第153回(8月1日)姿消す中国鰻蒲焼き 食品の監視体制強化を
 7月30日の「土用の丑の日」には、低価格が“売り”だった中国産ウナギ蒲焼きの多くが店頭から姿を消し、食卓にも大きな影響を与えた。これは中国が、国内生産食料品の14%が安全基準を満たしていないと公表、禁止された薬物を使ったウナギ蒲焼きなどの輸出を禁止したからだ。中国政府が食品衛星に意を注ぐようになったのは、来年の北京五輪、3年後の上海万博に備え、外国客に安心感を与えるのが狙いのようだ。北京テレビは7月中旬、「段ボール肉まん」の隠し撮り映像を放送し、国民が大騒ぎしたが、後に“やらせ報道”と分かった。それだけ中国国内では「食の安全」に関心が高まっている。日本でも豚肉を牛肉に見せかけた「偽装ミンチ」事件が起きた。また、食べた人の神経に麻痺症状を起こす貝毒が、貨物船の船内に入れる「バラスト水」によって運ばれてくることを朝日新聞が伝えた。梅雨から夏にかけては食中毒の季節。私は自民党の水産部会長として、輸入、国産の水産物はもとより、冷凍水産物についても生産過程、流通経路に監視の目を光らし、国民生活の安全と食の信頼に努めたいと考えている。

どうせバレないと偽装ミンチ
 「潰して混ぜれば肉の味など分からないし、どうせバレない」――。食品加工卸会社ミートホープ(北海道苫小牧市)の田中稔社長や元幹部はこう告白した。豚肉を牛肉に見せかけた「偽装ミンチ」は、冷凍食品大手の加ト吉(香川県観音寺市)の子会社などで製品化され、生協連(組合員数約2300万人)などを通じて全国に流通していた。米輸入牛肉のBSE(牛海綿状脳症)事件に次ぐ食肉業界の不祥事である。田中社長は初め、「うちの冷蔵庫には沢山の肉があり、何かの間違いで牛に豚が混ざったかも知れない」ととぼけていたが、記者会見の席で役員の長男に促され、「偽装ミンチ」を告白した。ミート社の元幹部によると、7,8年前以来、様々な仕入先から賞味期限ぎりぎりの食肉や返品の「牛肉コロッケ」などを出来るだけ安く購入、「悪いこととは知りながら」牛ひき肉に豚肉を混ぜたり、豚や牛の内臓を混ぜる手法を取ってきた。豚の心臓は赤身が強く、混ぜると牛肉と見分けがつかないからだ。冷凍肉を溶かすには雨水を使ったり、床に落ちた肉も平気で混ぜるなど非衛生的な製造法だったという。田中社長は「過当競争の中での利益追求の結果であり、安い品を求める消費者がいる限り仕方ないこと」とうそぶいている。

段ボール混ぜ肉まんはやらせ
 「偽装ミンチ」以上の驚きは、中国の「肉まん」だった。中国産の食品や薬品に各国の不信感が高まる中で、北京テレビは7月11日、ドロドロに溶かした段ボールの塊をひき肉に練り込んでいる映像を隠し撮りして放映した。段ボールを苛性ソーダ溶液に浸し、濃い褐色に変化し柔らかくなった塊を取り上げ菜切り包丁で刻み、豚の脂身肉4対段ボール6の割合で、香料を足して10分ほど蒸すと肉まんが出来上がる。段ボールは木の皮が原料の繊維質で栄養は全くないが、苛性ソーダが残っていれば内臓を溶かす害がある。放送後のインターネット掲示板には「何を信じて食べればいいのか」などの書き込みが殺到、国内外でも大きな反響を呼んだ。ところが、北京市公安当局が調べた結果、番組下請けの臨時職員が自ら持参した肉や段ボールを出稼ぎ労働者4人に渡し、演技させた“やらせ報道”で、テレビ局は謝罪した。水道水が飲料に適さない北京では、大型ボトル入りの飲料水を家庭や会社で飲んでいるが、北京市内で売られている大手4社の飲料水が年間約1億本であるのに対し、実際に流通している4社の銘柄入り大型ボトルは倍の約2億本もあり、しかも中身は単なる水道水を入れた偽物が多いそうだ。中国中央テレビは、河南省で約1万3千本の偽ワインが見つかり、水で半分以上薄めて香料を加えており、価格は本物の5分の1程度だったと報じたと、朝日は伝えている。食の安全に関心が高まるのは当然だ。

細菌類や食品添加物を検出
 同紙によると、中国の国家品質監督検査検疫総局は、07年上半期に中国で生産された食料品3384品目について品質検査をしたが、7月4日付英字紙チャイナ・デイリーの報道では、14%が安全基準を満たしていなかったと言う。2777社が生産し、国内向けに出荷している食料品を検査したところ、特に果物缶詰や干し魚、飲料水に不合格が目立った。細菌類や食品添加物が基準値以上に検出されたほか、ラベルの虚偽表示が多かった。同総局は、食料品に加え家電や肥料など計7200品目について調査しており、全体では19・1%が不合格だった。生産した企業の規模別にみると大企業の製品は不合格率が6・9%だったが、小規模な企業では27・1%に達し、品質管理に問題を抱えていることが浮き彫りになっている。しかし、同総局は同月20日、「今年上半期、日本向け中国食品の合格率は99・8%だった」と検査結果を公表、温家宝首相は「合格率100%を目指す」と語った。中国は悪質な場合は厳重に処罰する方針で、ニセ薬承認の見返りに649万元(約1億円)の賄賂を受け取った中国国家食品薬品監督管理局の前局長を収賄、職務怠慢罪容疑で逮捕、死刑判決を下し、40日後の同10日にスピード処刑した。消費者に身近な製品の安全性を担当する幹部(閣僚級)の腐敗に厳しい姿勢を示したものだ。

