第172回(6月1日)農産物価格急上昇(中)食料自給率は低下
「今やインドの中産階級は3億5千万人で全米人口より多い。豊かになれば、より良い栄養や食べ物が欲しくなり、需要と価格をつり上げる」――。ブッシュ米大統領は5月2日の国内遊説で、世界的な食量価格高騰の原因がインドの生活水準向上にあると指摘して、物議を醸した。インドのアントニー国防相はすかさず4日、「ひどい冗談だ。穀物不足の原因は米国の政策にもある」と、米国が進めるトウモロコシなどを使ったバイオ燃料増産を理由に挙げて反論した。インドの食料輸入は、大豆油などの油脂類や乾燥豆などが主体で、穀物、畜産物、魚貝類などの主要食糧はほとんど輸入していない。宗教上の理由から牛肉や豚肉の需要は増えないからだ。しかし、人口は一人っ子政策の中国よりも速いピッチで増えており、国連の推計では、42年後の50年には現在よりも5億人増えて、16・6億人となり、中国を抜くといわれている。インドと中国を合わせた人口は現在、24億人と世界人口の4割を占めている。読売新聞は、「中国は04年に食料の輸入額が輸出額を上回り、差し引きでは食料を他国に依存する“純輸入国”になった」と次のように報じた。

穀物利用のバイオ燃料増産
人口13・1億人(06年)の中国は、00年に比べて4千万人増えているうえ、年率10%前後の経済成長を続け、国民は豊かになった。食の洋風化が進み、畜産物や食物油などの消費が急増し、食生活も贅沢になっている。その一方で、農地は工場などに変わり、1996年から05年の間に約800万ヘクタールも減った。これは日本の全農地面積の1・7倍に相当する広大な農地が消失したことになる。このため、コメや小麦の自給率は100%近いが、油脂類は50%、油の原料の大豆は42%に落ち込み、より多くの食料を他国に頼ることになった――という。中国が純輸入国に転じたことの日本に与える影響は大きい。冷凍餃子中毒事件が示したように中国からの野菜を含む農産物輸入は、5年間で32%増加し全体の約1割に達した。日本の主要農産物の輸入先は、小麦が米、加、豪から87%。トウモロコシが米、中からほぼ100%。大豆が米、加、ブラジルから75%で、全体は輸入量の90%以上を占めている。それが、BRICs新興国の急成長と、原油高や温室効果ガス削減を引き金に米、豪、ブラジルなどが穀物利用のバイオ燃料増産を進め、世界に深刻な食糧不足が到来した。穀物配合飼料の輸入価格は上昇を続けている。

四川大地震で穀物値上げ
前号で「4月から食料品の値上げが続出した」と書いたが、4月に輸入小麦の政府売り渡し価格が30%値上げされたのが影響し、ハンバーガー、即席麺などの値上げラッシュは当分続きそうだ。米国が小麦と大豆の今年度作付け面積が増えるとの見通しを発表したため、小麦、大豆の国際価格は15ヶ月ぶりに下方に転じたが、穀物市場への投機マネーの流入は止まっていない。まして大地震が襲った中国の四川省はコメ、小麦などの「食量供給基地」であり、被災・生産減少から物価上昇が見込まれ、国際価格にも影響しそうだ。農水省が発表した07年度版農業白書も食料品値上げを取り上げ、「世界の食糧需給は中長期的に逼迫する可能性がある」と警告した。首相は3日からイタリア・ローマで開く食糧農業機関(FAO)の「食糧サミット」に出席、食糧価格の高騰で苦しむ途上国に、5000万ドル(約51億7000万円)の追加支援を行うと演説する。政府は既に、今年7月までに1億ドルの緊急支援を行う方針を表明しており、支援額は計1億5000万ドル(約155億円)に達する。食糧危機に関する支援は日本が国別では米国に次いで高い額となる。

