第142回(2月16日)マグロ規制さらに強化 蓄養より養殖振興
 脂がのり、身が引き締まったマグロは最高の冬の味覚。だが、1月の東京・中央卸売市場でクロマグロ(最高級のホンマグロ)の卸売価格は、前年より3割ほど高かった。資源が枯渇しているうえ、漁獲枠にさらなる規制が掛かろうとしているからだ。北村HPの正月号で予告した通り、1月下旬にマグロ資源を管理する国際5機関初の合同会合が神戸で、大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)が東京で開かれた。
 
 テレビ朝日も昨年末の特集に次いで正月番組に「マグロ」のドラマを2夜放送し、マグロへの国民の関心が高まっている。そこで、今回は合同会議の詳報と問題点などを続報することにした。合同会議ではマグロ流通の監視や、漁獲した海域をごまかす「マグロロンダリング」など違法漁船(IUU漁船)を取り締まる対策を盛り込んだ行動指針が採択された。ICCATは東部大西洋・地中海産クロマグロの漁獲枠を2010年までに原則23%削減することを決めた。このように規制を強化しても、資源保護につながるかどうかは心許ない。地中海では幼魚を生け簀で太らせる「蓄養」が盛んだが、やはり、卵からふ化させる本格的な「養殖」を振興させることが期待される。自民党水産部会長として今年は育てる水産を心がけたい。

大間の一本釣漁師続々廃船
 「太平洋から昇る朝日に大漁を祈り、日本海に沈む夕日に感謝を捧げる」――津軽海峡で豪快に巨大マグロを一本釣りする漁師たち。テレビ朝日が正月4,5日に放送したドラマ「マグロ」は、函館と向かい合う本州最北端・大間漁港の老漁師(渡哲也)と苦難を共にする一途な妻(松坂慶子)の夫婦愛、家族愛を見事に描いていた。マグロに追われたサバやアジの群れに襲い掛かる海鳥を目当てに荒海で操船する老漁師は、カネの掛かるソナー(魚群探知機)も使わず、多年の勘と腕だけが頼り。巨大マグロと格闘する姿は、ヘミングウェーの「老人と海」を思わせた。

 しかし、資源が減ったため昔ほど獲れず、それに燃油高騰が追い打ちをかけ、大間漁港では今、廃船が続出している。最高級の大間産クロマグロは高級料亭で引っ張りだこで、ドラマと違った別のニュースは、正月に大間で獲れた200キロのマグロに400万円の高値が付いたと報じた。それでも、シーズンの燃油代を差し引けばトントンだという。マグロの一本釣りは長崎県の壱岐、山口県見島でも行っているが、巻き網漁がマグロの稚魚、幼魚まで一網打尽に取り尽くすため、大間漁協などは反対運動を起こしている。


激減と争奪戦で価格高騰
 正月のHPでは、 @マグロの総漁獲量は1950年代、年間50万トンに満たなかったものが、2000年代には4倍以上の200万トンを超えた  A乱獲でマグロが激減、海外市場ではマグロの争奪戦が起きて価格が高騰  Bとりわけミナミマグロの総漁獲量は、1960年代の年間約5万トンが70年代には4万トン台に減り、最近3年間は2万トンを下回った――などの現状を取り上げた。

 マグロの資源管理機関には、中西部と東部の太平洋、大西洋・地中海、インド洋の4海域の管理機関と南半球を回遊する南マグロの保存機関の5機関がある。それは、メバチ、キハダを対象とする「インド洋まぐろ委員会」(IOTC)、「全米熱帯まぐろ類委員会」(IATTC)、「みなみまぐろ保存委員会」(CCSBT)、「大西洋まぐろ類保存国際委員会」(ICCAT)、「中西部太平洋まぐろ類委員会」(WCPFC)の5機関だ。海域ごとに管理してきた理由は、日本近海から米カリフォルニア沖まで回遊する太平洋のマグロが、迂回して大西洋まで行くことは極めて少ないなどによる。

回遊操業や船籍変更など悪質
 しかし、大西洋・地中海で漁獲規制を強化すると、制限を超えそうな漁船が太平洋に回り込み、マグロではなく漁船の方が「回遊」操業したり、国際条約に加盟していない国の船籍に変えて操業したり、規制が厳しい海域で漁獲したマグロを規制の緩い海域で獲ったと見せかける「マグロロンダリング」などの悪質な行為が目立ってきた。資源は減る一方で、このまま放置すれば人類はマグロを獲り尽くす恐れもある。マグロの資源管理は地球規模で取り組む時代に入ってきた。

