朝協議の合意は ①北朝鮮の権限を持った調査委員会が拉致被害者の調査を行い、可能な限り今秋までに終了 ②北朝鮮は調査過程を随時日本に通報 ③北朝鮮は日本が関係者との面談などを通じて調査結果を直接確認できるよう協力 ④日本は調査開始と並行して北朝鮮との人的往来、航空チャーター便乗り入れ規制を解除――が骨子。人道支援物資を運搬する万景峰号など北朝鮮船籍の入港禁止解除と、「よど号」乗っ取り犯の引き渡し問題は引き続き検討することになった。調査対象について高村外相は、日本政府が認定した拉致被害者12人に加え、「特定失踪者も含む」と述べている。「拉致問題は解決済み」としていた北朝鮮が再調査を言い出したのは何故か。これには7月11日に10ヶ月ぶりに再開された6カ国協議が絡んでいる。同協議に北朝鮮が提出した第2段階の核申告書は ①核関連施設の目録(リスト) ②プルトニュウムの生産・抽出量と使用先 ③ウランの在庫量――の3項目に大別されているが、保有核兵器の数や兵器に関連した施設などの情報は含まれず、核開発の全体像を網羅していない。

日朝協議取引にテロ指定解除
 それでもブッシュ米大統領は、北朝鮮に対するテロ支援国指定を20年ぶりに解除すると発表、議会に通告した。しかし、北朝鮮は、核無能力化作業の一環とされる寧辺のスクラップ直前の老朽核施設・冷却塔を爆破しただけで、1カ月経っても核申告書の査察などは実施されていない。このため8月11日から可能になった北朝鮮のテロ支援国指定の解除を、米政府は見送っている。ブッシュ大統領が日本人拉致問題を「決して忘れない」とし、北朝鮮の申告検証への協力が「不十分ならば相応の措置を取る」と述べ、日本と緊密に連携し、早急に解決するよう北朝鮮に圧力をかけ続けると強調。洞爺湖サミットの日米首脳会談でも、核計画の申告を厳密に検証し、完全な核放棄を求める方針で一致しているからだ。従って北朝鮮は今回の日朝協議よりも、その背後にいる米国に視線を移し、日朝協議の合意を取引材料として、一刻も早く、米国にテロ支援国指定の解除を促したものだ。

見返りのエネ支援完了が狙い
 再調査は今年秋に終了する予定だが、北朝鮮のもう一つの狙いは、10月末に6カ国協議で決定した、北朝鮮の核申告に対する見返りのエネルギー支援を完了させることだ。日本政府は、拉致問題の進展がない限り支援には応じない姿勢を堅持しているが、他の6カ国メンバーは重油100万トン相当のエネルギー支援のうち、既に中国13・7万トン、米国13・4万トン、韓国11・5万トン、ロシア10万トンの計48・6万トンの重油を支援しており、これら5カ国から日本への圧力が強まると予想される。日本が分担する支援は重油換算で20万トン(百数十億円)だが、再調査が日本の求める「生存者の発見と帰国に繋がる調査」になるかどうかが最大のポイント。過去の調査は大半が拉致者の死亡報告書だったり、本人とは判断できない遺骨の提供だったり不誠実なものばかりだった。北朝鮮が単に対米関係を改善するために調査に取り組むとするなら、同じ結果になろう。

拉致・核・ミサイルの包括解決
 政府は6月の前回協議で合意した経済制裁解除のうち、貨客船「万景峰号」を含む北朝鮮籍船の人道支援物資積み込み目的の入港については、再調査の内容を点検して判断するとしている。誰もが納得する再調査が進まない場合は、重油支援の拒否はもとより、チャーター航空便の乗り入れなども再禁止しなければなるまい。07年10月の6カ国合意は、あくまでも北朝鮮は07年末までに寧辺の黒鉛減速炉など3核施設を無力化し、「全ての核計画の完全かつ正確な申告」をすることだった。福田首相もこれまで、「非核化が実現するよう検証していく。日米連携が非核化を実現させるために必要だ」と検証の重要性を訴え続けている。北朝鮮は絶えず、したたかに、経済支援獲得の手段として「核カード」を切り続けてきたが、日本は日朝平壌宣言に沿って「拉致、核、ミサイルを包括的に解決し、不幸な過去を清算して、国交正常化を図る」ことを一貫して主張してきた。それには、調査結果を厳密に検証し、「対話と圧力」を効果的に使い分けながら、焦らずに実効性の上がる方法を求めていく以外に道はない。

土砂降りの冨士総合火力演習
 「どこまで続く泥濘(ぬかるみ)ぞ。3日・2夜の食もなく、雨降りしぶく鉄兜」――。今年も8月23,24両日、冨士総合火力演習が富士山麓で行われた。雨天決行で実施された今年の演習は、まさに昔流行った軍歌の「行軍」そっくり。一般公開日の24日は林芳正防衛相観閲のもと2万人の観客が見守る中、陸自隊員がヘリや戦車に乗って、土砂降り、ぬかるみも厭わず、近代装備の火力を2~3キロ離れた標的に撃ち込んでいた。豪雨、視界不良でも命中率は百%。ロケット砲など火力消費量は3億6千万円というが、あれだけ壮大な大演習を行えば、北東アジアの情勢が緊迫しようとも、敵の上陸など非常事態の備えは万全で国民も安心出来る。参加した2400隊員の皆さん、本当にご苦労様でした。