第149回(6月1日)脱却に天下り規制追加 党は官僚支援し対立
 参院選では官製談合の温床とされる公務員の天下り規制が1つの焦点となっている。5月15日の衆院本会議から審議入りした国家公務員法改正案は、再就職斡旋を一元化する「官民人材交流センター」の新設が目玉。規制の違反者には「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」という重い罰則も設けている。 安倍首相は「戦後レジーム(体制)からの脱却」を唱え、憲法改正、教育再生を政策の柱に掲げてきたが、それに天下り規制を追加した。
 
 民主党は政府提案を「天下りバンク」法案と批判し、「天下り禁止期間の5年間への延長」など、より厳しい対案をぶつけて応戦している。もともと、与党内では霞が関の抵抗が強い天下り規制に消極的で、法案制定の過程では、天下りの根絶を図る政府側と、官僚を支援する党側が対立、一時は険悪な空気が漂っていた。しかし、再就職を繰り返して高額な給与や退職金を得る公務員OBの「渡り鳥行為」「玉突き人事」に国民の批判は強い。省庁再編の動きもあり、私はこれら課題ともじっくり取り組みたいと思っている。

3年以内に人材斡旋一元化
 法案の骨子は【能力実績主義】職員の任用、給与は、採用試験の種類や年次にとらわれない【再就職】各省による営利企業や非営利法人などへの再就職斡旋を禁止。08年中に新設する官民人材交流センターで、設置後3年以内に斡旋を一元化【規制】職務と利害関係にある一定の営利企業などに対する求職活動を禁止。退職前5年間で担当した職務に関する業務に就く働きかけを2年間禁止。自らが決定した契約に関しては永久に禁止【罰則】違反者には1年以下の懲役か50万円以下の罰金――である。
 
 これに対し、民主党は「政府提案のいわゆる『天下りバンク』法案では、お天道様の下で堂々と天下りの斡旋が行われ、官民の癒着が現在よりも深刻になる」と国会で追及した。職員の再就職斡旋を担う人材バンクを作っても天下りは根絶されず、むしろ天下りが公認されると言うのが民主党の「人材バンク批判」だ。同党は「斡旋自体を認めず、天下り禁止期間の5年間への延長」を掲げた独自の法案を提出している。

諮問会議が閣僚より上かと片山氏
 政府案が決定されるまでには多くの曲折があった。天下り規制には省庁の抵抗が激しく、塩崎恭久官房長官や渡辺喜美行革担当相ら政府側と官僚を支援する党側が激しく対立した。政府原案は3月26日の経済財政諮問会議で決定された。諮問会議決定を急いだのは、官僚の「問題先送り工作」をかわす狙いだったが、その前日に開かれた党行革推進本部拡大幹部会で、片山虎之助公務員制度改革委員長(参院幹事長)は「60数年ぶりの公務員制度の大改革なのに何で諮問会議で決めるんだ。諮問会議が閣僚より上、与党より上というのは納得いかん」と怒り、中川昭一政調会長も「細かい法律論より前にこの法案で公務員の誇りや矜持は保てるのか、優秀な人材が集まるか」と批判した。
 塩崎、渡辺両氏が同24日に全閣僚に提示した最終案では、内閣府に設置する新人材バンクについて、@「人事の一環」から「再就職の支援」へ A「各省縦割り」から「内閣一元化」へ B透明性と規律の確保――の3原則を示した。また、改革の全体像では、国家公務員の早い定年も天下りを産んでいるとの認識から、定年延長を早急な検討課題としていた。

官僚・党側に譲歩の3原則
 25日の調整で、閣僚側から「先に天下りの規制を強化するのではなく、定年延長と一緒にやるべきだ」との意見が最も多く出されたからだ。安倍政権が改革案を強行すれば「国家公務員全体を敵に回しかねない」との懸念を表明する閣僚もいた。省庁側から塩崎官房長官にファクスで届けられた政府案に対する反論文書は厚さにして3センチ以上の膨大な量。閣僚、与党議員への陳情も熱を帯びた。さらに省庁側からは、人材バンク制度について「人事当局との適切な連帯が必要だ」「有効に機能するか検討してからでないと斡旋を一元化すべきではない」など反対意見が強く出された。
 3原則は渡辺担当相が中川秀直幹事長や片山参院幹事長らに23日提示したもので、20日に党側に示した「人事当局の関与は必要最小限」「トンネル機関にしない」との文言を削除して党側に譲歩。「職員に出身省庁関係の斡旋業務を担当(直接交渉)させない」ことを強調する一方で、中央組織と地域ブロック別組織を設けて斡旋を一元化するというもの。「積極的な求人開拓や、バンク利用職員の人物情報の収集などについて必要な体制の構築に配慮する」と付記し、各省の人事当局者によるバンク参画は容認すると譲歩した内容。具体的な制度設計は、有識者懇談会を設置して進めることにした。