 このため、世界で獲れるマグロの約4分の1を食べる世界最大の消費国・日本が音頭をとり、5つのマグロ地域漁業管理機関は1月22日から神戸市で54カ国と国際機関、NGO代表など約300人が参加し、5日間にわたり初の合同会合を開いた。会議ではFAO(国連食糧農業機関)が「大西洋クロマグロ、ミナミマグロなどは過剰漁獲の状態にあり、刺身は日本市場が縮小し、欧米市場が拡大している」と報告。各機関は、「効果的な資源回復計画の採択と遵守・監視取締り措置の実施、データ提出、他機関との情報交換」を共通課題とすることを確認した。

違法対策に漁船リスト共有化
 ホスト国・日本が提案したのは @違法漁船の監視システムの導入  A資源管理措置の評価方式の統一  B正確な漁獲データの収拾策  C漁獲能力の制限――の4項目。違法漁船(IUU漁船)の監視では、管轄外の未登録漁船が入り込んで違法操業するケースが後を立たないため、こうした海賊まがいの違法漁船リストなどの情報を5機関で共有し、全地球測位システム(GPS)なども活用する監視強化策を提案した。これで、規制逃れに船籍を資源管理の国際条約未加盟国に移すといった違法行為はあぶり出しやすくなる。

 データ収集では、輸出国が漁船名と漁獲海域を確認して発行する「統計証明書」をすべてのマグロ魚種に義務づけるよう求めた。これは、ICCATのクロマグロとメバチマグロの1部など、4機関の1部魚種だけに採用されているが、全機関の全マグロ魚種に広げ、輸入国が各国・地域の漁獲状況を把握できるようにしたい考えからだ。これらをもとに5機関が連携する「行動方針」の議長案に「IUU対策として統計証明制度の改善、漁船リストの共有化や漁獲能力を管理するうえでの漁獲データの改善と各機関間での共有」などが盛り込まれた。

漁獲能力管理に途上国は反対
 議長案は、「研究開発や資源評価の正確な情報(漁獲データ)などの改善と共有化」「資源の持続的利用のための漁獲能力の管理(抑制)」「各機関や市場国との違法漁業に関する情報交換などIUU対策の強化」「集魚装置による小型魚混獲削減の技術開発」など11分野の優先課題を掲げ、具体的な措置としては、マグロの流通経路を追跡するプログラムの共通化と、各機関が管理している正規登録漁船と違法漁船のリストの共有化について、08年に各機関が導入を承認すべきだとした。

 漁獲能力の管理では、大きな網で若い小型マグロまで群れごと一網打尽にする巻き網漁業の規制強化や世界全体での大型漁船数の抑制などを提案したが、日本提案を支持したのは韓国、パキスタンなど少数。米国やマグロの漁場に近い南太平洋、インド洋の島国などは、巻き網漁中心であるため反対した。追跡プログラムのための荷札や電子タグをつけることも、手間とコストがかかるため、会合で多くの途上国から負担増を懸念する声が上がった。
 このため、26日の最終日に採択された行動方針には、巻き網漁の制限などは盛り込まれなかったが項目数は14分野に膨らんだ。参加国は各機関で重点分野に特定された措置を実施するが、09年春に第2回合同会合を開く。

漁獲枠を原則23%削減へ
 大西洋と地中海で獲れる最高級のクロマグロなどを対象としたICCATは、昨年11月26日にクロアチアで開いた年次会合で東部大西洋・地中海産クロマグロの総漁獲量枠を今年から2010年までの4年間で現在の3万2000トンを段階的に2万5500トンまで約20%削減することに合意したが、国別の漁獲枠決定には至らなかった。

 そこで1月29日から3日間、東京で開いた中間会合で議論した結果、トルコなど新規加盟国への新たな割り当てを行うため、わが国も他の国と同率の削減を受け入れることとし、原則23%削減することが決まった。同時に「蓄養」を行う地中海沿岸のマルタやキプロスに、新たに漁獲枠の規制をかけた。蓄養ものは、キハダマグロなどの大衆マグロよりは高価だが、小さいクロマグロを生け簀で太らせるため自然海で大きく育つ天然ものよりは安い。

五島の稚魚でマグロ養殖に脚光
 昨年12月末の平均価格は天然ものの国産の1キロ5129円に対し、蓄養など輸入ものは2973円と4割も安く、スーパーや回転寿司店にも出回っている。日本が消費するクロマグロの4分の3程度は東部大西洋と地中海で獲られており蓄養を含めクロマグロの規制が強化されれば入荷も減り、最高級ホンマグロは文字通り「高嶺(値)の花」になりそうだ。

 こうした中で、日本近海のクロマグロの稚魚(ヨコワ=30〜40センチ大)をトローリングで生け捕りにして育てる養殖事業が脚光を浴びている。稚魚が捕れるのは我が長崎県の五島福江島、壱岐・対馬周辺や高知、紀伊半島沖。養殖の最大産地は、温暖な鹿児島県の奄美大島の入り組んだ湾だ。研究中だが、卵からのふ化が軌道に乗ればすばらしい。私は資源確保と地域振興のためにマグロの養殖事業は発展させなければならないと考えている。