第145回(4月1日)PAC3の運用要領決定 北東ア緊張に備え
 北朝鮮の核実験で北東アジアの緊張が高まっているが、政府は3月23日の閣議で、ミサイル防衛(MD)システムの第一弾として、3月末に航空自衛隊入間基地(埼玉県)に配備する地対空誘導弾パトリオット・ミサイル3(PAC3)の運用に関する緊急対処要領を決定した。北朝鮮などが弾道ミサイル発射を準備している段階で、防衛相が迎撃のための破壊措置を空自にあらかじめ命令できるようにするもの。北京で開かれていた北朝鮮の核廃棄を巡る6カ国協議は、北朝鮮が凍結解除資金(約2500万ドル)の「返還確認」を主張して譲らず、またも空転状態が続いている。

 「瀬戸際外交」を続ける北朝鮮が日本に対し、新たな弾道ミサイル実験などの挑発行為を仕掛ける可能性は否定できない。その意味で緊急対処要領の決定はタイムリーであった。後半国会では、イラク復興支援特措法改正案、在日米軍再編推進特措法案、安全保障会議(日本版NSC)設置法改正案の防衛関連3法案を巡って、参院選を前に日米同盟の在り方など安保論争が白熱すると思うが、私は衆院安全保障委の理事として、国民が安心出来る国防体制の確立に努力する考えだ。

東京被爆なら5百万人死亡
 読売新聞はタイミング良く、「核の脅威」(第3部 日本の抑止力)を連載したが、第1回(3月20日)の紙面では、3月のある月曜日、核弾頭を搭載した弾道ミサイルが東京・永田町を直撃したケースとして、「核弾頭は1945年に広島に投下されたウラン型爆弾(TNT火薬15キロトン相当)と同型で、威力は約10倍。東京23区内で約200万人が即死し、約100万人が重度の放射能に被曝した。首都圏全体では約170万人が失明、聴力・呼吸器障害などを患い、都心は地獄絵図に変わった」と酸鼻な状態を想定した。

 紙面では宇宙工学アナリストの中富信夫理学・工学博士が「この被害は最小限の見積もり。気象や人の動きの条件が変われば、500万人以上が死亡の恐れもある」と語っている。読売は「核はたった1発でも、圧倒的な殺傷力を持つ『究極の兵器』だ。日本は狭い国土に人口が密集する地理的な脆弱性があるだけに、万全の抑止力が求められる。我が国は戦後一貫して米国の『核の傘』に依存してきた。

 だが、米軍が有事にどう動き、核抑止力がどう機能するのか、米側から明確な説明と確実な担保があるわけではない。日米同盟は良好だが、数十年後も同じ関係が続くのか。仮に米本土に届く北朝鮮の核ミサイルの長射程化が実現した場合、米国は自国の一部を犠牲にしてまで日本を守るのか」と解説した。


核保有など核論議が活発化
 そこで読売は、中曽根康弘元首相が会長を務める世界平和研究所で、「将来の国際社会の大変動に備え、核問題の検討を行っておく」と核論議の必要性を昨年9月に提言したこと、中川昭一自民党政調会長が「米国は慈善事業で日本を核の傘で守っているわけではない。真の意味で日米同盟を機能させるためにも、核議論は必要だ」と北朝鮮の核実験後に唱えたことを取り上げ、日本の安全保障にとっては、核保有是か非かの「入り口論」を含め、軍事、科学技術、政治・経済の現実を踏まえた核論議を、しっかり深める作業が欠かせない、と提起している。

 第2回では、「日本は2005年末現在、核兵器の原料となり得るプルトニウムを43・8トン保有。軍事転用は技術的に簡単ではないが、国内貯蔵分の5・9トンだけで、原爆700発分以上と指摘する向きもある」とし、「日本はいつ核兵器を開発してもおかしくなく、5年程度で生産できる」ことを詳しく紹介している。「核保有国イコール大国として国際社会に睨みが利かせる」、「独立国家が核保有を追及するのは当然だ」など、北朝鮮の核実験後は我が国内で、勇ましい核保有論が後を絶たないのも事実だ。

入間、浜松、岐阜、春日に配備
 しかし、日本は佐藤栄作元首相が1967年12月、憲法に沿って「核は持たず、作らず、持ち込ませず」の非核3原則を表明、71年11月に国会決議されて以来、それが国是となっており、核拡散防止条約(NPT)締約国の優等生でもある。日本が原子力の平和利用を条件に、米国、カナダ、豪州などと2国間原子力協定を締結しているからこそ、ウランが潤沢に輸入され、日本の電力の約3割を供給する原子力発電所が稼働しているわけだ。

