第137回(12月1日)核実験の制裁措置(下)5カ国が3点合意
 北朝鮮の核問題を巡る6カ国協議は12月中に再開される見通しだが、安倍首相は11月18、19の両日、ベトナム・ハノイで開かれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の期間中、北朝鮮以外の米中韓露4カ国それぞれの首脳と個別会談、日米韓3カ国首脳会談を開き、6カ国協議に望む基本方針を確認した。  また、APECは「北朝鮮の核実験を参加国・地域への明白な脅威と位置づけ、国連安保理制裁決議の完全実施を求める」議長声明を発表した。

 首相は一連の首脳会談で@北朝鮮の「核保有国」としての協議復帰は認めない A核実験に対する国連安保理事会の決議に基づく制裁措置は継続する B北朝鮮の非核化に向けた具体的な成果を上げる――の3点で合意した。ブッシュ米大統領は日米首脳会談後、ハノイ市のホテル中庭で安倍首相と並んで記者会見し「6カ国協議の成功へ、日米両国が共通の決意であることを話した」と述べ、日米が一枚岩であることを強調した。しかし、北朝鮮への「圧力」に重点を置く日米両国と、「対話」を重視し融和政策を採ろうとする中韓露3カ国との間ではかなりの隔たりがあることが浮き彫りになった。


日米は圧力強化、中韓露は緩和
 
 日米両政府はAPECの期間中、外相や6カ国協議の首席代表が協議を重ね、「協議再開が目的でなく、朝鮮半島非核化の具体的成果を得る必要がある」として、国際原子力機関(1AEA)の査察受け入れや核再処理施設の稼働停止などを北朝鮮に要求することが日米の共通認識となっている。 これに対し、韓国の廬武鉉大統領は、国連安保理事会の制裁決議の履行を明言してはいるものの、米国が拡充を目指す大量破壊兵器拡散阻止構想(PSI)には正式参加を見送る方針だし、金剛山観光や開城工業団地開発を通じた北朝鮮との経済交流についても、政府の関与を弱めるだけで、中止する考えはない。

 一方の中国は、北朝鮮の核実験を強く批判し、従来より厳しい態度で、国連安保理の制裁決議にも賛成しているが、APECでは日米両国が主張した文書形式による議長声明に反対、議長が読み上げる形にした。外務省幹部によると「決議の履行については、敢えて現場の役人任せにしているため、制裁が周知徹底されているとは言えないようだ」という。プーチン露大統領も、北朝鮮への影響力、関心とも日米韓中に比べると弱く、核問題解決への積極的な取り組みは見られないようだ。このため、6カ国協議再開は急ぐ必用がないとの声もある。


実験イコール核保有国の証明
 北朝鮮の核実験爆発が小規模だったことから失敗説が浮上しているが、北朝鮮にすれば、「核実験イコール核保有の証明」であり、失敗などは眼中にない。何故なら、インドが初の核実験を実施したのは冷戦中の74年。冷戦後の98年にはインド、パキスタンが相次ぎ核実験を行って両国は一時的に経済制裁を受けたが、3年程度の制裁を耐えた結果、核保有国として認知されている。北朝鮮も経済制裁だけ辛抱し既成事実を積めば、国民生活が如何に疲弊しようと体制は維持でき、核保有国に認知され発言力が強まると考えているようだ。

 高濃縮ウランを使った核開発で核爆弾1個作るにはプルトニウム約6キログラムが必要だが、北朝鮮は既に03年末時点で5,6個以上のプルトニウム抽出を終えたとされる。 今後2年間も抽出を続ければ10個以上の核爆弾製造が可能だ。現在の核保有国は安保理事国の米英露仏中と核実験で認知されたインド、パキスタンに、保有が想定されるイスラエルの8カ国だが、北朝鮮は堂々たる保有国として9番目に仲間入りするわけだ。11月末に北京で開かれた米中朝協議では、北朝鮮代表の金桂寛外務次官が核保有国の立場を強調、一向に妥協しなかったため、6カ国協議の再開日程はなかなか決まらなかった。


米はテロ組織への核移転警戒
 米国の態度はどうか。単に北朝鮮の核武装化を懸念しているだけではない。最も恐れているのは核拡散・移転で、ブッシュ政権の最大の課題であるイラクへの影響力を持つイランや中南米、国際テロ組織に北朝鮮の核が渡り、米国の安全が危険にさらされることにある。米議会や米マスコミの間では、北朝鮮に刺激された日本や韓国、台湾などが次々に核武装に走る「核のドミノ現象」が起こり、北東アジアの安保環境は激変するのではないか、との議論が出始めた。

 10月18日に来日したライス国務長官は、安倍首相、麻生太郎外相と相次ぎ会談し、日米同盟をもとに緊密に連携し、国連安保理事会の制裁決議の迅速な実施を図ることで一致した。翌19日にソウルで開かれた日米韓外相会談では、@北朝鮮の核保有、核実験は断じて認めないA北朝鮮は2回目の核実験を含め、事態をさらに悪化させてはならないB6カ国協議に早期、無条件で復帰させる――などの見解で一致した。


