第166回(3月1日)首相、防衛省抜本改革 自衛隊派遣恒久法も
福田首相は2月22日の閣僚懇談会で、海上自衛隊イージス艦「あたご」と漁船「清徳丸」の衝突事故に関し、防衛省の抜本的な組織改革を検討するよう指示した。これを受けて石破茂防衛相は同日付けで「改革推進チーム」を省内に設置し、内局(背広組)と自衛隊の各幕僚監部(制服組)を統合・再編する案の検討に着手した。既に政府は首相官邸に「防衛省改革会議」(座長=南直哉東京電力顧問)を設置しているが、同会議の議論も踏まえ組織改革を急ぐ。同相には野党から一斉に罷免要求が出され、参院で問責決議案上程の動きもあるが、首相指示にはこの野党要求をかわす狙いもある。しかし、房総沖での衝突事故は、20年前の潜水艦「なだしお」と遊漁船「第一富士丸」で30人の犠牲を出して以来の大事故であるにもかかわらず、その反省、教訓が生かされず、職務怠慢が生んだ“暴走航海”といえる。国民の信頼を失い、インド洋で困難な給油活動を再開した我が佐世保海自基地の諸君の士気にも響く不祥事だ。私は国民の安全・安心を預かる衆院安全保障委の理事として、委員会で徹底的な原因究明と再発防止策を検討しているが、元防衛政務官としても防衛省の抜本改革と自衛隊海外派遣の恒久法制定を目指し、努力を続けている。

連携取れず房総沖で暴走航海
「そこ退けそこ退けお馬が通る、ではないか」――。海自のイージス艦と千葉県勝浦市の漁船が2月19日に房総沖で衝突した事件で、野党は石破防衛相の責任を国会で厳しく追及した。確かにタンカーや漁船が混雑する浦賀水道で、十分な見張りをせず、自動操舵に任せていた「あたご」の乗組員は職務怠慢で、“暴走”以外の何ものでもない運航といえる。冷たい海に沈んだ「清徳丸」船主の吉清治夫さん(58)と長男の哲大さん(23)は捕れた魚をホームレスの人たちに贈る心優しい孝行息子だったという。無念であったろう。同事件は@同時に数百の目標に対処できるレーダーを持つ最新鋭艦がなぜ衝突したかA防衛相、首相官邸への発生連絡がなぜ遅れたかB当直下士官、見張り員、レーダー係の連携は取れていたのかC衝突時の情報がなぜクルクルと変わったのか――など大きな問題を残した。防衛省では07年にイージス艦の情報漏洩、インド洋での海自補給艦の給油量訂正、航空日誌の誤破棄問題など、首相が官房長官当時からの不祥事が相次いで発生した。

クルクル変わる“猫の目”情報
首相が防衛省の抜本改革を指示したのは当然だ。防衛省の守屋武昌前次官の収賄容疑事件を踏まえ、政府は昨年12月に防衛省改革会議を設置、防衛調達の透明性確保、文民統制徹底、情報保全体制の確立などを検討、6月をメドに報告書を策定する段取りだった。それに加えてのイージス艦衝突事故である。同省のたるんだ危機管理体制も同会議の検討事項に加わる。今回の事故を契機に、背広組と制服組の連携のまずさが一層浮き彫りになった。まず事故の第一報が防衛相に伝わったのは90分後、官邸に届いたのは2時間後という危機管理意識の欠落ぶりだった。「漁船の青い灯火を視認したのは2分前、1分前に慌てて急制動をかけた」「いや、衝突12分前に赤い灯火を見つけたという情報が艦内で“危険の兆候”としてレーダー員らに伝わらなかった」「衝突7分前の午前4時にレーダー員を含む26人の当直員全員がそっくり交代し、漁船接近を察知できなかった」――。防衛省の幹部が記者会見や自民党国防部会、国会答弁で説明する衝突情報はクルクルと変わった。しかも、1週間後に「8〜9分前に視認」説まで現れ、同省の隠蔽体質が厳しく問われた。