米国も中国製品の輸入締め出し
 最近米国では、中国産の養殖ウナギに発ガン性が指摘された抗菌剤を使用していたり、子供用スナックに有害な調味料を使っていたり、ペットフードを食べた犬、猫が急死したことなどが発覚、食品、薬品を含めたメイド・イン・チャイナ製品に輸入禁止キャンペーンが始まっている。サンフランシスコ・クロニクル紙は「タイヤチューブ、練り歯磨き、玩具などの中国製品が健康に有害だと米市場から閉め出されている。中国製品は安さを意味していたが、今や安全性に問題があり、検査体制も弱く消費者の懸念の対象となっている」と食品以外の製品についても有害物質排除の遅れを批判した。これを受けて中国政府はさらに7月10日付で、禁止薬物を使ったり、検査・検疫を受けずに輸出した、食品企業41社のリストを公表した。温家宝首相は同18日、中国訪問中の河野洋平衆院議長と会談、「中国は輸出商品の品質に責任を持たねばならない。品質向上に努力したい」と述べ、海外で懸念が高まっている中国製食品の安全性について品質管理を徹底する考えを示した。

土用丑の日に輸入鰻蒲焼撤去
 中国政府が公表したリストの中には、養殖ウナギに禁止薬物を使った以外に加工の際に大腸菌が付着したウナギ蒲焼きもあったとして、食品企業の「甫田興和食品有限公司」が輸出停止の処分を受けた。同公司からウナギを輸入していた加ト吉は安全性の再点検を始めた矢先にこれを知り、同公司の安全性が確認されるまで販売と予約受付を一時中止した。加ト吉のKサンクスは同公司のウナギを使った「炭火焼ウナギ蒲焼重」を全国約6200店舗の一部で約2万食販売し、7月末の「土用の丑の日」までの3日間に向けて予約も受け付けていたが、問題の弁当を全て店頭から撤去し、販売を中断した。食料自給率40%の日本は、米国から約20%、中国から約17%の食料品を輸入しており、輸入野菜の6割は中国産が占めている。これらに細菌類や基準値以上の添加物が検出され、食の安全が脅かされるようではたまらない。中国は「美食の国・食の大国」のメンツにかけても、北京五輪、上海万博を成功させようと食の安全運動を全国的に展開、国民に衛生意識を啓蒙している。

バラスト水が微生物の運び屋
 輸入食料だけでなく、「マリンペスト」と呼ばれる海の外来微生物が、世界の海で生態系を乱していると、朝日は7月中旬に報道した。豪州の研究者が89年に「有毒プランクトンが日本船のバラスト水で運ばれてきた」と発表して以来、注目を集めている。有害プランクトンは貝類に溜まり、貝を食べた人の神経に麻痺症状を起こし、最悪だと死亡することもある。貨物を運ぶ船は、荷を降ろして軽くなると船の姿勢を保つため船内に海水を入れ、重しとする。このバラスト水がないと船は不安定になり、プロペラが浮き出て航行も困難だ。寄港先で荷を積む時は逆に余分なバラスト水を排出する。麻痺性貝毒の原因となる有害プランクトンは過去30年で世界中に広がったが、そのうち相当数はバラスト水が運び屋だ。カスピ海などではバラスト水が原因とされるクラゲの異常発生が報告された。マリンペストの拡散を防ぐため、国際海事機関(IMO)は04年にバラスト水管理条約を採択したが、日本など海運国の大半は、未だ批准していない。

麻酔性貝毒生むプランクトン
 朝日によると、マリンペストはしぶとく、国立環境研究所の実験室では、麻痺性貝毒を起こす種類など11種の植物プランクトンが、休眠状態を経て2カ月も生きていたという。バラスト水を寄港地に持ち込まないよう、一部の航路では外洋でタンクの海水を入れ替えているが、そんな対症療法でなく、紫外線で微生物を殺すノルウェー方式、過酸化水素を使うドイツ方式、海水を電気分解する韓国方式など色々あるようだ。食の不安は、偽装ミンチのような悪辣な人為的欠陥食品、マリンペストのようにエコロジー(環境)が生み出す危険食品など多彩だ。安倍首相は同17日に官邸で開かれた、国内の食料を安定的に確保する「食料の未来を描く戦略会議」の初会合で「意欲ある農業者の支援によって、国産農産品の市場拡大は十分に可能」と述べ、食料自給率を高める意欲を強調した。民間組織の「日本食レストラン海外普及推進機構(JRO)」も翌日に発足、日本食の魅力を世界にPRする「攻めの農政」に船出することを決めた。これらの動きと並行して、私は食品の監視体制を一層強化し食生活の安全・安心を確立する農水行政を推進したいと考えている。