第151回(7月1日)年金と住民税が直撃 どうなるふるさと納税
 年金問題が安倍政権を直撃している最中、6月から住民税の負担が急増、またも参院選に暗雲が垂れ込めている。
 三位一体改革で所得税(国税)から個人住民税(地方税)へ3兆円の税源移譲があった結果によるものだ。優遇措置の定率減税が完全廃止されたこともあり、1月から所得税が減ったとの実感はなく、その分が住民税に上乗せされたため、増税感が一気に強まっている。
 3年前の参院選も年金問題が災いし、自民党は民主党に僅差で敗れたが、当時の幹事長を引責辞任した首相にしてみれば年金、税金は最大の悪夢。首相は参院選公約の主柱に掲げていた持論の憲法改正、教育再生よりも「年金と医師不足」対策を最重要課題に据えるよう指示。政府の「骨太の方針2007」には「ふるさと納税」など地方重視の政策を打ち出した。
 しかし、東京、大阪など富裕都市はふるさと納税に猛反対している。私は地方議員経験者として、大都市と地方の格差解消には賛成だが、単に地域間の財政力格差縮小だけでは解決できない。
 高齢化に向けた地域社会の福祉、教育、治安の総合施策を入念に描き、本格的な地方分権国家の建設に取り組みたいと考えている。

1割で1兆2千億円の故郷恩返し
 「多くの自治体から『高校までは地方が教育などを負担して育てても、いざ税金を払うよう(な年齢)になると都会に出てしまう』と言う意見がかなりあった。都会で生活している人も『ふるさとに恩返しがしたい』と言う思いもある」――。
 菅義偉総務相は5月8日の記者会見で、首相から「ふるさと納税を検討せよ」との指示があったことを強調しながら熱弁を振るった。
 住民税は住所のある自治体に納めるのが現行制度。だが、ふるさと納税制度は、自分が自らの意思で生まれ故郷など別の自治体に一定割合を納めるように改めるもので、菅総務相は1割ぐらいの約1兆2千億円の移譲を考えている。都道府県別の人口1人当たりの地方税収額は、最多の東京都と最少の沖縄県で3・2倍の差がある。制度導入で都市と地方の格差が是正でき、参院選の勝敗を決する1人区対策の切り札になるとして、政府・与党内ではふるさと納税構想に賛同する声が多い。首相は昨年の自民党総裁選で「地方税の偏在をならす必要がある」と訴えており、安倍内閣の重要課題でもある。

「受益者負担」の原則崩す
 谷垣禎一前財務相も総裁選で、住民税の一部を「ふるさと共同税」として蓄え、自治体に再配分する構想を唱えており、財務省も、藤井秀人事務次官が「地域間の財政力格差の縮小という流れに沿う。
 今後(財務、総務両省の)実務者会合で議論される場面もある」と理解を示し、地方間の“税のむしり合い”には抵抗感が少ないようだ。
 しかし、住民が税金の払う先を勝手に選ぶとなれば、行政サービスの提供者に納税するという「受益者負担」の原則を崩しかねない。さらには住民が税負担の代わりに首長や議員を選ぶという民主政治の根幹すら揺るがすという問題も生じてくる。
 田中康夫・新党日本代表が長野県知事時代に「頑張っている町村を応援したい」として、長野市にあった自分の住民票を約190キロも離れた県南部の泰阜村に移し、物議を醸したことがある。
 田中氏は、同村が助役を置かずに議員定数も削減してコストカットに励んで生み出した予算を福祉に回していたことに共鳴したものだが、訴訟を起こされ、長野地裁は「民法及び、住民基本台帳法で住所は生活実態のある本拠とすべきであり、そこに納税義務も負う」との判決を下した。

