第148回(5月16日)集団的自衛権で懇談会 徹底討論を期待
 首相が先の“訪米土産”に設置した「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(首相の私的諮問機関)は5月18日に初会合を開く。懇談会は政府が憲法解釈で禁じてきた集団的自衛権の行使について研究するもので、この秋に報告書を提出する。
 中曽根内閣で首相の靖国神社参拝に道を開いた靖国問題懇談会を参考に人選したと言うが、メンバーは積極派の学識経験者ばかり13人で構成。座長には柳井俊二前駐米大使が就任した。首相は「戦後レジーム(体制)からの脱却」を唱え、憲法改正、教育再生、公務員改革と取り組んでいるが、歴代内閣が踏襲してきた集団的自衛権の行使を禁じた憲法解釈も脱却すべき課題の一つ。自衛権行使の場合の検討では、
@北朝鮮などの弾道ミサイル発射
A公海上の米艦船などへの攻撃
B復興支援活動で共に行動する他国軍への攻撃
C武器輸送などの後方支援――の4類型について議論をまとめる。北朝鮮の核・ミサイル実験を機に、ミサイル防衛の日米協力が強化され、防衛省昇格で自衛隊の海外活動が本来任務となり、集団的自衛権行使の解禁は喫緊の課題。だが、公明党は憲法解釈の変更に警戒的、野党は反対だ。衆院安全保障委に属する我々も重大な関心を抱いている。懇談会の徹底論議を期待したい。

憲法解釈変更を類型的に研究
 集団的自衛権は自国が直接攻撃されていない場合でも、密接な関係にある外国への武力攻撃を実力で阻止する国家の権利だ。国連憲章や日米安保条約など国際法上は認められている。
 しかし、我が国は集団的自衛権を持ってはいるが、「憲法9条の下で許容されている自衛権の行使は我が国を防衛するため必要最小限度の範囲にとどまるべきものと解しており、行使することはその範囲を超えるもので憲法上許されない」(81年5月の答弁書)と一貫して解釈してきた。
 これに対し、首相は幹事長当時から、「日米安保をより持続可能にし双務性を高めることは、集団的自衛権の行使の問題と非常に密接に関わり合ってくる。行使できないという理屈は世界に通用しない」とワシントンで講演している。そして、1月の施政方針演説では「世界の平和と安定に一層貢献するため、時代に合った安全保障の法的基盤を再構築する必要があると考える。 いかなる場合が憲法で禁止されている集団的自衛権行使に該当するのか、個別具体的な類型に則し、研究を進めたい」と明言した。

米本土攻撃にミサイル防衛も
 首相が今回研究を指示した4類型のイメージは、まず第1に、北朝鮮が昨年7月に発射した長距離弾道ミサイル「テポドン2」が米軍の重要軍事拠点であるハワイに迫ることを想定した場合だ。首相は06年11月の米紙インタビューで、「ミサイル防衛(MD)で米国に向かうかも知れないミサイルを撃ち落とすことが、集団的自衛権で出来ないのかも研究しなければならない」と述べている。
 第2は、日本周辺の公海上で米艦船などが攻撃された場合、自衛隊が応戦できるかどうかだ。我が国に対する事態が起こった時と、その後に公海で米艦船が攻撃される場合は、個別的自衛権行使とその延長線上で行えるが、個別的、集団的自衛権の区別が難しい事例については十分研究しておく必要がある。
 第3に、イラクなど国際復興支援活動で共に行動する他国軍への攻撃に自衛隊が応戦できるかどうかだ。陸上自衛隊はサマワの非戦闘地域で水の供給や道路整備に従事したが、仮に一緒に活動した英豪軍が攻撃された場合、駆けつけて警察行動が起こせるか、という問題がある。

日米すきま風解消の手土産
 第4に、有事の際に展開する米軍に対し、航空自衛隊が前線に武器や弾薬を輸送するような後方支援は、米軍との「武力行使との一体化」となるため禁じられているが、どこまで武器・弾薬輸送が出来るか、後方支援の個々のケースを検討しておく必要がある。
 以上の4類型などについては、米国の知日派も「日米同盟の制約」と指摘し、00年と07年のアーミテージ(元国務副長官)・リポートで集団的自衛権の行使禁止を解除するように求めていた。
 特に、01年の同時多発テロ以降、日本は「テロとの戦い」に加わってインド洋とイラクに自衛隊を派遣。北朝鮮の核・ミサイル実験にはミサイル防衛(MD)で日米提携を深め、防衛庁昇格の際には自衛隊の海外活動が本来任務となるよう法改正し、自衛隊の国連平和維持活動(PKO)参加が当たり前のようになってきた。
 それが、イラク戦争の泥沼化批判で共和党が中間選挙で敗れた後、ブッシュ政権は対北朝鮮政策を柔軟路線に切り替え、拉致問題で強硬路線を取る日本との間にすきま風が生じ、従軍慰安婦問題などでもすれ違いが目立ってきた。これを解消する“手土産”策が懇談会の設置であった。

