第162回(平成二十年元旦)税制改正(下)都など4千億円移譲 地方法人2税でサヤ当て
 石原慎太郎都知事は昨年末、首相と首相官邸で会談し、都の地方法人事業税(約1・3兆円)のうち約3千億円程度を財政力の弱い地方の自治体に回す政府与党案について、条件付きで受け入れ、合意した。石原氏が強く求めた、五輪招致や東京外環道の整備、羽田空港の国際線発着便増などに向けて、政府と都の政策協議機関を設置することが条件だ。政府与党案は、今回を暫定措置とし、地方法人事業税のうち2.6兆円を新たな国税の「地方法人特別税」(仮称)に改め、人口や面積などに準じて地方に再配分する方針。地方法人2税移譲を巡っては、東京都のほか、大阪、愛知、神奈川3府県に協力を要請し、計4千億円程度の移譲を見込んでいる。4都府県は「都市部の財源を強奪するかのような方法で格差是正を図っている」と批判、12月6日に石原氏ら4知事連名で反対の要請文を出したばかりだった。前にも書いた通り、地方法人2税の税収は東京都と長崎県は6.1倍の格差があり、2税の移譲は地方の活性化に役立つ。経過を時系列で詳しく追ってみた。

配分見直し税収格差是正
 自民党の税制調査会(津島雄二会長)は昨年11月26日の総会以降、08年度税制改正の本格論議を続けてきた。党内論議はまず、財政改革研究会(財革研)と地域活性化特命委員会で地ならしされたが、福田首相が解散・総選挙を配慮して消費税増税を再封印したため、消費税率の引き上げ時期や税収格差是正の財源配分について具体策が明示出来ないうえ、焦点の地方法人2税の税源再配分を巡っては、都市と地方の議員が対立したほか、総務、財務両省がそれぞれに有利なやり方を唱えてサヤ当てを演じるなど難航した。地域活性化特命委員会(委員長=野田毅元自治相)は、「都市と地方の財政力格差の偏在是正」として、@地方消費税を引き上げ地方法人2税と交換A地方法人2税の配分見直しB地方交付税の総額を増やしたうえで税以外の時限的措置――を打ち出し、配分額や配分方法をまとめようとしたが、関係省庁や東京都の反発で結論が出せず党税調に丸投げした。

方法巡り財務、総務が対立
 自治体間の税収格差が大きい地方法人2税については、格差是正の方法論を巡って、財務省と総務省が対立した。財務省は、都市部に集中する地方法人2税(事業税、住民税)の配分ルールを変更し、税収のばらつきを調整したい考えだったが、総務省は、より安定した財源で、地域間に隔たりが小さい消費税の地方分拡充を求めた。法人税は企業業績の回復に合わせて増えており、07年度見込みは総額26兆円で、国税分は16.4兆円、地方税分は9.6兆円だ。地方法人2税のうち法人事業税は、企業が都道府県に置く事務所や従業員の配置などに応じて納める。法人住民税は、従業員数に応じ、都道府県と市町村に納めている。従って、高収益の企業の本社や工場が立地する自治体に有利に働く仕組みで、各自治体は税収を増やすため、企業の誘致競争に躍起だ。だが、地方税分9兆6千億円の約4分の1の2兆4165億円が東京都に集中している。党税調では参院選の大敗を背景に、「都市と地方の格差解消なくして政権の維持なし。地方税源の充実を」(九州出身議員)、「『あいつ(東京都)ばっかりがすき焼き鍋を食っている』となっている。東京と地方の差が開きすぎた」(閣僚経験者)と怒りに近い声が複数の議員から相次いだ。

東京税収は長崎の6.1倍
 2税の1人当たりの税収を全国平均100として比べた場合、05年度決算ではトップの東京都が266.8だったのに対し、最下位の長崎県は40.9と6.1倍もの差が開いた。また、全国展開する企業だと、支社の所在地にも事業所の規模に応じて税収が配分される半面、地域ごとに子会社の形をとると、子会社が赤字なら地方自治体に税収は入らなくなる。企業側の事情に自治体の税収が翻弄される例も出ている。昨年10月12日に開かれた財政制度等審議会(財務相の諮問機関)の西室泰三会長は記者会見で、「(自治体間の)『水平調整』の仕方を考えるべき段階に至った。そこまで踏み込んででも早くやらないと、格差是正にたどり着けない」と語った。自治体が危機感を高める背景には、小泉政権下の04〜06年度に行われた三位一体改革の影響がある。国から地方に税源を移す代わりに補助金、地方交付税が減り、自治体間の財政力格差が広がった。朝日によると、富山県の試算では、改革で税源移譲の恩恵を受けたのは首都圏や東海圏などの12都道県に止まり、残り35府県は補助金削減の影響の方が大きかった。知事の間では「約5兆円も削られた地方交付税を元に戻してほしい」との声が上がった。今回の税制論議は、行き過ぎた改革路線を見直す「格差是正」の流れの一環とも位置づけられてきた。

