第160回(12月1日)税制改正(上) 社会保障の税制論議 消費税は来年度凍結 
 補給支援特措法案の国会攻防と並行して、08年度予算編成のピッチが上がってきた。夏にまとめた概算要求額は85兆7100億円だが、参院選惨敗で自民党内には道路整備など地方に配慮した公共事業の上積み要求が目立つ。しかし、財務省が発表した9月末の国の借金残高は833兆7千億円で財政状況は極めて悪い。しかも、09年度から基礎年金の国庫負担金引き上げに2・5兆円の新財源を確保しなければならない。そこで、政府税調は消費税を「社会保障財源の中核」として税率を引き上げるよう答申。増税の牽引役である党の財革研も消費税を「社会保障税」と呼び代えて、10%程度に引き上げる「中間とりまとめ」を発表した。ただし、早期の解散・総選挙が取りざたされる中で、福田首相、党執行部が08年度中の引き上げを見送る方針を固めたため、双方とも増税時期など具体的道筋は示していない。このため、党税調は消費税増税など抜本的な税制改革は09年度に先送りすることを念頭に来年度税制を煮詰めることになった。政府は揮発油税の暫定税率を来年度以降も維持する方針だが、私は離島航路を国道に見立て、道路特定財源のうち一般財源に回す分を整備費に充てるよう、税制改正にも鋭意取り組んでいるところだ。

消費税を社会保障の中核
 政府税制調査会(香西泰会長)は11月20日、税制改正の答申をまとめた。消費税を「社会保障財源の中核」と位置づけ、3年ぶりに消費税率の引き上げを指摘したほか、格差是正、高所得者への課税見直し、各種所得控除の縮小、相続税の課税ベース拡大など増税色の強い内容となっている。福田首相が同15日、早期の消費税率引き上げを否定したため、消費増税の時期や水準は明記せず、抜本改革の09年度以降への先送りを容認した。朝日新聞によると、政府税調は消費税について、09年度に予定される基礎年金の国庫負担を3分の1から2分の1へ引き上げるのに向けた財源(2・5兆円)確保の重要性を強調。幅広い世代から負担することなどを理由に「社会保障費は消費税率引き上げで賄う姿勢を明らかにする『社会保障財源化』を、選択肢の一つとして幅広く検討すべきだ」と提言している。答申は格差問題について「固定化への懸念も生じており、国民の懸念に真摯に対応することが大きな課題である」とし、所得や資産の再分配機能の強化が重要との観点から、高所得者向けの課税強化も打ち出したという。

高所得者向け課税強化
 具体的には、相続税がかからない基礎控除(最低6千万円)を引き上げて課税したり、会社員の「必要経費」の給与所得控除に上限を設けて給料の高い人の納税額を増やすことなどを求めている。また、これまで引き下げられてきた所得税の最高税率も「所得再配分の観点から検討する必要がある」と見直すことを盛り込んだ。配偶者控除や、高校生や大学生の子供がいる所帯向けの特定扶養控除など、幅広く使われている控除についても「生活様式の選択を税制が阻害しないことが重要」として、縮小の方向を示した。08年度に実現すべき項目としては昨年に続き、証券取引にかかる税負担を半減する「証券優遇税制」の廃止を提言。揮発油税(ガソリン税)の暫定税率の維持を求めている。企業減税では、製造業中心の企業に研究開発減税など政策減税の活用を、中小企業には事業承継税制の拡充などを求めている。「上げ潮路線」が重視された安倍前政権での昨年答申は、企業を活性化して経済成長率を高め、税収を伸ばすとの方針の下、多くの減税策を提案したが、今年は一転、増税色が濃厚な中長期的な改革の方向と、来年度の改正案を併せ答申している。

国の借金は先進国で最悪
 読売新聞は、税調答申の背景に深刻な財政状況があることを、次のように説明している。
【国と地方を合わせた日本の長期債務(借金)は、07年度末で約773兆円に達し、国内総生産(GDP)の約1・5倍と先進国で最悪の状況にある。しかも、高齢化で社会保障は増え続ける一方、少子化で働き手は減っていく。00年には、勤労世代(20〜64歳)3・6人で高齢者(65歳以上)1人を支えるという人口構造だったが、このままでは25年には1・8人で1人を、55年には1・2人で1人を支えるという状況になる。そこで、働き手の世代に頼りすぎない形で、社会保障の財源を賄って行く必要がある。その点、消費税は、国民が「広く薄く」負担する点が特徴だ。景気に左右されず、税収が安定している。こうした点から、消費税を税制の中核に据えるのが世界的な流れだ。欧州連合(EU)では、加盟国に付加価値税率を15%以上とするよう定めている。消費税については、低所得者ほど所得に対する税の割合が高くなる「逆進性」が最大の問題とされてきた。しかし、政府税調答申では「逆進性の弊があるとは必ずしも言えない」と主張した。】(注=財務省発表の長期債務は冒頭に書いた833・7兆円)

