北村の政治活動

 (平成13年8月1日) 近隣外交の視点  教科書、靖国の波紋

 我が国と近隣諸国の関係が急にささくれ立ってきた。歴史教科書問題、靖国神社参拝、北方4島沖のサンマ漁を巡る対立。これは日韓間に突き刺さったトゲの3点セットだ。中国とも、韓国と共通する教科書、靖国のほか、台湾の李登輝前総統来日以降ぎくしゃくしてきた関係に、農産物セーフガード(緊急輸入制限措置)の暫定発動が緊張を高めている。

 影響招く公式参拝

 こうした中で小泉純一郎首相は、終戦記念日の8月15日、公約通りに靖国神社に公式参拝する。これがまた、日韓間の漁業問題、日中間の農業・貿易摩擦に大きな影響をもたらす。さらに1年以内に迫ったサッカー・ワールドカップの共同開催に暗影を落としそうだ。衆院農水委員会に席を置く私の政治活動にも大きく響くので、少し解説を試みたい。

 ゼロ回答に反発

 中・韓両国との関係が急速に悪化したのは、検定合格した中学歴史教科書問題。「新しい歴史教科書をつくる会」が執筆した扶桑社の歴史教科書に、韓国は歴史認識の違いを挙げ、24項目(他の出版社には9項目)、中国は8項目の修正を要求した。これに対し、日本が事実上の「ゼロ回答」をしたため、金大中韓国大統領が日本政府を激しく批判、日本大衆文化の追加開放の延期、軍事交流の中止、学生・教師交流事業の見直しなど次々に対抗措置を繰り出してきた。そして首相の靖国参拝を厳しく見守っている。韓国国会も教科書問題への不満から7月18日、対日関係全般の見直しを政府に促す決議を採択した。

 日韓親善ムード冷却

 金大統領は98年の訪日を機に日韓共同宣言を発表、未来志向の日韓関係の牽引役を担ってきたが、韓国の各省庁、地方自治体、民間に高まる歴史教科書批判など韓国世論を受けて、韓国を訪問した自公保3党幹事長との会見を拒否するなど強固姿勢に転じたもので、日韓関係は98年以前に後退しつつある。来年に共同開催するワールドカップに向けて折角盛り上がってきた日韓親善ムードも教科書問題が一気に冷却させている。

 内政干渉まがいの行為

 「日本の検定制度に粘り強く理解を求めていくしかない」と福田康夫官房長官がいうように、日本は中・韓両国のような国定教科書ではなく、合格した検定教科書を各教育委員会が自由・公平に採択できる仕組み。仮に歴史認識に違いがあれば、地方教育委が独自の判断で選択を見合わす極めて民主的な制度だ。現に扶桑社の歴史教科書を採択する教育委は少ないようだ。これに他国が注文を付けるのは、内政干渉紛いの行為と国民には映る。

 波立つ北方4島沖

 悪いことに反日感情が加熱するさなか、北方4島沖で韓国のサンマ漁問題が起きた。日本が韓国船に許可していた三陸沖の漁獲が日韓漁業協定の影響を受け激減したため、昨年末に韓ロ漁業協定を締結、北方4島周辺水域でのサンマ漁を7月から11月にかけて行うことになったからだ。99年1月発効の日韓漁業協定では、互いに排他的経済水域を認めて操業条件を規制、韓国漁船の三陸沖操業は旧協定の「沿岸から12海里以遠」が35海里以遠に変更された。サンマは沿岸から遠ざかるほど水揚げが少なくなるため、98年に1万3千トンあった韓国の漁獲量は354トンに激減、北方4島沖に向け出港せざるをえなくなったようだ。

 実行支配ないと韓国

 日本政府は「北方領土水域での操業は日本の主権を損なう」と潜在主権をたてに抗議しているが、韓国は「日本は北方4島を実行支配していない」と述べ、ロシアも「漁業と領土交渉は別問題」とし、双方の主張は平行線をたどっている。日本側は、同水域で操業を始めれば三陸沖での操業を認めない方針で折衝を重ねている。しかし、教科書問題で韓国の最大野党ハンナラ党は「中国政府と連携し、あらゆる方法で日本を国際社会から孤立させるべきだ」と主張している。また、首相の靖国参拝で「日本の再武装」を危惧する声が起きるなど、さらに対日感情の悪化が予想され、漁業問題の解決は容易ではない。

