第173回(6月16日)農産物価格急上昇(下)サミットでも焦点
 読売新聞は5月末、「穀物急騰」の上下企画を掲載した。「世界最大のコメ輸出国・タイのコメ輸出業者協会が毎週決める輸出の目安価格は、今年に入り上昇を続け、21日に昨年平均の3倍を超す1トン=1038ドル(約10万8千円)に達した」と書き出し、「世界2、3位の輸出国であるベトナム、インドが国内供給を確保するため、相次いで禁輸に踏み切ったのがきっかけだ」と解説。そのあおりを低所得の途上国が受け、フィリピンでは1キロ20ペソ台だったコメの市場価格が3月以降、30ペソ台に上昇、西アフリカのギニアでは、コメ高騰に怒った首都住民らが暴動を起こし、昨年以降、既に130人が死亡。影響はコメ以外にも及び、消費量の約4割を輸入小麦に頼るエジプトは、パン価格が昨年の5倍になって、ムバラク大統領は軍にパン製造を指示した、と報道。「穀物急騰は、干ばつや原油高、穀物への投機資金流入などの要因が複雑に絡み合う」と分析している。

食糧サミットで緊急支援確約
 国連食糧農業機関(FAO)主催の「食糧サミット」が6月3日から3日間、約150カ国の代表を集めてイタリアのローマで開かれた。食糧価格高騰の主要因とされる輸出規制やバイオ燃料開発、気候変動への対応を協議。5日には価格高騰対策や途上国への食糧緊急援助を盛り込んだ宣言を採択した。潘基文国連事務総長は会議の冒頭演説で、インドやベトナムがコメ輸出を停止するなど輸出規制が広がっていることに対し、「価格をさらに押し上げるだけ」と懸念を表明し、人道的観点から即時に規制解除を求めた。福田首相は演説で食糧価格高騰を抑制するため、緊急追加支援として5000万ドルの拠出と、政府保有輸出米のうち30万トン以上を国際市場に放出する用意があると表明。価格高騰の一因と指摘されるバイオ燃料に関しては、廃材、コメ藁のセルロースなど食糧以外で作るバイオ燃料の実用化と取り組む考えを示した。特に首相は食糧高騰で「新たに1億人以上が飢餓に追い込まれると見積もられている」と指摘、7月の洞爺湖サミット(主要国首脳会議)でも食糧サミットの議論と成果を踏まえ重要議題に取り上げる意向を明らかにした。

1・5億ドル、30万トン援助
 緊急追加支援は貧困国への種子や肥料の提供など食糧の増産支援に充てる。政府は1億ドルの緊急援助を行う方針を表明済みで、緊急支援額は計1億5000万ドルとなる。輸入米の市場放出について首相は「加熱している食糧市場に落ち着きを取り戻すことに役立てたい」と意義を強調、既に途上国への援助として決定済みの10万トンのほか、新たに20万トンを市場に売却すると表明した。一方、各国に農産物の輸出規制の自粛を呼びかけ、日本も食料自給率の向上で食料需給の安定化に貢献するとの努力を約束。さらに、「バイオ燃料のために世界の食料安全保障が脅かされないよう、原料を食料作物に求めない第2世代のバイオ燃料研究、実用化を急ぐ」と述べた。首相は食糧サミットに先立ち、ロンドンでブラウン英首相と初めて会談、両首脳は世界的な食糧、原油価格の高騰に強い懸念を抱き、洞爺湖サミットでは「喫緊の課題」として主要8カ国が力強いメッセージを出すことが重要であるとの認識で一致した。経済協力開発機構(OECD)とFAOは5月末、パリで世界の農業予測を公表した。それによると、読売の分析通り、発展途上国の人口増や経済成長、食生活の変化に加え、バイオ燃料の生産や投機的ファンドの動きなどが背景にあると指摘したうえ、今後10年間に牛肉・豚肉は約20%、小麦・トウモロコシ・脱脂粉乳は約40〜60%、バターは60%以上、植物油は80%強も上昇すると予測した。

