第157回(10月16日)曖昧な核無能力化 6者協議の合意文書
 北朝鮮の核問題を巡る6者協議は10月3日、「核無力化」について第2段階措置の具体的内容を定めた合意文書を発表した。それによると、年内に核施設を無能力化することや北朝鮮が核を移転しないことなどを盛り込んでおり、同国の核放棄が一歩前進することになった。しかし、「すべての核計画の完全な申告」の「すべて」が曖昧であったり、既に製造したと見られる核爆弾の扱いに触れていないなど不十分な点が多い。しかも、米国は北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除し、日朝は国交正常化に向け誠実に努力することが含まれている。テロ支援国家指定解除の具体的な期日は明記されず玉虫色だが、北朝鮮は年内解除が確認されたと解釈している。日朝国交正常化について日本は核放棄、拉致問題、ミサイルの包括的解決を主張し続けてきた。そこで、自民党は4日、外交・安保関係の合同部会を開き「拉致問題が進展しない限り、米国に指定解除をしないよう申し入れる」ことや、「輸入禁止、船舶入港禁止など対北経済制裁の継続、核無能力化の見返りの経済支援は行わない」ことを決定。政府はこれを受け、9日の閣議で対北経済制裁の半年間延期を決めた。私は「圧力と対話」の基本方針は緩めず、堅持すべきだと考えている。

3施設無能力化の行程表
 合意文書は9月27日から3日間、北京で開かれた全体会合を集約したもので、6者協議の議長を務める中国の武大偉・外務次官が3日に発表した。合意は@北朝鮮・寧辺の原子炉など3核施設を年内に無能力化するため米国が当初資金を提供、2週間以内に専門家チームを派遣A北朝鮮はすべての核計画を年内に申告、核物質や関連技術、ノウハウなどを第3国に移転させない約束を再確認B米国は北朝鮮に対するテロ支援国家指定を解除する作業を開始、北朝鮮の行動と並行して約束を履行C日朝は早期の国交正常化に向けて誠実に努力D北朝鮮に重油100万トン(供給済みの10万トンを含む)相当を支援――が骨子。年内無能力化の対象は、寧辺の5千キロワット級原子炉、核燃料再処理施設の「放射化学研究所」、核燃料加工施設の3カ所。北朝鮮は「今年12月31日までにすべての各計画の完全かつ正確な申告」との履行期限付きで核施設の無能力化とすべての核施設の申告を行うというロードマップ(行程表)が記された。3核施設の無能力化で、核兵器の原料となるプルトニウムの抽出は出来なくなる。

ウラン濃縮計画は言及せず
 だが、具体的な方法については「6カ国すべてが受け入れ可能であり、科学的、安全、検証可能かつ国際基準に合う原則に沿って」とあるだけで詳細は示されていない。また、申告対象となる核計画では、米国が強く求めていた核兵器や抽出済みプルトニウム、ウラン濃縮計画への言及はない。核施設は、定義の仕方によってウラン濃縮施設から核実験場まで含まれるが、北朝鮮の主な核関連施設には、泰川の20万キロワット黒鉛減速炉(建設中)、吉州の核実験施設、亀城の起爆装置実験場などがある。米首席代表のクリストファー・ヒル国務次官補は当初、核計画の完全申告と並んで「すべての核施設の無力化」を年内に行うと話していたが、これら寧辺以外の施設の無能力化は事実上来年以降の検討課題に先送りされた。この点について、町村信孝官房長官は3日夜、「(寧辺の)3施設の無能力化は、『次の段階』のさらに第1段階でまだ残りの施設がある。それは『次の段階』の第2段階でやると我々は理解しており、米中もそういう理解だ」と記者団に語った。核無能力化が3施設に限られていることに日本が不満を感じていることを強調したものだ。

テロ指定解除は玉虫色表現
 相当量のプルトニウムを抽出済みとされる北朝鮮にとって、寧辺の3施設は既に目的を達し、無能力化を織り込み済みの施設であって、さほどの“痛み”を伴わない核無能力化だ。政府は北朝鮮が保有するとされる約10発の核兵器や濃縮ウラン計画を念頭に、核無能力化を寧辺の施設だけで終わらせないため,@核計画の完全申告と全核施設の無能力化からなる『次の段階』の措置をすべて盛り込むA米政府による北朝鮮のテロ支援国指定解除の期限を明記させない――との基本方針で臨んでいた。しかし、共同文書では、日本の主張通り、テロ支援国指定解除の期限は明記されず玉虫色の表現になったが、「次の段階」の措置は2段階に分けられ、具体策は年内履行分だけしか盛り込まれず、日本の主張は退けられた。北朝鮮のウラン埋蔵量は豊富だといわれる。ウラン濃縮型核開発の扱いを明確に規定していない点について、ヒル次官補は「ウラン濃縮問題の完全解決を年末までに実現する」と述べているが、北朝鮮は計画の存在すら認めていない。この点にも不満が残る。

