第140回(1月16日)社保庁を廃止・解体 非公務員型の新法人
 先の臨時国会で継続審議とされていた社会保険庁改革関連法案は審議未了のまま廃案となったが、政府は09年度中にも社保庁を廃止・解体する新たな改革関連法案を通常国会に提出する。昨年末にまとめた改革の基本方針は、社保庁の権限を全て厚生労働省に集中させ、公的年金への国の責任と権限を明確化するとともに、@社保庁を廃止・解体し、組織を非公務員型の公的新法人に改めるA社保庁職員は非公務員化し、業務を積極的に民間委託し、人員を大幅に削減する――ことが柱。
 廃止後の組織の在り方など、改革の中核部分は民間有識者による第三者機関の判断に委ねている。第三者機関は@民間委託業務の範囲の決定A社保庁職員の再雇用など人事の調整――の2つが新設されるが、中立性・独立性を高めるため、内閣府に設置するか、内閣直属の機関とする予定だ。私は衆院厚生労働委委員の経験を生かし、社保庁の改革や年金問題でも活発な意見を述べたいと考えている。

「呆れた社保庁」を中川氏暴く
 加入者情報の漏洩、巨額の随意契約に絡む汚職、監修料問題、年金の支給ミス――。社保庁から噴き出た不祥事のウミは数え切れない。「混み合う社会保険事務所の受付の向こう側で客を無視して休憩しながらコーヒーを優雅に飲み続ける職員」「大切な年金を流用して、ゴルフボールやマッサージ器を購入」「興味本位で有名人の年金状況を覗き見て、その情報を他人に漏らす」――。
 これは自民党の中川秀直幹事長が政調会長時代に監修した「呆れた社会保険庁の実態」の1頁目、「私たちの敵」の正体だ。
 政府はこのぬるま湯的な公務員体質を改めようと、まず民間出身の村瀬清司氏を単騎、同庁長官に送り込んだ。そこで分かったのが、「窓口で端末を操作する時、職員は45分操作したら15分休憩を取る」などという社保庁と自治労・国費評議会との間で交わした「覚書」だった。
 この覚書で職員は悠然と客の向こうでコーヒーを飲んでいたわけだ。村瀬長官は100近くあったこの種の覚書を破棄し、「きちんと正直に年金を納めている国民がバカを見るようなことでは駄目だ。払える能力のある人には、ちゃんと納入させるようにしなさい」と命じた。


事業機構改組の前法案は廃案
 その一方で政府は昨年の通常国会に、社保庁を「ねんきん事業機構」に改組する社会保険庁関連法案を提出した。同法案では、重要事項は外部の専門家による「年金運営会議」で審議し、個人情報の管理や不正チェックをするために「特別監査官」を置くなど、これまでの役所にはない組織形態としたが、位置づけは「厚生労働省の特別の機関」というもので、厚労省の外局であるこれまでの社保庁とほとんど変わらず、職員身分も公務員のままだった。
 但し、引き続き公務員とするものの、「成果がなければ今度は非公務員化させる、との緊張感をもって取り組め」という、いわば執行猶予付きの身分保障を与えていた。
 ところが、その後も社保庁の姿勢は改まらず、国民年金保険料の不正免除が全国で39万件も発覚した。これは村瀬長官の厳命を「労働強化」「合理化」と受け止める自治労・国費評議会が「まじめに仕事をするのは面倒だ。
 効率が上がったように見せかけよう」とばかりに、勝手に22万件以上の加入者の年金掛け金を免除し、その他を合わせると不正行為の数は39万件にも達した。各地の社会保険事務所はこの事実を隠蔽し、結果的に1700人もの処分者を出した。前臨時国会で同法案を廃案とし、出直しを迫ったのは当然だ。

職員半減し大胆に民間委託
 新しく提出を予定する改革法案は、運営責任は厚生労働省が負うが、実務を担う新組織は厚労省から独立した公的法人を作り、職員を非公務員化することが最大の狙いだ。
 内閣府か、内閣官房に設置される第三者機関は、保険料の徴収や年金相談、年金給付など社保庁の業務のうち、どこまでを民間企業に委託するかを決定する改革のカギを握る機関だ。
 与党は、最終的に約1万7千人の職員を半減し、公的年金にかかるコストを削減したい考えだが、それには大胆な業務の民間委託が必要になる。
 民間委託は官民で競争入札をする「市場化テスト」などを活用するケースもあるが、社保庁は既に、国民保険料の徴収や厚生年金未加入事業所への加入促進など1部業務を民間に委託しており、民が官の業績を上回る事例が確認されている。
 与党内には、厚労省が第三者機関の事務局になれば、業務委託の範囲が不十分になり、改革が骨抜きになりはしないか、と警戒する向きもある。国家公務員の社保庁職員はいったん退職し、第三者機関の審査を経て新法人が再雇用する。

悪質滞納者は国税庁に委託
 第三者機関は、役人意識と決別できない職員を排除し、不祥事を繰り返して処分を受けた職員を再雇用するかどうかを審査するという難しい役割を担う。再雇用を拒否する場合の手続きに客観的理由が不足すれば、多数の訴訟を覚悟しなければならないだろう。
 また、外部委託する業務の範囲なども決定するし、新組織の制度設計の根幹部門も委ねられるなど、大役を引き受ける。国民年金保険料の徴収率が6割以下に低下して久しいが、悪質な滞納者の強制徴収は、国税庁に委託できることにした。
 自民党内には徴収部門を分離して国税庁と統合する意見がある。民主党も社保庁の解体には応じる構えで、年金保険料の徴収は国税庁を改編した「歳入庁」で行うことを主張している。だが、悪質滞納者に「税務署」の威光を借りるとしても、効果を上げるには、地方自治体の税務部門などの綿密な協力態勢を作ることが必要だ。
 社保庁の廃止の前提となる新しいコンピューターシステムの整備には2年程度が必要と見られるため、廃止・解体の時期は09年度中と想定している。同様に、強制徴収権限の扱いなどは、もっと時間をかけて、法案化までに党内外での突っ込んだ議論が必要だろう。
 一方、年金一元化も参院選の焦点であり、自公両党の与党年金制度改革協議会は昨年末、厚生年金、共済年金の一元化最終案をまとめ関連法案を通常国会に提出する方針だ。だが人事院調査1つを取ってみても官民格差の調整は難しい。私は防衛、水産、教育に加え、今年は年金問題もじっくり勉強して取り組みたいと考えている。