増税と上げ潮路線が対立
 読売の解説通り、日本の財政状況から見れば税制の抜本的改革は待ったなしの課題だ。今後は党の税制調査会(津島雄二会長)で本格的な検討に入り、今月中旬に結論を出す。党内では谷垣禎一政調会長や与謝野馨党税調小委員長らが、社会保障財源確保のため、消費税率引き上げに道筋をつけることもやむを得ないとの立場。これに対し、中川秀直元幹事長や竹中平蔵慶大教授(元総務相)ら「上げ潮成長」路線の主導者は公共事業費の3%削減など歳出削減と名目経済成長率3%を維持することで財政再建と経済成長は実現できると主張、消費税増税を先送りする考えで路線対立が目立っていた。だが、消費税増税論議を封印してきた安倍前政権と違って、福田首相は総裁選時から消費税増税に前向きで、9月下旬には、「国民生活に影響を与えるなら、消費税も上げないで頑張っていることで果たしていいのか」と増税容認論を唱え、福田政権発足直後に党の財政改革研究会(財革研)を首相の後押しで再始動させた。消費税増税が持論の谷垣政調会長が財政再建派の与謝野前官房長官を財革研の会長に据え、同研が「増税派」の砦となっていた。

名称を社会保障税に変更
 といっても、与党が7月の参院選で惨敗し、税制据え置きを掲げる民主党が参院第1党となったからには、現状において消費税率引き上げ法案を成立させることは不可能だ。党首脳は衆院選が終わるまでは消費税論議を再封印した方が得策と考えた。増税論議の推進役と期待された党財政改革研究会(与謝野会長)は政府税調答申の翌21日、消費税率を2010年半ばに10%程度に引き上げることを掲げた「中間とりまとめ」を公表したが、増税論議の過熱を懸念した福田首相や党執行部に配慮し、実施時期など具体的道筋には踏み込まなかった。財革研の中間報告は、消費税の使い道を年金など社会保障給付の財源に限り、名称は「社会保障税」の変更するよう提言、12月中旬に与党がまとめる08年度税制改大綱に反映させることを目指している。消費税を「国民にすべて還元する原則のもと、社会保障給付のための財源と位置づける」として、社会保障目的税化を掲げたのは、増税に対する国民の反発を和らげるためだ。98年には自民党と自由党の連立協議で消費税の使い道を年金や医療費などに限定することを毎年度の予算総則に明記することが決まり、今もその措置が続いているが、今回の提言はそれをさらに進めるものといえる。

全額税方式5〜7%アップ
 内閣府は10月17日、政府の経済財政諮問会議に今と同じ医療・介護給付を継続すれば、2025年度は最大30兆円超の増税が必要で、「消費税率を11〜17%まで引き上げる必要がある」との試算を公表。さらに、同25日に開かれた同諮問会議には、基礎年金制度をすべて税金で賄う「全額税方式」を導入すると、消費税率を5〜7%引き上げる必要があるとの試算が示された。この試算は、日本経団連の御手洗冨士夫会長ら民間議員4人が提案したもの。民主党は先の参院選で「基礎年金を全額税(消費税)で賄うべきだ」と「全額方式」唱え、必要財源は行政経費のムダなど歳出をカットしたり、基礎年金の支給に所得制限を設けて支出を抑えることで、「全額税方式」に変えても、現在の消費税率5%で据え置けると主張していた。この主張に反論、検証する意味もあり、民間議員は「全額税方式」を採用した場合、どの程度の消費税率引き上げが必要かの2種類を示した。

地方法人2税見直しも検討
 それによると、年金の国庫負担を2分の1へ引き上げるのに必要な財源2.5兆円を消費税に換算すると約1%の引き上げが必要になると指摘したうえ、現行の年金制度に基づき保険料を規定通り払っていた人に対して年金を支払う場合には、新たな国庫負担は約12兆円必要になるとして、消費税率は5%幅引き上げる必要があると試算した。一方、保険料を払ってこなかった人も含めて、65歳以上のすべての人に基礎年金を支給する場合は新たに国庫負担は約16兆円に膨らむとして、消費税率は7%幅上げる必要があるとしている。政府は2011年度に基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を達成する目標を掲げてきたが、いざなぎ景気を超える好景気を持続したため、目標前倒しの可能性もある。こうした経済財政諮問会議の論議を睨んで、政府税調、党の財革研は答申や中間報告をまとめたものだが、いずれも税財政改革のメニューを並べただけで、施策内容が定まっていない。党税調は消費税のほか、都市と地方の財政力格差を縮めるための地方法人2税の配分見直しや道路特定財源の一般財源化なども討議する。税制改正論議は例年以上に盛り上がってきた。私はこれらの論議に積極的に参加していきたいと考えている。