第155回(9月16日)年金で激しい攻防 横領・杜撰運用も発覚
 参院選での自民党惨敗は、農業政策、中央と地方の格差問題などで農村部(1人区)の支持が得られなかったことが致命傷だが、全国的に見て5月末以降、年金記録問題で内閣支持率が急落したことに敗因がある。与党はこの臨時国会で「年金の官民格差」解消を目指す被用者年金一元化法案を成立させ年金改革を前進させたい考え。これに対し、民主党は自営業者らの国民年金も含めた完全な年金一元化を公約としており、政府案には反対する方針だ。それより、同党は記録漏れ問題で再び攻勢をかけるとともに、年金保険料流用禁止法案を再提出し、ずさんな年金運用の現状を繰り返し国民にアピールしようとしている。そうした折、社会保険庁は、1962年の発足以来、同庁と地方自治体の職員による年金保険料や給付などの横領が3億円を超えていると発表。さらに、厚労省所管の企業年金連合会が管理している60歳以上の受給資格者400万人のうち124万人分1544億円が未払いになっていることが判明した。これがまた国会で白熱した論議を呼びそうだ。

対策並べたが逆風止まらず
政府与党は年金不信解消のため、社保庁改革関連法と本来なら今国会に出す予定だった年金支払い時効撤廃法を前倒しで前通常国会に提出、成立させた。「宙に浮いた」5千万件の1年以内の照合、被保険者と年金受給者の全員に送る「ねんきん特別便」、「消えた年金」を救済する中央、地方の年金記録確認第三者委員会の設置、歴代大臣らの責任を追及する「年金記録問題検証委員会」(座長・松尾邦弘前検事総長)も総務省に設置、首相や厚生労働相、社保庁全職員のボーナスの自主返納、に至るまであらゆる対策を並べ立てた。だが、逆風は止まらず参院選は大敗した。5年の時効が撤廃された結果、時効分を受け取れなかった約25万人は今月中旬から受け取りが可能になった。政府は今回の問題を契機に、長年の懸案だった住基ネットとの連携による社会保障番号、国民サービス(社会保障)カード(仮称)の実現を目指している。前国会では5千万件以外に、「コンピューターに未入力の厚生年金旧台帳1430万件」「未入力のまま廃棄された83万件」などを巡って論議を呼んだが、今国会でも野党は国政調査権を使って被害実態を追及する構えだ。

民主は年金流用禁止法案
 民主党が再提出した年金保険料流用禁止法案は、「年金制度を運営する事務費や教育・広報費、コンピューターシステムの運用費などは全て税金で手当し、保険料からは一切支出しない」というもの。厚労省と社保庁は、過去に年金保養施設グリーンピアなどの建設や運営に、年金の保険料を流用、職員のためのゴルフ道具やマッサージ機の購入などにも使ってきた。まさに“使い込み”に近い呆れた実態だった。しかし、欧米の公的年金制度の事務費も保険料で賄われているし、雇用保険や健康保険など日本の他の公的保険制度も同様に資金運用で必要経費を生み出している。年金制度の必要経費を税金から出しても、国民は別の財布で負担することになる。今年度予算では保険料から約2000億円が、年金の運用経費に使われているが、民主党が言うように国庫から支出すれば、どう財源を捻出すればよいのだろうか。コンピューターのシステム費には1200億円も掛かっているというが、むしろ、運営経費の現状を精査する方が先だ。IT技術は日進月歩の進展だが、年金システムは随意契約によって特定企業から導入したまま、一向にコストダウンは図られていないようだ。本当に必要な運営経費かどうか、十分審査してみなければなるまい。

3億4千万円の横領・着服
 こうした中で、社保庁は3日、年金横領の実態を公表した。それによると、62年の発足以来、職員による年金保険料や給付などの横領が判明したケースが50件、横領金額は1億4197万円。市区町村職員の国民年金保険料の横領も49件、2億77万円。両者で99件、横領・着服金額は3億4274万円に達していることが分かった。その後の朝日新聞の調べで、市区町村職員の横領は日光市で1件増え、計50件になった。社保庁職員の横領は、保険料が22件で3365万円、年金給付が13件で8047万円、医療保険の高額療養費の払い戻しなどが15件で2784万円だった。第2次調査によると、端末の不正操作で被保険者記録を偽造したり、死亡年金受給者の住所と印鑑を変更して書類を改ざんするなど手口は巧妙。横領金は借金返済、ギャンブル、女性との遊興費に充てるなど悪質だった。舛添要一厚労相は「これは年金泥棒だ」と怒り、横領した社保庁職員はもとより、自治体職員の処分の詳細などについても調査し、必要があれば刑事告発を促すよう、増田寛也総務相に要請した。だが、業務上横領の告発は7年で時効。捜査は困難だ。

厳格な法運用で社保庁再生を
 一方、企業年金連合会(加藤丈夫理事長)は、転職などで厚生年金基金を短期間で脱退したり、基金が解散したりした会社員の年金資産を引き取って運用・給付を行う民間団体。同連合会は5日、60歳以上の受給者年金記録400万人分の3割強に当たる124万人分が「本人から受給の請求が行われていない」ことを理由に未払いになっていることを発表した。企業年金についても「宙に浮いた年金」は06年度末時点で1544億円の巨額に達している。民間団体といえ、同連合会の歴代理事長は厚労省の幹部OBが務めており、未請求の本人への通知など有効な対策を怠ってきた監督官庁の責任は重い。社保庁の年金横領は保険料の流用よりも悪質であり、野党はずさんな年金運用とともに多年にわたり不祥事を巻き起こした政府の責任を厳しく追及している。しかし、社保庁のでたらめ運用は、同庁労使間で結ばれた長年の悪しき労働慣行によって培養されてきたぬるま湯的な勤務体質に根源がある。これを解体、再生しなければ改善の道はない。政府は年金不信を解消するため前通常国会で社保庁改革関連法を成立させた。同法の厳格な運用が強く望まれる。