9年ぶりに食料自給率39%
 農水省は2月、平成18年度の「我が国の食料自給率」を発表した。それによると、国内の食料消費が国産でどの程度賄えているかを示す食料自給率(カロリーベース)は、9年ぶりに低下し39%となった。昭和36年(1961年)の78%に比べると2分の1に落ちた。平成17年に決定した食料・農業・農村基本計画では、同27年度までに45%達成を目標としているから、5%以上も下回っている。重量ベースの品目別自給率は、重さで計算するため、コメ94%、野菜79%、魚59%、豚肉52%、牛肉43%、牛乳・乳製品66%、果物39%、小麦13%などと高い数値だが、カロリーベースの自給率では、食料のカロリー(熱量)合計のうち、国産で賄われたカロリーがどれくらいあるかを示すため、畜産物では国産でも輸入した飼料を使って生産された分はカロリーベースに参入されていない。従って、スーパーに並んでいる鶏卵の95・4%、牛乳・乳製品の66・5%は国産だが、カロリーベースは鶏卵の自給率が10%、牛乳・乳製品が28%となる。牛肉の飼料自給率は27%なので重量ベースの43%に掛けると牛肉のカロリーベースは11%に落ちる。重量ベース52%の豚肉の内訳は、輸入が48%、輸入飼料を使う国産が47%、国産飼料を使う国産が5%で計100%だ。

39%は先進国中最低水準
カロリーベースの総合食料自給率(03年)は、豪237%、米128%、仏122%、独84%、英70%、伊62%で日本は先進国の中で最低水準。世界175の国・地域の穀物自給率は日本が125位、人口1億人を超える国の中では最下位だ。それにしても、43年前の昭和40年当時に73%、28年前の同55年当時に53%もあった食料自給率が何故こうも大きく低下したか。原因は高度成長による社会経済情勢の変化が食生活を大きく変え、コメ離れで自給可能なコメの消費量が大幅に減少する一方、コスト面の制約などから、国内での生産が困難な飼料穀物や大豆、菜種など油糧原料を使用する畜産物や油脂類の消費が急増したからだ。同時に外食などライフスタイルの多様化で食生活が大きく変化し、食品の加工や外食業務用需要が高まり、国内生産が十分に対応出来ないことも自給率低下に押しやっている。昭和50年代はコメ、野菜、果実など多用な副食で構成された栄養バランスの良い「日本型食生活」が定着していたが、最近は脂質の摂りすぎによる肥満のメタボリック症候群など生活習慣病が増加し社会問題になっている。日本では04年度に、世界の食糧援助量の約3倍に当たる1900万トンもの食物が捨てられた。熱量ベースでは供給された食物の7割しか口にしていないというから飽食三昧で、その結果が贅沢病「メタボ」の悩みを生んでいる。

農地面積は仏の15分の1
地形が急峻で森林が約7割を占める日本の国民1人当たりの農地面積は、英国やイタリアの約8分の1、フランスの約15分の1と極端に小さく、限られた農地資源の中で食料自給率を高めていくのは容易でない。しかも国連推計によると、世界の人口は途上国中心に大幅に増加し、2005年の65億人が50年には92億人に達すると見込まれている。また、途上国の経済発展、所得水準の向上により、アジア地域を中心に畜産物の消費が拡大し、飼料用穀物の需要が増大する。こうした中で我が国の「食糧安全保障」を確保するには、@食糧供給に必要な農地確保A農業担い手の確保・育成B農業技術の向上・普及――を図り生産基盤を確立しなければならない。長崎県は耕作放棄地率が27・1%と高いが、担い手不在では一度放置された休耕田に雑草や木が生えて再び農地に戻すには骨が折れる。農水省は07年度補正予算から、休耕田で家畜の餌用のコメを育てる農家に補助金を出したり、小規模・高齢農家に対する支援策などを打ち出した。また、大規模農業化で優良農地を確保するため、05年9月から株式会社にも農業への実質参入を認めている。
(最終の第3回は水産白書などを中心に取り上げる)