 中国は歴史認識に懸念

 中国は教科書よりも首相の靖国参拝を盛んに牽制している。江沢民国家主席は、北京を訪問した与党3党幹事長との会談で、「歴史問題はきちんと対応すべきだ。火をつけると直ちに大きな波風を起こす」と小泉首相の歴史認識に懸念を表明、「問題はA級戦犯だ。戦争責任を負ったA級戦犯が合祀されている靖国に一国の指導者がお参りするのは受け入れられない」と批判し、首相に慎重な行動を求めた。さらに、中国の唐家せん外相はハノイで記者団に「田中真紀子外相に対し、(参拝を)止めなさいと言明した」と語った。この命令調の発言には、山崎拓自民党幹事長が「内政干渉であり、非常に遺憾」と不快感を示している。


 暫定発動に報復措置

 中国は台湾の李登輝前総統の訪日を機に、日中両首脳の往来をストップしているが、日本の農産物3品(ネギ、生椎茸、い草)のセーフガード暫定発動などの貿易摩擦や、日本が理解を示す米ミサイル防衛構想を巡って新たな対立が生じている。中国は野菜の暫定発動に対し、6月22日から日本製の自動車、携帯電話、空調機の完成品輸出に100%の特別関税を課す報復措置に出た。日本の緊急輸入制限措置は世界貿易機関(WTO)のルールに沿った正当な措置だ。それを中国が、ルール無視の報復手段に訴えたことは、11月のWTO加盟が決まった中国にとって国際信用を落とす結果になりかねない。

 現地生産は影響なし

 農産物3品の輸入額は年240億円だが、報復措置3品目の対中輸出は昨年実績で計619億円。差し引きの単純計算で2倍以上の打撃を受けるが、両国間の貿易額が昨年、9兆円を超えたことを思えば、報復措置は微々たるもの。エアコンの対中輸出56億円は全販売額の1・2%に過ぎない。しかも、部品の輸出は対象外なので、中国内進出企業の現地生産には、あまり影響がないという。それでも平沼赳夫経済産業相は「日本製品に限定した措置は最恵国待遇に違反する」と報復措置の撤回を要求、同時に日本側のセーフガードは撤回しないで協議を進めている。

 戦争遺族は感動

 「二度と戦争を起こしてはならないという気持ちから参拝することが憲法違反だとは毛頭思っていない」――。首相は前国会でこう答弁した。また、「家族と離れ、戦場に赴いた方々の気持ちを思うと本当に胸が打たれる」「なぜ戦没者に敬意を表す行為が批判されなきゃならないのか」と切々と訴え、参院選前の戦争遺族を感激させた。靖国参拝を巡っては、中国が指摘したA級戦犯合祀に絡む歴史認識問題のほか、憲法の政教分離の原則など、野党ばかりでなく与党の公明党内にも反対や慎重意見がある。多くの裁判所も「公式参拝は憲法に違反する疑いが強い」と指摘してきた。

 首相眼和発表も

 そこで、首相は米のアーリントン墓地のような国立墓地の建設を検討すると述べている。靖国参拝時には、「日本が過去を反省し、二度と戦争をしない決意」を表明する首相談話を発表、反発を薄める考えだ。政府は、戦後50年に当たる95年の終戦記念日に、当時の村山富市首相が、侵略でアジア諸国に多大な損害と苦痛を与えたことに「痛切な反省の意を表し、心からお詫びの気持ちを表明する」との談話を発表している。これに習って、過去の反省と不戦の誓いを表明、近隣諸国の批判を和らげようとするものだ。

 堂々の公式参拝で決着

 「熟慮し、断行する」靖国参拝で、首相は@公用車を使うA玉串料は払わないB記帳は「内閣総理大臣」とするC他の閣僚には参拝を呼びかけないーーなど、多少の配慮を見せながらも、堂々たる公式参拝の姿勢を打ち出している。首相の心中には、終戦記念日という節目の日に公式参拝を実現することで、近隣諸国に対し長年の釈明に終始してきた過去からの懸案問題に、決着をつける決意が隠されているようだ。

 的確な判断で農水対応

 このように靖国、教科書問題は近隣諸国の外交に深い影を落とし、2国間の経済問題に大きな影響をもたらしている。首相が靖国公式参拝を断行し近隣諸国の対日感情をさらに悪化させるか、それとも与党3党幹事長の慎重意見を聞いて参拝を断念もしくは日程を変更するか、全く予断を許さない。だが、北方4島周辺沖のサンマ漁は8月に最盛期を迎え、対中国のセーフガード本格発動も11月に迫っている。私は衆院の農水委員として、これらの状況を的確に判断し、日本の農水行政を誤らぬよう、政府に対し大いに発言していく決意である。