コメ輸出国とバイオ生産国対立
 「先進国では食糧用の穀物を作っている土地がバイオ燃料用の穀物に取って代わられている」――。穀物価格高騰の犯人扱いされてきたインド代表は、5月の国連経済社会理事会でこう反論した。コメ輸出国ではあるが、ベトナム、インドは国内供給を確保するため輸出規制を行ったに過ぎず、価格高騰の原因は穀物をバイオ燃料に取り替えた先進国側にあると反撃したわけだ。ブッシュ大統領が補助金や優遇税制でガソリン代替のバイオ燃料増産を進めた結果、エタノール工場が続々建ち、穀物相場の上昇でアイオワ州などの農家の利益は4倍にも膨らみ、今年収穫したトウモロコシの約4分の1がエタノール用に回る見通しにある。穀物の燃料転用は、食用への供給を減らすばかりか、家畜用飼料の減少を通じ酪農食品、食肉価格の高騰にも連鎖しているとインドなど穀物生産国は批判している。食糧サミットでも食糧危機克服の宣言文作成では、日米が貿易規制撤廃を盛り込むよう求めたのに対しインド、ベトナムが反対し、「高騰を招く規制を最小限に抑える必要」を確認するのにとどまった。争点のバイオ燃料生産には米国やブラジルなど生産国が反発したため、バイオの利点と悪影響の双方を強調したうえ、「持続可能なバイオ燃料の生産と使用を確保するための十分な研究を進める」と言った指針の宣言に落ち着いた。

食料安保基本法制定の動き
 首相は食糧サミットの演説で日本の「中長期的施策」にも触れ、「国内の農業改革を進め、食料自給率向上を通じ、世界の食料需給安定化に貢献できるようあらゆる努力を払う」と述べたが、出身派閥の町村派など自民党内では国民の食料安保体制を確立し、国産農産物の消費拡大を図るため、「食料安全保障基本法」と「地産地消促進法」を制定する気運が高まってきた。輸入食料が途絶える不測の事態に備え、国民1人1日当たり2000キロカロリーの食料を確保するには、全農地を活用し、熱量の高い作物へ生産転換することが不可欠。田は253万ヘクタール、畑212ヘクタール計465万ヘクタールだが、休耕田や耕作放棄地(38万ヘクタール)をフルに再生させ、米作を中心にカロリーの高い作物や菜種、ひまわりなど油脂の原料となる作付けを行えば、目標の食料自給率45%をさらに6%程度押し上げ、昭和61年(86年)当時の51%レベルに回復は可能だ。

町村氏が生産調整見直し発言
 与党は5月9日の衆院本会議で民主党が提出し、参院で可決した農業者戸別所得補償法案を「財源1兆円の根拠が、乏しい」などを理由に否決したが、与党としての農業政策を国民に明示しなければならない。それには、地域特性を生かした通年農業で生産性を向上させ、生産、加工、販売まで消費者ニーズに適応できる地産地消ネットワークを作り、学校給食への普及拡大、市民農園の推進などに取り組み、地域を再生させることも重要である。これらを踏まえ、町村信孝官房長官は2日、コメの作付け面積を制限する生産調整(減反)を見直す考えを示したが、伊吹文明幹事長は「農家がみんなコメを作り始めると、(価格が)暴落する」と苦言を呈し、二階俊博総務会長も「(事前に)農水相とのすりあわせがあっていい」と指摘。これら党首脳の反発に慌てた町村長官は「餌用のコメや畑作物づくりで農地を活用することが,食糧危機対応の答えになると言ったつもりだ」と釈明した。

旬の魚貝類食べ自給率向上
 水産庁は5月20日、07年度の水産白書を発表したが、食用魚貝類自給率は1998年以降50%台に落ち込み、06年も59%だ。最近まで党の水産部会長を務めた私としては、この事態を憂慮している。この自給率を60%台に高める方法として白書は「我が国周辺の資源豊富な魚を食べよう」と、面白い試算を明らかにした。流通業の発展で消費者は内外の水産物を好きな時に好きなだけ手に入れることが出来るため、食卓から季節感がなくなり、地場の魚を食べる機会が減少している。また、資源状況とは不釣り合いな需要でマグロなどの資源が枯渇しつつある。そこで食生活を見直し、漁獲量が豊富で比較的安価な“旬”の魚貝類として、例えば春はカツオのタタキ1皿7切れ、夏はスルメイカの姿焼き1枚、秋はサンマ塩焼き2匹、冬はブリ照り焼き1皿1切れを国民一人ひとりが毎月多く食べれば、それぞれ自給率を1ポイント、全体で4%引き上げられるとしている。白書はサケやマグロなど輸入の多くを頼る魚に消費が偏る現状から脱却し漁業者、流通業者、消費者が協力して日本周辺の魚貝類を消費するサイクルを作り出す必要を訴えている。梅雨時の6月は食中毒の季節だが、食の安全に気をつけつつ旬の初鰹を賞味して頂きたい。