「核の傘」で核のドミノ化防止
 席上、ライス長官は「日韓の防衛についての米国の関与は不変だ」と述べ、日韓両国に対する攻撃には、米国が「核の傘」を前提に、あらゆる手段で対抗措置を取る意向を改めて示した。この発言には、「核のドミノ」化を防ごうとする米国の狙いが込められている。イラクでは米陸軍の消耗が激しかったが、空、海軍は健在で、ペース米統合参謀本部議長ら米軍トップは、北朝鮮が暴発して日本国内の米軍基地などに核攻撃を仕掛ける場合には、ピンポイント攻撃で一撃のもとに核施設を叩き、金体制を崩壊させることを示唆している。

 ブッシュ米大統領は2003年5月、PSI(大量破壊兵器拡散阻止構想)を発表した。これは、核や生物兵器弾道ミサイル関連物資・技術の移転や輸送という大量破壊兵器拡散の脅威に対処し、米国主導で協調して拡散阻止行動をとるもの。日米英仏露など70カ国近くがこれに参加している。このPSI構想の下に日米両国が連携し、制裁決議の迅速な実施を図るとともに、中韓露など関係国にも実施を働きかけている。


集団自衛権の解釈見直し言明
 政府は周辺事態法の発動による給油など米軍への後方支援や、船舶検査法に基づく周辺事態に際しての船舶検査などを検討している。だが、船舶検査の際に、相手の船舶に米艦船が攻撃された場合、仮に海上自衛隊の艦船が近くにいても何もできない。海自艦船が相手船舶を攻撃すれば、集団自衛権の行使と見なされるからだ。集団自衛権の憲法解釈は「持っているが、行使できない」というもの。 この解釈を変えなければ行使も出来ず、日米同盟の信頼性は一気に崩れる。

 首相は国会などで「いかなる場合が憲法で禁止されている集団自衛権の行使に当たるのか、個別具体的な事例に則して研究する」と繰り返し言明しているが、野党は憲法解釈の見直しに反対しており、与党の公明党にも慎重意見が多い。そうした中で民主党は、年内にまとめる基本政策で、「我が国が直接、急迫不正の侵略を受けた場合には、個別的、集団的という概念の議論に拘泥せず、憲法に則って自衛権を行使する」との、集団的自衛権の行使を事実上1部容認する安保分野での政策原案をまとめた。


一刻の猶予もない法整備
 一方の周辺事態法は、米国の後方支援を定めた法律であり、現状では米国以外の船舶には給油などの支援は出来ないし、相手船舶の攻撃があっても助けることはできない。船舶検査法も実効性に疑問がある。停戦させるための警告射撃も、拿捕も出来ず、強制力がないからだ。相手船舶が停船せず、乗船しての検査や航路の変更に応じなければ、単に追尾するしかない。警告射撃は憲法が禁じる武力による威嚇や武力行使に当たるとの理由からだ。

 これでは他国の足手まといになるだけで国際常識から外れた考え方だ。武器使用基準の全面的見直しも必要になる。北朝鮮の弾道ミサイルが日本領土を越えて8年経つというのに、迎撃するPAC3の導入は今年度から始まったばかり。海上迎撃の装備を備えたイージス艦4隻が揃うのは2011年度だ。北朝鮮は既に日本全土を射程に収めた弾道ミサイルを保有している。弾道に核、生物、化学の大量破壊兵器が搭載されたらどうなるか。

 これまで北朝鮮が行ったミサイル発射実験や核開発は、“瀬戸際外交”の「政治的威嚇カード」と見られてきたが、現実に核保有国家となれば「北朝鮮の核ミサイル攻撃」は架空の話ではなく、切迫した危機が顕在化したことになる。石破茂元防衛庁長官の手で経済制裁に必要な特措法の試案がまとめられているが、もはや一刻の猶予もなく、真剣に法整備と取り組まなければならない。


核保有なで個人の議論認める
 対北朝鮮制裁論が国内で沸騰したため、防衛庁の省昇格関連法案の今国会成立を急いでいるが、中川昭一政調会長が10月15日のテレビ朝日番組で、「核(保有)の議論は当然あっていい」と発言したことが党内外に波紋を呼んだことは、前回のHP「北村からのメッセージ」で詳報した。

 安倍首相は非核三原則を堅持する姿勢だが、都内の講演では、「政府や自民党の機関として議論しないことははっきりしている。それ以外の論議は封殺できない。 中川政調会長はアカデミックな場所などで議論されるとの観点から話したのではないか」と中川氏を庇い、麻生太郎外相もまた、議論自体は排除すべきではないと再三表明している。党内には安全保障を真剣に考える場合、様々な選択肢の議論を封印すべきではないとの意見も少なくないことから、今後、個人レベルでは非核三原則の是非などを巡る活発な論議が展開されそうだ。