結論ありき出来レースと批判
 首相は駆け足訪米前日の4月25日、懇談会設置を発表し、来日中のアーミテージ氏とも会って伝えたが、同氏は「素晴らしいこと」と喜び、直ちにブッシュ大統領に報告した。その甲斐があって日米首脳会談では、
 @北朝鮮が核廃棄の合意履行を遅らせたら追加的な経済制裁を行うことを確認
 A大統領が拉致問題で協力を改めて表明
 B地球温暖化で日米協調の共同声明を発表――など、「かけがいのない日米同盟」(首相)の再構築に成功した。
 その後に開かれた外務・防衛閣僚による日米安全保障協議委(2プラス2)でも、極東地域での「米核抑止力」の有効性を再確認、弾道ミサイル防衛(MD)などで日米一体運用の推進、軍事情報共有の前提条件となる「軍事情報包括保護協定」(GSOMIA)の締結で合意、日米安保関係のすきま風も修復した。
 しかし、朝日新聞は懇談会設置発表の翌々日、社説で「これでは、はじめに結論ありきの出来レースだとしか思えない。13人のメンバーを見渡せば、集団的自衛権の行使容認に前向きな意見の持ち主ばかりがずらりと並ぶ」と厳しく批判した。

連立基盤に影響と公明懸念
 確かにメンバーは岡崎久彦元駐タイ大使、葛西敬之JR東海会長、北岡伸一東大院教授、坂元一哉阪大院教授、佐瀬昌盛防衛大名誉教授、佐藤謙元防衛事務次官、田中明彦東大教授、中西寛京大教授、西元徹也元防衛庁統合幕僚会議議長ら錚々たる顔ぶれだ。
 朝日の社説では、首相と岡崎氏が3年前の著書で対談し、安倍氏「軍事同盟は“血の同盟”だ。日本が外敵から攻撃を受ければ、アメリカの若者が血を流す。 しかし、今の憲法解釈では、日本の自衛隊はアメリカが攻撃されたときに血を流すことはない
  岡崎氏「解釈は裁判所が決めたわけでもないし、憲法に書いているわけでもない。単に、役人が言っただけだから、首相が『権利があるから行使できる』と国会で答弁すればいいんです」――と紹介している。
 こうした報道もあり、与党の公明党内には、首相が同党の意見をろくに聞かずに政府解釈を変えるのではないかと心配し、変えれば連立の基盤に関わってくると懸念する声も出始めている。もちろん共産、社民両党は国会で強く反対する構えだ。

TV番組・新聞は批判論特集
 「冷戦後の北東アジアの安全保障環境はがらっと変わった。中国の軍備は突出し、北朝鮮は核武装してミサイル開発を進める。憲法解釈を含めてどうしたらいいかを考え直すことは非常に時宜にかなっている」――。
 柳井座長は、朝日新聞の4月26日のインタビューでこう語った。その中では、
@集団的自衛権は議論するだけでも批判される時代が長く続いたが、安保論議のタブーはいけない
A(私が外務省条約局長当時は)従来の政府答弁を踏襲せざるを得なかったが、個人的にはタブーでないと考えていた
Bだらだら議論するつもりはないが、従来の立場との整合性、国民的コンセンサスもあり、結論を予断せず、はじめは自由に知恵を出し合いたい――と筋道を立てながらも、慎重な運営を心がけている。
 だが、憲法記念日のNHK各党討論会では、「“戦前レジームへ回帰”を目指す首相は、憲法改正前にお手盛り懇談会を設置し、憲法論議のなし崩しを図っている」「憲法解釈は多年の国会論議を経て出来上がったもの。“血の同盟”を謳うような安倍政権が勝手に変えるものではない」「改憲論議の焦点である憲法9条の骨抜きが狙いだ」など反対意見が続出した。

神学論争辞め時代に合う結論を
 同番組で民主党の枝野幸男憲法調査会長は「首相の権力をどうコントロールするかが憲法の本質。権力を法で縛り、国民の権利・生活を守るのが立憲主義だ」と述べ、首相の改憲姿勢を批判した。
 改正手続きを定めた国民投票法案は14日に成立したが、枝野氏ら協調路線を取ってきた民主党が反対に回った為、参院審議の段階では独自案を提出するなど最後まで抵抗を続けた。
 朝日新聞は憲法記念日に「社説21」を特集、日米安保、自衛隊など個別の課題を論評したが、その中では「とにかく集団的自衛権行使に道を開こうとするのは乱暴な9条改正論である」と決めつけている。
 左派の護憲勢力は勢いづくだろうが、社会の公器が世論を煽り立て、「9条改正反対」を国民に押しつけて良いものだろうか。
 私は懇談会が神学論争に陥ることなく、ミサイル防衛など国際緊張の新時代に合致する自衛権について、現実的で冷静・適切な結論を出して欲しいと期待している。