第141回(2月1日)社会総がかりで教育再生 3法案成立目指す
 政府の教育再生会議(野依良治座長)は1月24日、教育委員会改革の実施などを柱とする第1次報告をまとめ、安倍首相に提出した。第1次報告は【当面の取り組み】の、 @ゆとり教育の見直し Aいじめを繰り返す子供に出席停止 Bすべての子供に規範意識を教える C不適格教員を教壇に立たせない――などを骨子とした「7つの提言」と、 @反社会的行動をとる子供に対する毅然たる指導 A教員免許更新制導入 B教育委員会制度の抜本改革 C学習指導要領の改定と学校責任体制の確立――など早急に取り組むべき「4つの緊急対応」からなっている。 5月の第2次報告で【今後の検討課題】をまとめ「骨太の方針2007」に反映、年末に第3次報告(最終)を取りまとめる。これには学校の休日や週5日制の見直しなどを盛り込むが、実現すれば約15年ぶりの画期的な政策転換となる。

 政府は「4つの緊急対応」をもとに、今国会に教員免許法、地方教育行政法、学校教育法の各改正法案を提出する。公教育の再生は安倍政権が掲げる公約の主要柱で、前国会で成立した改正教育基本法の理念に基づき教育を抜本的に改革するもの。私は衆院教育基本法特別委の委員として改正教育基本法成立に尽力した経緯から、同法の各論整備となる関連法案の法制化作業をじっくり見守り、成立に向けて全面協力して行こうと考えている。

ゆとり教育見直しなど7提言
 第1次報告書は【当面の取り組み】として、まず「7つの提言」を挙げた。その要旨(カッコ内は主な具体策)は、 @ゆとり教育を見直し、学力を向上する(授業時間10%増加、基礎・基本の反復・徹底、薄すぎる教科書の改善) A学校を再生し、安心して学べる規律ある教室にする(出席停止制度の活用、立ち直り支援、警察との連携) Bすべての子供に規範意識を教え、社会人としての基本を徹底する(道徳の時間の確保と充実、高校での奉仕活動必修化、大学の9月入学普及促進) Cあらゆる手だてを総動員し、魅力的で尊敬できる先生を育てる(メリハリある給与体系、教員免許更新制導入) 
 D保護者や地域の信頼に真に応える学校にする(「教育水準保障機関」=仮称=による学校の外部評価、副校長・主幹等の新設) E教育委員会の在り方そのものを抜本的に問い直す(危機管理チームの設置、外部評価、小規模市町村教委の統廃合) F社会総がかりで子供の教育に当たる(放課後の子供プラン展開、地域リーダーの活用)――などを具体的に取り上げている。


週5日見直しも今後検討
 次ぎに「4つの緊急対応」では、 @「反社会的行動をとる子供に対する毅然たる指導のための通知等の見直し」(いじめ対応)は06年度中に実施するはか、 A教員免許法改正(教員免許更新制導入)  B地方教育行政法改正(教育委員会制度の抜本改革) C学校教育法改正(学習指導要領改定と学校の責任体制確率)――のA〜Cの3改正法案は早急に国会へ提出するよう求めている。
 
 【今後の検討課題】には、「学習時間と学習リズムの確保の観点から、学校の休日や学校週5日制を見直す」ことが明記されたほか、「小学校の英語教育の在り方」や学校間の競争を促すため、児童・生徒が学校を自由に選べる「教育バウチャー(利用券)制度」なども列挙された。これらは慎重に検討を加え、年末の最終報告に加えられる。
 
 週5日制は子供が家庭や地域で過ごす時間を増やし、考える力や生きる力を育むのが目的で92年から月1回、95年から月2回と段階的に試行され、2002年度になってようやく公立学校で完全実施された。しかし、ゆとり教育の効果よりも、授業時間が削減されたことで、学力低下の1因と見られた半面、塾通いの児童が増えるなど学力差が広がる傾向が強まるなど弊害が目立つようになった。今後は夏休みの短縮や1日の授業時間の増加などを考慮して抜本的に見直すが、約15年ぶりの政策転換となる。

ベストの案得たと首相満足
 「子供たちが充実した学校生活を送り、夢と希望を持ち、未来に向かって多様な可能性を開花させ、充実した人生を送るのに必要な学力、倫理観や規範意識、幅広い人間性と創造性をしっかりと確実に身に付ける学校教育であって欲しい」――。第1次報告はこういう書き出しで「美しき国、日本を目指し、機能不全に陥った公教育を社会総がかりで再生する」と強く訴えた。

 文科省がこの日公表した初の学校給食費滞納調査では、05年度の小中学校の滞納総額が22億円超にのぼることが明らかになった。経済的に払えるのに「義務教育だから払わない」という親が多く、滞納の6割は「保護者の責任感や規範意識の欠如が原因」で、「社会総がかりで子供の教育に当たる」ことの重要性が浮き彫りにされた。首相は「今やるべきことを網羅している。ベストの案を頂いた。100点だ」と満足げで、教育再生会議総会の席でも、関連法案の国会提出を明言、教育再生に意欲を燃やしている。

官邸主導だが実現に議論不足
 首相は文部科学省や中央教育審議会(中教審)主導の教育行政を改め、斬新な教育改革を目指したが、昨年末の素案の段階では、事務局に介在した文科官僚らの影響で新味に欠ける案が生まれ、委員から批判が続出した。このため、首相は下村博文官房副長官を再生会議の運営委員会に常時出席させるなど、官邸主導で短期間に第1次報告をとりまとめさせた。 
 この結果、7つの提言はゆとり教育の見直し、いじめ対策などが総花的に取り上げられ、議論のたたき台としては評価でき、委員側は「学力と規範意識を高める問題で、基本方針を貫いたことは評価できる」(葛西敬之氏)、「今後の優先課題はゆとり教育の見直しと教育委改革だ」(浅利慶太氏)と満足している。

 だが、実現の手順などについて議論不足の印象は否めない。第3者機関の「教育水準保障機関」=仮称=による外部評価や副校長・主幹などの新設は、責任ある学校体制の確立を目指すものだが、第3者機関や教員免許更新制、いじめっ子の出席停止活用、警察との連携などは日教組が強く反発しそうだ。

与党文教族は不満、協議難航か
 自公与党内では「ゆとり教育を“ゆるめ教育”にするだけで生煮えの議論だ」「報告内容は、これまでの中教審で出尽くしている」「素人の考えで法案の中身まで決められたら迷惑だ」と文教族を中心に不満が高まっている。24日夕の与党教育再生検討会(座長=大島理森元文相)では、ゆとり教育を推進してきた河村健夫元文科相が「ゆとり教育を否定すると、これまでやってきた人間力向上の改革につながらない」として、国民に理解しやすい説明を求めるなど、批判意見が相次いだ。

 伊吹文科相は「提言は中教審に諮る」と慎重で、今月から本格的な法制化作業に入る。政府・与党間協議はかなりの難航が予想されるうえ、参院審議を控えて会期延長が見込めず審議日程が窮屈なため、下村官房副長官が28日のテレビ番組で、「場合によっては参院選を含め、徹底的に国民と議論した方がいい。成立してほしいが柔軟に考えても良い」と述べ、今国会での成立にこだわらない姿勢を見せた。首相が最重要課題に取り上げた教育改革だが、早くも前途には暗雲が垂れ込めている。