最新鋭艦が乗員不在の幽霊船
このように情報開示がちぐはぐだったり、ことごとく後手に回ったことについて、同省や海自の幹部は「海上保安庁の捜査に予断を与えたくない」と表向きは弁明するが、「なだしお」事故以来、事実を隠したがる習性が省内に残っていて、内局(背広組)の報道官が「情報を持っていない」と会見で言えば、海幕幹部は「こちらから出したくても内局から止められて説明できなかった」と不満を述べるなど、裏で責任をなすりあう始末だ。石破防衛相は「あたごは事故の当事者で海保庁の捜査に協力する立場。進んで情報開示は出来ないが、情報を小出し、隠し、操作したことは一切ない」と組織を庇うが、「最新鋭艦の誇りが驕りになっていた。国民一人救えなくて国が救えるか」と怒り、少なくとも混雑海域では手動操舵にすべきだった、と非を認めている。弾道ミサイルの迎撃は、鉄砲玉をピストルで撃ち落とすほど難しいとされる。それを同時に数百の目標に対応できる練度の高いはずの最新鋭艦が、乗員のチームワーク不在の“幽霊船”では日本の防衛はお先真っ暗だ。

移設効果薄い岩国市長選勝利
石破氏が「防衛省の組織は複雑怪奇で連携が悪い」と認めるように、防衛省の背広組と制服組の垣根を取り払って、意志疎通を円滑にすることは最重要な課題。改革推進チームには、背広組、制服組から計15人が加わり、次官、統合幕僚長が参与として助言する。石破防衛相は舩渡健「あたご」艦長と吉川栄治海上幕僚長の更迭を決意したが、野党はこの処分では収まらず、事故の集中審議を求め、同相の罷免を要求し参院で同相の問責決議案を提出する構えだ。可決すれば額賀福志郎元防衛庁長官(現財務相)の時と同様、辞任に追い込まれかねない。「なだしお」衝突事故では瓦力防衛庁長官が引責辞任した。防衛省の悩みはまだある。2月10日の岩国市長選では自公両党が支援した新人で米海兵隊岩国基地への空母艦載機移駐容認派の福田良彦氏(前自民党衆院議院)が当選。政府は岩国市に対し凍結中の「米軍再編受け入れ自治体に配分する交付金」の支給を検討するなど米軍再編問題が好転すると喜んでいた。ところが翌11日未明、沖縄県で米海兵隊員による女子中学生暴行事件が起き、米海兵隊普天間飛行場の移設問題に再び暗雲がたれ込めている。

武器使用緩和など恒久法
一方、臨時国会で成立した新テロ特措法によってインド洋での給油活動は再開されたが、同法が1年間の時限立法であるため、与党内には特措法の改正を繰り返すより、恒久法を制定した方が現実的だとの判断がある。そこで、自民党は首相の意向を受けて、「国際平和協力の一般法に関する合同部会」(座長=山崎拓前副総裁)を設置、2月13日に初会合を開き、自衛隊海外派遣の在り方を定める恒久法制定の検討に入った。越年国会で新法をようやく成立させた苦労を思えば、内閣法制局審査もあって恒久法は遅くとも秋の臨時国会で法整備を行う必要がある。今国会への法案提出や継続審議とすることも視野に早急に法案の中身を詰めなければならない。恒久法論議の最大の焦点は正当防衛に限られている武器使用基準の緩和や国連安保理事会の決議を条件とするかどうかなどだ。与党内も意見が分かれているが、同じ作戦に参加する他国部隊や国連職員が攻撃された場合、自衛隊が現場に移動して応戦する「駆けつけ警護」でも武器使用を認めるべきだという意見が多い。

4月には民主党と政策協議も
民主党内にも保守系議員を中心に恒久法に積極的な意見があることから、山崎座長は「法案提出前に民主党と事前協議したい」と語っている。政府・与党としてはガソリン税の暫定税率を巡る攻防が決着した後の4月以降は、恒久法について民主党との政策協議を進めたい考えだ。だが、与党プロジェクトチームが近く発足しようとした矢先に衝突事故が起きたことはいかにも間が悪く、党の国防部会でも「恒久法の議論には(防衛省への)信頼回復が必要だ」との厳しい意見が出て、PTの発足はしばし見合わせている。私もガソリン国会の攻防の合間を縫って、衆院安全保障委の理事として、緊張感、使命感の欠落した防衛省の抜本改革と恒久法の法制化に向けて鋭意取り組み、安全保障に対する国民の信頼を回復しようと、大いに努力しているところだ。