南北会談成功考え北に配慮
 2月の共同文書では「核計画の完全な申告と、すべての既存核施設の無能力化」が、エネルギー支援やテロ支援国指定解除の条件のはずだったが、その合意を北朝鮮側に実行させるための担保が極めて不明確だ。にもかかわらず米国が核放棄に向けた進展を急ぎ過ぎる背景には、イラクの終戦処理に手を焼くブッシュ政権が昨年の中間選挙に敗れて以来、一向に支持率が回復しないことへの焦りがあるからだろう。また、韓国も2日から7年ぶりに平壌で開かれた南北首脳会談を成功させるため、北朝鮮へ最大の配慮を示した。それは、4日の首脳会談での共同宣言「南北関係発展と平和繁栄のための宣言」に現れている。宣言は軍事や経済、人道問題など8項目。大規模な経済協力を推進し、朝鮮半島の非核化と緊張緩和を目指すとし「南北は核問題解決のため6者協議共同声明と合意が順調に履行されるよう努力する」ことを謳い上げ「南北は軍事的敵対関係を終わらせ、半島での緊張緩和と平和を保障するために協力していく」ことや「西海(黄海)平和協力特別地帯」を設けるとし、00年の南北共同宣言にはなかった軍事分野での合意が初めて盛り込まれた。

宣言に大規模経済協力盛る
 半世紀続いた朝鮮戦争の「休戦状態を集結し、恒久的な平和体制を構築する」ため、「関係3者(朝韓米)または4者(朝韓米中)の首脳が半島で会談する」ことまで明記し、「11月中にソウルで宣言の詳細を詰めるための首相会談を、平壌で国防相会談を開く」ことに合意している。宣言には、資源開発と結び付く開城―新義州間の鉄道、開城―平壌間の高速道路の改修などインフラ整備、白頭山観光のテコ入れ、開城工業団地開発の第2段階着手など具体的で大規模な経済協力が数多く盛り込まれた。「経済的な相互依存が最大の安保政策」と訴える韓国の廬武ヒョン大統領が、経済的困窮を深める北朝鮮側の要求を大幅に受け入れたもの。だが、南北会談の主導権は完全に北朝鮮の金正日総書記に握られ、総書記のペースに振り回されたのが実態だ。6者協議の合意文書がすんなりまとまったのも、北朝鮮が南北会談を有利に導こうとして、水面下の米朝2国間協議などで“曖昧な表現”“担保抜きの約束”になるよう努力し、核無能力化の見返りの重油供与獲得に全力を挙げてきたためと見られる。いつもながら北朝鮮の瀬戸際外交はしたたかで恐れ入る。

経済制裁続け見返り支援せず
 大騒ぎしたが、核無能力化というのは装置のボタンを外すだけで、チェルノブイリのような核廃棄ではない。合意文書を破棄すればいつでも修復可能な余地が残されている。要注意なのは、年内のテロ支援国指定解除について、米朝間に「暗黙の了解」がありはしないかということだ。朝鮮戦争が終結し3者会談が開かれるとなると、もはやテロ指定解除どころか、緊張緩和は一気に進み、日米同盟関係にも変化が生じてこよう。さらに朝鮮半島の統一機運が高まってくるのを見れば、「韓国は労せずして“核保有国”の仲間入りが出来る」との潜在意識が韓国首脳にはあるのではないかと疑わしくさえなる。日本だけが蚊帳の外に置かれ、北朝鮮の核・ミサイルの脅威にさらされ続けることになり、安全保障上ゆゆしき事態だ。日本としては拉致問題の解決なくしてテロ指定解除も核無能力化の見返り支援もあり得ない。万景峰号など船舶の入港禁止はもとより、あらゆる経済制裁は継続しなければならない。私は党の外交関係合同部会でこれらの点を強く主張するつもりだ。