消費税増やす増田プラン
 政府内では大都市に偏る税収をならすため、法人2税の一部を国に一旦集め、人口や面積などに応じて自治体に再配分する仕組みが浮上した。増田寛也総務相は西室発言直後の閣議後会見で「大きく消費税を含めた税制の議論の中で、捕らえないとならない。政府部内でも意見は収斂していない」とけん制、参院選惨敗後の地方テコ入れ策として「地方再生総合戦略」(増田プラン)を打ち出した。同プランは2税の一部を国税に振り替え、代わりに消費税の地方分を増やす案を唱えている。消費税の1%分(07年度見込み2兆6千億円)の交換を求めており、東京都は3千億円の減収になる。消費税は景気動向に左右されにくく、人口などに応じて調整される偏りが小さい。5%の税率のうち1%が地方消費税として自治体に直接回されている。増田案はこの配分を2%に変えてそれに見合う法人2税を国税に振り替えるか、将来の地方消費税増税1%分を多く獲得する案だ。増田プランは、公募のアイデアなど地域の創意工夫を生かし都道府県ごとに年1〜2事業を選び、国が資金面や人材派遣で集中的に支援する「地方の元気再生事業」、「企業立地のアクセス道路整備」、「スーパー中枢港湾と地方港湾整備」など107項目の施策を列挙している。

第2地方交付税狙う財務省
 しかし、消費税は国にとっても安定的な税収で貴重な財源。財務省も簡単に手放すつもりはない。額賀福志郎財務相は「財政力格差をなくして、地域の活性化を図っていくことは当然考えねばならない」と述べてはいるが、同省の津田広喜事務次官は「消費税率5%の中で地方と国の配分を変えるのは難しいし、無理がある」と述べ、地方消費税の扱いは次の増税時に考えればいいという態度。財務省は全く別の提案をした。納税企業の拠点や従業員が基準となっている現在の地方法人2税の配分基準を人口や面積を中心に改める内容だ。これで東京都から最大1兆円規模、愛知県や大阪府などを合わせて1兆数千億円の税収を移転できる。これは一旦「地方共同税」のような形で徴収して配る方式で、実現すれば総務省抜きの「第2地方交付税」との財務省の狙いもあった。法人2税見直しには、税収が多い東京、大阪、神奈川、愛知の4都府県知事が、絶対反対の姿勢だった。

地方分権に逆行と4都府県
 石原都知事は昨年10月の会見で「町村信孝官房長官から法人2税について考えてほしいと言われたが、それは駄目だといった」と述べ、「法人2税は殖産による地方の振興というものが眼目だ。これをいじると税制の原理にもとる。小手先のレトリックだ。税源が足りないなら消費税が一番妥当だ」と増田氏同様、消費税を含めた議論が必要との立場をとってきた。石原氏は11月9日、都庁で会談した麻生渡・全国知事会長(福岡県知事)から「地方の痛みを理解してほしい」と訴えられたのに対し「東京の痛みは誰が理解してくれるのか。昼間人口が370万人増え、そのライフラインの確保は全部都がやっている。東京のインフラは古くなり、立て直しに今後数兆円かかる」と都市部にかかるコストの大きさを説明した。都幹部も「1兆円減収なら首都の行政運営はとても出来ない」と大不満。財務省案で減収となる東京、愛知、大阪、神奈川都府県はともに、「財源の各地再配分は、企業誘致や産業振興への自治体の意欲を失わせる」「国が配分することは事実上の交付金化で、地方分権に逆行する」と反発し、4都府県が連携して2税見直しに反対した。

泣く子と地頭、政府に勝てぬ
 都知事の長男である石原伸晃都連会長(前政調会長)も「国の機関への人員派遣経費は都が負担している。首相や閣僚を警護する警察官の給与を警視庁が出していることは、意外と知られていない。東京は03年にも交付団体に転落する危機があったばかりだ」と都には特有の支出があり、都も恒常的に富裕ではないことを明らかにした。また、都税収を地方の共同財源にするアイデアに対しては、「行政サービスに対して払う税の理屈から離れてはいけない。共同体が課税主体になりうるか、配分権があるのか、という話は解決できていない。『水平調整』は税の理屈から言ってナンセンスだ」と反対した。しかし、石原都知事は昨年12月7日、与謝野党税調小委員長との会談で、@今回の措置は08年度の時限措置とするA抜本的改革を行う際、減った額を都に戻すB首相が東京外環道の整備や羽田空港の活用との調整を関係官庁に指示する――などの条件を提示。最終的に同月11日、福田首相と協議した結果、08年度限りの措置として、都は2税の一部3千億円程度を財政力の弱い自治体に移譲、代わりに政府が五輪招致に協力するなどの条件を飲んで決着した。石原氏は記者団に「泣く子と地頭、政府には勝てない」と自嘲気味に語っている。