第171回(5月16日)農産物価格急上昇(上)どう守る食料安保
 先進国最低の食料自給率、中国製冷凍餃子中毒など輸入食品の不安感、穀物など輸入食料価格の高騰――。今ほど日本の「食料安全保障」が叫ばれる時はない。国民が健康で豊かな生活を享受するには、潤沢で栄養バランスの摂れた健全な食生活を維持することが重要だ。食料を取り巻く国際情勢は、開発途上国の人口が増加し、中でも急速な経済成長を遂げたBRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国=チャイナ)の食料に対する需要が量的・質的に大きく変化している。また、原油高やCO2など環境対策重視の中でバイオ燃料の需要が増大、原料の穀物の奪い合いが起きている。さらに地球温暖化で砂漠化や局地洪水化が進み、栽培適地の変化が懸念されている。しかし、日本では経済発展による工業・住宅用地の需要増で農地面積が年々減少しているにも拘わらず、高齢化が進んで農家は後継者がなく、消費者のコメ離れも手伝い、耕作放棄地が39万ヘクタールにも広がっている。しかも、少資源国でありながら飽食に馴れ、年に1900万トンもの残飯を生み出しても平気な国民性にいつの間にか変貌している。こんな無関心でいて良いのか。農水省は食料自給率を高めるため、@実践的な「食育」と「地産地消」の全国展開A国産農産物の消費拡大B優れた農業担い手による需要即応の生産促進C食品産業と農業の連帯強化D効率的な農地利用推進――などを掲げた。私は自民党の前水産部長としてこれら政策の実現に努力中だ。

世界も食量価格高騰で深刻
 4月は値上げの季節だった。ビール、牛乳、バター、醤油、食用油、マヨネーズ、カルピス(乳酸菌飲料)などが軒並み3〜17%値上がりした。牛乳の値上げは30年ぶりだ。昨年末にパンなど小麦粉製品も平均8%値上げしたが、これらは原油高騰に伴うバイオ燃料の原料となる大豆、トウモロコシなど穀物の需要増、生産地の天候不順による農産物価格の上昇などが背景にある。牛乳や小麦の値上げ、中国餃子の中毒事件による食材の見直しなどで、多くの自治体は新年度から学校給食費を引き上げたり検討中だ。読売の調査によると東京都の8区、全国の政令市14市が値上げし、我が長崎県諫早市の場合は小学校で300円引き上げて月額3600円になった。総務省が3月末に発表した2月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)の上昇率は、前年同月比1%となり、98年3月(1・8%)以来の高い伸びとなった。景気が踊り場に差し掛かり、賃金も上がっていない中での物価上昇は庶民生活を直撃する。エジプト、ハイチでは食糧価格高騰で死者が出る暴動が起きるなど深刻だ。4月28日から2日間、スイス・ベルンで開催の国連27機関トップによる最高執行理事会では食糧農業機関(FAO)、世界食糧計画(WEP)、国際農業開発基金(IFAD)の3機関合同で食糧価格高騰の原因分析と対策を報告し「地球規模の危機」(議長・潘基文国連事務総長)に対し国際社会全体で取り組む重要性を強調した。

BRICs成長、原油高が原因
 3機関は食糧価格急騰の原因として、@2005年と06年の悪天候による穀物生産減少で、現在の穀物在庫量は過去30年間で最低水準に落ち込んだA石油価格の高騰で過去2年間に肥料価格は3倍近くに上昇、輸送費も倍増したB世界の生産量の4・7%に当たる1億トンの穀物がバイオ燃料に使われていることも減産に繋がるC中国、インド、ブラジルなど急成長する途上国の食肉消費急増に伴う飼料用穀物の需要増や、一部の国での食糧輸出制限措置も構造的要因――など6つの原因を挙げ、国連や世界銀行と協力して、食糧を購入できない人々への緊急食糧支援と供給強化策、各国政府への政策支援を進める方針を表明した。牛肉1キロを生産するには、餌として11キロの穀物が必要だが、中国の穀物需要は1970年から05年の間に2倍に増え、特に飼料用は9倍に拡大するなど新興国の需要は旺盛で世界の穀物消費量を押し上げている。バイオ燃料の原料となるトウモロコシは、大豆からの転作もあって生産量は増えているが需要増に追いつかず価格は値上がりした。それに「サブプライムローン」問題で下落した株式市場から、投機マネーが原油、穀物に向かい穀物市場の相場が急騰、世界的に暴動や買い占め騒動が広がっている。

洞爺湖サミットでも食糧討議
 このため、3機関は食料高騰の危機で約1億人が新たに支援対象に加わったとし、WEPは穀物調達コストの上昇で7億5500万ドル(約785億円)の追加拠出を各国に要請した。中長期的対策としては貧困農家への種や肥料の供給や各国政府への農業政策支援が指摘された。FAOが6月3〜5日にローマで開く国連主催の「食糧サミット」(食糧の安全に関するハイレベル会議)には、ルラ・ブラジル、サルコジ・仏両大統領、潘国連事務総長らが参加する予定だが、福田首相は7月の洞爺湖サミットに先立ち、フランス、イタリア両国首脳らと会談したい考えで、国会情勢を見極め最終判断する。ブラウン英首相は福田首相宛の書簡で、「洞爺湖サミットで食糧問題を主要議題とする」よう求めているが、関係国の利害調整をどう進めるかが焦点となりそうだ。額賀福志郎財務相は5日、マドリードで開かれたアジア開銀(ADB)年次総会で、食糧高騰で苦しむアジア太平洋地域の途上国に対しADBが行う緊急支援を支持すると表明、「洞爺湖サミットでは気候変動が最大のテーマになる。国際社会の一致協力した断固たる取り組みが不可欠だ」と強調した。また、政府は13日、5月末に横浜市で開くアフリカ開発会議で発表する行動計画に、アフリカのコメ生産量を今後10年で倍増させる農業支援の実施を盛り込むことを決めた。深刻化する食糧危機に長期的な観点から、日本稲作のノウハウを指導し、生産性を高めるよう支援するもの。
<次回は9年ぶり、39%に低下した食料自給率を中心に取り上げる>