第156回(10月1日)テロ対策特措法の攻防 期限切れ狙う民主
 福田政権が発足したことで、臨時国会は最大焦点のテロ対策特措法の延長法案を巡る激しい攻防に入った。政府与党は海上自衛隊の活動を給油・給水に限る新法を提出、野党が参院で新法を否決すれば、直ちに衆院に差し戻し、衆院の3分の2以上で再議決する戦略を立てている。これに対し、給油それ自体にも反対する民主党は、与党が働きかけた新法の協議に応じず、参院では慎重審議で時を稼ぎ、11月1日で期限切れとなる現行法を失効させようと対決姿勢を強めている。野党が参院で60日間議決しない場合は衆院で再議決できるが、それには11月10日までの今国会を年末まで大幅に会期延長する必要がある。現行法が失効すれば当然、インド洋上の海自護衛艦は給油任務を離れ、一時帰国しなければならない。そうなると、国際信用を失墜して国益を損なうことは甚大。多年インド洋でご苦労を重ねた佐世保基地の皆さんの士気にも影響する。私は衆院テロ対策特別委の委員として、現行法の期限内に新法を成立させるべく、懸命に努力しているところだ。

海賊や海上テロ監視に貢献
 インド洋での海自の給油量は、01年12月以降8月末現在まで、48万キロリットル(約220億円)。うち8割にあたる38万5千リットルが米国向けだが、近年の補給先は米国からパキスタンへと比重が移っている。海自隊員への危険手当など給与費を含むとざっと約300億円の費用がかかる。麻薬の原料となるケシの大量栽培地はパキスタンやアフガニスタンだ。インド洋は麻薬の密売ルートで、海賊や海上テロが横行しやすい海域。「無料ガソリンスタンド」と海自隊員は苦笑するが、これらの海域で監視行動をとる艦船に対する日本の貢献度は大きく、各国から高く評価されている。こうした日本の貢献がなければ、米国とその同盟国は日本の防衛のために汗を流してくれない。石油の大半を中東に頼る日本にとって、ペルシア湾からマラッカ海峡にかけては最重要のシーレーン。海上テロ行為があれば たちまち石油輸入ルートは途絶える。給油は自衛手段でもあるわけだ。

給油・給水に絞る新法提出
 現行法は自衛隊派遣を「事後承認」する仕組みであり、給油などの補給のほか、「輸送」や「修理・整備」「捜索救助活動」「被災民救援活動」など他国籍軍への協力支援も認めているが、民主党が過去の同法案審議で「事前承認」を主張し、給油活動の実態が不明確だと指摘していた点などを考慮し、新法では、活動を給油・給水に絞り、給油活動の情報公開の規定を設け、「事後承認」と給油以外の協力支援などは削除する方針。まず衆院予算委に与党案の骨格を示し、野党に話し合いを呼びかける。現行法の期限は2年だが、与党案では公明党の主張を入れて1年に短縮する案を検討している。事後承認の規定削除は、期限を1年間に短縮して現行の給油継続のみを規定する法律であるなら、「新法の成立によって事実上、国会承認を得たと同じになる」との判断に立っている。だが、実際は野党が過半数を占める参院で承認が得られない事態を想定し、混乱回避を狙って削除するものだ。

国連中心主義軸に民主反対
 当然、民主党は新法に反発しており、給油した艦船が対イラク戦争にかかわっていないかなど国政調査権を発動して徹底的に追及する姿勢だ。かつて同党はインド洋への自衛隊派遣を承認した経緯もあるが、「国連中心主義」を掲げる小沢一郎氏が代表に就任してから徹底抗戦の姿勢に変わった。小沢氏は「明白な集団的自衛権の行使だ」と反対するが、その論拠は@アフガン戦争は米国が国際社会の合意なしに個別自衛権の行使として始めたA憲法上、集団的自衛権を行使して米国とともに戦うことは出来ないB明確な国連決議があれば国連平和活動として自衛隊の派遣もあり得るが、今回の米行動を安保理が直接的に承認した決議はない――などだ。「対米追随」ではなく「国連中心主義」に軸足を置けと主張している。この考えは同氏の著作「日本改造計画」に示され、小沢氏のもとで昨年暮れにまとめた「政権政策基本方針」にも引き継がれている。同党は与党が衆院で再可決を目指す場合は、「その前に国民の信を問うのが筋」と衆院解散・総選挙を主張、参院幹部は「衆院で再議決されれば、首相問責決議案の提出を視野に入れて闘う」と表明している。

首相は野党と協議路線推進
 しかし、同党全体が「小沢理論」に一本化されているわけではない。前原誠司前代表は9月初旬のテレビ番組で、「テロとの戦いに参加することは重要だ。個人的にはベストな活動は洋上給油だと思う」と述べている。小沢氏率いる自由党が合流する前の民主党は、テロ特措法に基づく自衛隊派遣の国会承認に賛成していたからだ。同党には前原氏と同じ考えを持つ議員も多い。福田首相は野党との協議路線を推進し、理解を取り付けたいとしている。安倍前首相は、同法の延長問題で申し入れた党首会談を小沢代表が拒否したことを退陣理由の一つに挙げた。だが、小沢氏は「政府与党からの接触は何一つない」と呼びかけを否定したうえで、「国会の論戦で十分やれる。オープンな形での折衝を常に心がけるべきだ」と述べている。福田首相も、密室での会談より国民が見守る国会の党首討論の場や衆院テロ特別委で議論することを望んでいる。論議の盛り上がりを期待したい。

国連の感謝決議に露は棄権
 政府は小沢氏が「明確な国連決議がない」と反対したため、国連に働きかけ、「アフガニスタンの国際治安支援部隊(ISAF)の任務を延長する決議案」の前文に、日本が海上阻止行動で参加する米国主導の対テロ作戦「不朽の自由」(OEF)への「謝意」を盛り込んでもらって19日に採択された。だが、これに反発したロシアは棄権、全会一致とはならなかった。これは町村信孝前外相が「民主党説得の有力な材料になる」とし、水面下で米英仏の安保常任理事国へ打診していたものだが 、鳩山由紀夫幹事長は「民主党を賛成に回らせる手段の一環だろうが、非常にみっともない」と逆に態度を硬化させ、米艦への給油がイラク作戦へ流用された疑いがあるとし追及している。政府は国連の感謝決議を新法に盛り込み国民の理解を得ようとしているが、新法成立は日程的に特措法の期限切れに間に合わず、一旦、給油活動を中断せざるをえない状況にある。このため、通常国会に先送りする論もあるが、予算案の審議優先でさらに活動復帰が遅れることも予想される。