 また、国土が狭いため原発建設に住民の反発が強いこともあって、陸上に核基地を持つなどは極めて困難だ。その点、核の抑止力には06年度から導入が始まった地対空誘導弾のPAC3の運用が最も重要になる。政府が対処要領の決定したことにより、PAC3は法律上の運用が可能となり、空自第1高射群・入間基地に続き、第4高射群の浜松(静岡県)と岐阜(岐阜県)、第2高射群・春日(福岡県)の各基地にも配備する予定だ。MDシステムは、PAC3とイージス艦搭載の海上配備型のスタンダード・ミサイル3(SM3)を早ければ2010年度、遅くとも2011年度までに配備が完了する。

 政府は2005年7月の自衛隊法改正でMDの法的枠組みを整備。@発射の明確な兆候があり、時間に余裕がある場合は、防衛相が首相の承認を得て迎撃を命令するA首相の承認を得る余裕がない緊急時は、緊急対処要領に従い、防衛相が事前に迎撃を命じ、発射されれば現場指揮官の判断で迎撃する――としている。

防衛相が自衛隊に破壊命令
 PAC3の射程は15〜20キロ程度と短く、迎撃部隊は、弾道ミサイルが飛来すると見込まれる地域に事前展開する必要がある。このため、緊急対処要領では、弾道ミサイルが発射された疑いがある場合や発射される恐れがある場合、防衛相が自衛隊に破壊措置を命令することにした。迎撃部隊は、空自の航空総隊司令官の指揮に基づき迎撃する。要領では、弾道ミサイルに加えて、人工衛星打ち上げ用ロケットや人工衛星が事故などで日本に落下する場合も、破壊措置を適用できる。

 また、防衛省が弾道ミサイル飛来を確認した場合、警察庁や消防庁など関係省庁に対し落下予測地域と時刻を報告する。だが、緊急対処要領では、北朝鮮などが弾道ミサイルの発射を準備している場合、「防衛相が弾道ミサイルの破壊措置を命じる」としているだけで明確な基準がない。
 読売によると、防衛省は「昨年7月の北朝鮮の弾道ミサイル発射に当てはめれば、発射前から破壊措置を命じることが出来る」(幹部)としているが、発射の兆候をどう分析し、どの段階で破壊措置を命じるか、迎撃部隊が展開する周辺の交通規制をどうするかなどが具体的に示されていない。

米核戦力はICBMなど3種
 軍事優先の先軍政治を執る北朝鮮は、既に03年末の時点で核爆弾5,6個以上のプルトニウム抽出を終え、日本全土を射程に収めた移動式の中距離弾道ミサイル・ノドン百基を配備しているという。9年前には日本領土を越える実験を行っており、自民党内には「弾道ミサイルが急に発射されたら、対応できないのではないか」との不安がある。
 冷戦下では、米ソ両国が核で先制攻撃すれば、必ず報復攻撃で壊滅的被害を受けるという「相互確証破壊」(MAD)理論があって、核抑止が図られてきた。これが「核の傘」の有効性を表す証明でもある。

 だが、拉致、麻薬・偽札製造など何でも有りの“ヤクザ国家”北朝鮮にこの理論は通用しない。読売によると、米国の核戦力は、@ミニットマン3型(射程1万3000キロ)などの大陸間弾道ミサイル(ICBM)550基A原潜14隻に装備のトライデントC4(同7400キロ)などの潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)432基BB2ステルス、B52が米本土から無給油で日本付近に到達できる戦略爆撃機の計114機――の3種類である。敵基地攻撃にはトマホークなど巡航ミサイルもあるが、米軍はレーダーに捕捉されにくい最新鋭ステルス戦闘機「F22ラプター」が最善と見ている。

英国は地理的にSLBM保有
 核保有国で、日本と同様、米国と主要同盟国である英国は、島国の地理的特性に適したSLBMだけを保有し、核弾頭約200個と原潜4隻は自国製だ。日本が核論議を進める中で、仮に原潜とSLBMをセットで独自に開発するとすれば、「1セットで約5000万円。数セット分に研究開発・関連装備費を加えれば約10兆円を超し、年約4・8兆円の防衛費の2倍以上になる」と読売は指摘している。
 
 このように核武装は膨大な費用と開発時間が掛かるし、非核3原則堅持の立場から核武装は論外である。やはり、核抑止力にはPAC3とイージス艦の配備が最も効果的であると言える。ミサイル防衛の効果的運用のためにも、情報収集衛星の使用や日米間の情報交換をさらに充実させることが重要だ。

 「核保有論議、非核3原則の見直し、敵基地攻撃能力の検討――。万全な抑止力の確保には、タブーにとらわれない安全保障の議論が必要な時代を迎えている」――。これが読売企画の最終回(全5回)の締めくくりだ。確かに「専守防衛」の基本方針だけでは冒頭に想定した被爆の惨状は救えない。
 核保有はしないまでも、座して核迎撃を待つより敵基地攻撃能力の保有など多面的に、今のうちから国会で真剣に議論しなければならないだろう。