第167回(3月16日)福田色の諮問会議多設 消費税アップ狙う
 原油高は穀物へ連鎖し、ビール、麺類、乳製品など食料が皆上がる物価高の季節が到来した。賃金引き上げ、パートの労働改善など春闘はたけなわだ。首相は1日、大田弘子経済財政相に上昇が続く物価の動向を注視するよう指示した。政権浮揚を図る首相は、内閣支持率の低迷を打開するため、国民の目線に立った政策作りにも本腰を入れている。先号でも列挙したが、内政では中国製冷凍餃子中毒事件を受けて、消費者行政一元化のための消費者行政推進会議(座長=佐々木毅前東大総長)を設置、年金記録照合問題などに対処し社会保障国民会議(座長=吉川洋東大大学院教授)を発足させた。地球温暖化問題懇談会(座長=奥田碩内閣特別顧問・前経団連会長)や経済財政諮問会議の下に「構造変化と日本経済」専門調査会(会長=植田和男東大教授)も立ち上げた。外交・安全保障では防衛省改革会議(座長=南直哉東京電力顧問)を設置した。社会保障国民会議には年金改革論議をさせながら、将来の消費税率アップに向けて地ならしの議論をさせようとする思惑がある。しかし、消費税増税を巡り自民党内には「財政再建派」と「上げ潮成長派」の対立がある。果たして首相は独自政策構築面で強いリーダーシップが発揮できるだろうか。

消費者行政一元化が目玉
 首相が立ち上げた政策会議を一通り点検して見よう。1月以降に打ち上げた政策会議の目玉の1つが、消費者行政を一元化する新組織の在り方を検討する「消費者行政推進会議」(佐々木毅座長)。中国製冷凍餃子中毒事件が起きて、当初予定より早めて2月8日に設置、同月12日に初会合を開いた。消費者行政推進担当相には岸田文雄沖縄・北方・国民生活担当相を兼任させた。同会議11人の委員は首相自らが選ぶという熱の入れよう。昨年末から消費者行政の見直しを進めている国民生活審議会(首相の諮問機関)と連携するため、同審議会の委員3人を兼任。法律面の検討のために阪田雅治前内閣法制局長官を加え、消費者代表の佐野真理子主婦連事務局長、産業界代表の中村邦夫松下電器会長らを起用している。消費者行政は現在、内閣府の国民生活局が中心だが、各省庁への勧告権限がなく他省庁と横並びでしかない。消費者が相談しようにも、経済産業、農水、厚生労働など複数の省庁にも似たような窓口があり「司令塔がない」と批判されていた。

21世紀の前川リポートも
 消費者団体からは各省庁に対する勧告・是正権、メーカー、業者に対する業務停止命令や不当利益の没収に関する権限が必要だという指摘があった。同会議は新組織の形態について、自民党消費者問題調査会(会長=野田聖子元郵政相)が1月にまとめた中間報告の 
 @「消費者庁」の創設
 A国家行政組織法に基づく「行政委員会」の設置
 B内閣府の機能強化   
                を軸に検討し、4〜5月にも結論を出す。安倍前政権が推進した教育再生や公務員制度改革などの議論が1月までに一段落したのを機に、首相は「改革を本格的にやろうということだ」と周辺に漏らし、今後は「生活者・消費者重視の行政」に沿った独自政策を構築、福田色をアピールしようとしている。経済財政諮問会議の下には「構造変化と日本経済」専門調査会(植田和男会長)が設置された。牛尾治朗ウシオ電機会長、大竹文雄大阪大教授、香西泰政府税調会長ら11人がメンバーで、2月26日の初会合では、日本経済の復活に向けた戦略を示すため、22年ぶりに21世紀版の「前川リポート」作りに入った。6月までの約4ヶ月間で、世界経済の急速な変化に取り残されつつある日本経済の復活策の議論をまとめ、7月の洞爺湖サミットで国際社会にアピールする方針だ。

排出量取引制度導入が焦点
 環境問題が主要テーマになる洞爺湖サミットに向け、地球温暖化問題懇談会(奥田碩座長)の初会合が3月5日に開かれた。メンバーは三村明夫新日鉄社長ら温室効果ガスの大口排出源である鉄鋼、電力業界の代表や学者の12委員。アル・ゴア前米副大統領の著書「不都合な真実」を翻訳した枝広淳子氏も委員の1人。首相は「ライフスタイルにも影響を与える問題なので、国民に分かりやすい議論をして欲しい」と要請した。主要議題は、温室効果ガスの@排出量削減の具体策A世界全体の排出量削減のための国際協力――だが、欧州連合(EU)が実施している排出量取引制度を日本国内にも導入するかどうかが焦点。この制度を巡っては積極的な環境省と慎重な経産省が綱引きを演じている。同懇談会は、首相が1月のスイス・ダボスでの世界経済フォーラム年次総会で提唱した低炭素社会実現に向けた技術革新も議論する。初会合では、太陽光や風力など自然エネルギーへの転換を図り温室効果ガス削減を目指す「環境モデル都市・低炭素社会づくり分科会」を設置した。

年金で社会保障国民会議
 「国民の皆さんに、社会保障の将来像、我々の将来がどうなるかが具体的に目に浮かぶような議論をして頂きたい」――。首相は1月29日、「社会保障国民会議」(吉川洋座長)の初会合でこう挨拶した。同会議は年金をはじめ社会保障政策の包括的見直しに向けた議論を開始している。メンバーは、大森弥東大名誉教授、奥田碩前日本経団連会長、小田与之彦日本青年会議所会頭、唐沢祥人日本医師会会長、塩川正十郎元財務相、高木剛連合会長、樋口恵子NPO法人理事長ら15人の錚々たる顔ぶれ。社会保障担当の首相補佐官には伊藤達也元金融担当相を任命した。首相が国民会議を設置したのは、年金、雇用、医療、介護、子育て、少子化対策など社会保障政策全般を見直し、少子高齢化が進む中でも持続可能な社会保障制度を再構築するのが狙い。3月末には政府の公約である年金記録照合問題が国会でヤマ場を迎えるが、期限内に照合の決着は難しい状況だ。首相としては年金問題に正面から取り組んでいる姿勢を国民にアピールしておきたい思惑があるようだ。

消費税増税の地ならし論議
 同会議は「雇用・年金」「医療・介護・福祉」「少子化・仕事と生活の調和」の3分科会方式で議論を進めているが、社会保障給付費の5割を占める年金制度の改革は最重要課題。小泉内閣は2004年に行った制度改革を「100年安心」の改革と自慢したが、想定した出生率を下回っているうえ、国民年金保険料の給付率が66・3%(06年度)と目標値を下回っていることから、制度運営に支障を来す恐れが出てきた。政府・与党は保険料を徴収する「社会保障方式」を維持する方針だが、民主党は未納問題が生じないよう税法式を導入、財源に消費税を社会保障の目的税化するよう主張している。政府は09年度までに基礎年金の国庫負担割合を現行の3分の1から2分の1に引き上げるが、その財源にはちょうど消費税1%に相当する約2・3兆円が必要。それを何とか消費税率のアップによって確保したい考えだ。首相は1月の衆院代表質問で、「社会保障国民会議での議論を踏まえ、消費税を含む税体系の抜本的改革の検討を進める」と述べ、同会議が将来の消費税率引き上げに向けた地ならしの議論をする役割があることを明らかにしている。ところで消費税増税には昨年秋以来、「埋蔵金論争」が起きるほど党内対立が続いている。そこで、次回以降には自民党の「財政再建派」と「上げ潮経済成長派」の対立を解説したい。