キャリア天下りは前年より増
 天下り規制には世論の関心が高い。人事院がまとめた平成18年の「営利企業就職承認年次報告」(天下り白書)によると、本省課長級以上の承認者は前年比5人増の69人(平均年齢56.6歳)と、2年ぶりに増加。「省庁の斡旋による再就職」が全体の4割以上を占めている。再就職の経緯では「省内の斡旋・仲介」が31人と最多で全体の44.9%を占めた。
 「自発的な就職活動・知人の紹介」が18人、人事院の「紹介システム」が15人だった。省庁別は財務省が23人で4年連続トップ。次いで経済産業省の10人、国税庁8人、国土交通省7人の順。皮肉にも政府が「天下り規制法案」を閣議決定した4月24日、東京証券取引所が今秋新設する自主規制法人の初代理事長に林正和元財務次官を就任させる「天下り人事」を発表した。官邸サイドが「財務省の挑戦」と見て同省に中止を求めたが、「民間の東証が決めたことで、財務省は関与していない」と受け流されている。

揺り籠から墓場まではおかしい
 こうした経緯もあり、官邸側は6月下旬に任期満了する成田国際空港会社(NAA)の黒野匡彦社長(元運輸事務次官)の再任を拒否、民間出身の森中小三郎住友商事特別顧問を起用した。関西、中部両空港会社のトップが既に民間人から起用されていることが理由。

 「公務員になった人は死ぬまで公務員だという必要は全くない。官と民の相互人材交流を進めていく発想だ」「公務員になったら揺りかごから墓場まで面倒見てくれると言う文化が若い人に魅力ない職場だと思われている。有能な公務員の能力と経験を再就職で開拓していくことはいくらでもできる」「民間企業は税金を払って子会社を作っているが、官は税金を貰って仕事をやっている。公益法人や企業を子会社感覚にしたら、癒着の温床と言われる」――。
 辞職した佐田玄一郎行革担当相のリリーフとして登板した若手でやり手の渡辺氏は、各紙の取材に父親の渡辺美智雄(ミッチー)元副総理譲りの能弁でまくし立てた。

新規採用細り釣鐘型で高齢化
 ある省の人事担当課長は「局長を肩たたきしてバンク経由での再就職を促すと、『そんなのに行けるか』と反発してそのまま省内に居座られる。総人件費を減らす政府方針がある中で新規採用が細り、組織は高齢化していく」とぼやいている。基本的に解雇できない公務員社会では、定年55歳時代の一昔前までは恩給で豊かに暮らせた。今は平均寿命80歳台の高齢化社会で不安は大きい。再就職先が用意できなければ、民間のようにリストラも出来ず、ピラミッド型の人事体系は釣り鐘型に上部が膨らみ、人件費は2兆円増えるとの試算があり、組織が立ち行かなくなる。
 確かに定年前に早期退職を促す今の慣行は必要悪だろう。旧郵政省を例に挙げてみても、同省の天下り先は昔、簡保事業団、郵貯振興会など身内法人の役員か、次官級でも航空会社役員などが良い方だった。だが、通信自由化以来はテレコム・放送界、通信メーカーなどから人材の“ご割愛願い”が殺到、郵政OBは大いに実力を発揮し、今は我が世の春を謳歌している。

放置できない談合の温床
 それが規制されるとなると真に気の毒ではある。しかし、官製談合は国交省ばかりか、防衛、農水、地方自治体の公共事業全般に及んだ。談合の温床になっては、もはや放置できない。首相も国民受けを狙って、参院選対策として規制を断行せざるを得なくなった。参院選で首相との確執が目立つ青木幹雄参院議員会長は「公務員イコール悪だというのは反対だ」と政府側をけん制していたが、結局、政府案に同意した。党の若手議員は「改革プランを実現させる会」(平井卓也代表)を作って、法案の成立を支援している。
 一方、菅義偉総務相は1月、97年の橋本行革当時に議論された「情報通信省構想」を提唱し、中央省庁再々編に火をつけた。郵政省解体を警戒する郵政族議員の抵抗でお蔵入りした構想だ。現在は総務省が通信・放送の規制と振興を担当、振興部門は経済産業省や文化庁、内閣官房のIT(情報技術)戦略本部も関わっている。経産省は、総務省主導の情報通信省構想について、「総務省内で存在感が低下している旧郵政省が 復権を目指す動きではないか」(幹部)と警戒している。いずれ省庁再編が絡んでくる天下り規制など公務員制度の改革には、私も力を尽くしたいと考えている。