幹事長は寄付金税制提案
 「行政サービスを受けず、選挙権もないとするなら、税ではなく寄付金に近い。それなら寄付金税制の拡充で対応するのが筋」と神野直彦東大教授は指摘。中川秀直幹事長も住民税のみならず、国税の法人税や所得税も対象とした自治体などへの寄付金額に応じて税額を控除する新しい寄付金税制を提案している。
 また、都の副知事就任を受諾した作家で地方分権改革推進委委員の猪瀬直樹氏は、東京中心部(JR山手線内の12区=人口300万人)をワシントンDCのような「東京DC特区」とし、この地域の法人2税(事業税、住民税)計1・5兆円を地方に分配する案を密かに石原慎太郎都知事に進言している。
 朝日新聞によると、東京都の今年度予算で地方税収額は5兆3030億円を見込んでいるが、バブル期を超えて過去最高。景気回復に伴い、企業が集中する東京の地方法人2税の伸びが押し上げた。
 今年度は福祉や環境など目的別に1200億円の基金を積み立て、来年度までに都の基金は1兆円に上る見込みだという。五輪招致に向けて積み立てる基金は4年間で4千億円だが、この額は高知や香川県の一般会計予算とほぼ同じだそうだ。
 4月下旬の経済財政諮問会議では、「東京は納める人も企業も多い。東京のおカネが余って島根が足りない」「どうしたら格差是正が出来るか」との声が相次いだ、と朝日は伝えた。

狙い撃ちと石原知事猛反対
 「東京だけを狙い撃ちにする話はおかしい」――。石原知事は5月23日、茨城県つくば市で開かれた関東地方知事会で「ふるさと納税」構想に語気を強めて反対した。さらに、石原東京、松沢成文神奈川、神田真秋愛知、太田房江大阪の4知事は塩崎恭久官房長官と会い、ふるさと納税の導入や地方法人2税の再配分について「断固反対」を申し入れた。
 朝日によると、東京都の反論材料には@交通渋滞など、大都市特有の財政需要があり、地価が高く用地取得にもコストがかかるA他県から昼間に300万人以上が流入し、23区を走る大型車の3分の1は他県間の通過交通で、東京は他の地方のコストも担っているB逆に、羽田空港の再拡張や環状道路の整備など東京の大規模公共事業は、地方にも大きなメリットがある――などを挙げている。
 そして、こうした都の主張の背景には、東京への投資が国全体を牽引する、いわば「東京機関車論」があることを同紙は紹介している。野党が追及する地域格差問題に先手を打つ狙いもあったふるさと納税構想だが、党内では逆に「大都市の有権者や自治体の反発を招く」との懸念もあり、「税制になじむかどうか、十分に検討する必要がある」(津島雄二党税制調査会長)などの慎重論も出始めている。

税源交換や地方共同税構想も
 菅総務相はふるさと納税構想を唱える前の4月、「地方法人2税を国に返上し、税収の偏りが少ない消費税の地方分を増やす税源交換」を提案したが、自民党内でも、地方法人2税を国がプールし、面積や人口に応じて各地に配分する「地方共同税」や、自治体への寄付を所得税から全額控除する案が提起されるなど、百家争鳴の感を呈している。
 もともと、地方自治体の財政力に格差が広がったのは税源の偏りが原因だ。小泉政権は地方税財政の「三位一体改革」と鋭意取り組んだが、積み残した課題も多い。02〜05年に議論された改革では補助金、税制、地方交付税の一体的見直しが課題であり、所得税から個人住民税への3兆円の税源移譲と、4・7兆円の補助金削減が実現して、冒頭に述べたように6月からの住民税が約2倍になるなど負担増が家計を襲った。さらに、改革では交付税の「総額抑制と財源保障機能の縮小」が謳われ、補助金の大幅削減を後押しした。

老人、団塊、非正規票の行方は
 しかし、朝日によると、地方の首長の間では、地方の自立を目指した改革というより、「国の財政再建が優先され、改革は中途半端に終わった」「国から地方に税源を移すだけでは、地域間の税収格差が広がる」などの不満が強く出されたという。
 それよりも問題なのは、1月から所得税が減った分がそっくり税源移譲で住民税に上乗せされたため、収入の少ない65歳以上の高齢者は昨年に続いて実質的な大幅増税になるうえ、住民税額をもとに決まっている国民健康保険料などの負担増が予想されることだ。
 昨年は高齢者の医療費も人によっては1割から3割増に引き上げられたが、高額介護サービス費の補助など市区町村のサービスは、住民税の非課税世帯を優遇しているものが多い。これらのサービスが受けにくくなるうえ、特別養護老人ホームでの食費負担なども増える。定年期を迎え、シルバーエージに入る団塊の世代も6月からの住民税アップには驚いただろう。高齢者、団塊の世代、ロストゼネレーションといわれる非正規雇用の200万人を合わせたサイレントマジョリティの有権者はざっと2千万人を数える。参院選には大きな影響をもたらしそうだ。