第136回(11月16日)核実験の制裁措置(中)メンツ失い怒る
 米国、北朝鮮、中国の6カ国協議首席代表は10月31日、北京で非公式会合を開き、同協議を近く再開することで合意した。再開すれば、昨年11月の休会以来1年ぶりとなり、北朝鮮が追加核実験に踏み切る危機も当面遠のくことになる。北朝鮮が「経済制裁を解除するための米朝2国間協議しか応じない」と頑なな態度をとっていたのに、なぜ3カ国が非公式会合を開き6カ国協議再開を決めたのか。米国は7日の中間選挙にプラスになることを期待、中国は6カ国協議の議長国として何とか局面を打開しようと動き、北朝鮮はかつてない中国の圧力を受け、復帰を装いながら新たな時間稼ぎに出たものと見られる。

 しかし、イラク問題が最大争点の中間選挙で共和党は12年ぶりに民主党に敗れ、ブッシュ大統領は国防長官を更迭した。敗北は再開の6カ国協議にも影響を及ぼしそうだ。米中は北朝鮮を核保有国と認めず、ブッシュ米大統領も対北朝鮮制裁決議を着実に履行すると述べているが、北朝鮮は核保有3カ国が非公式会合を持ったと胸を張り、「米国の属州・日本を6カ国協議から排除すべきだ」と主張。国内に向けては「核保有国の誇りと自負を持ち、米帝国主義と闘おう」と巨大看板を立てて宣伝するなど、国民を鼓舞している。


暴発なら中国の経済発展阻害
 中国が怒り、6カ国協議再開に向けて北朝鮮に圧力を掛けたのはなぜか。中国は「朝鮮半島の非核化と安定化」を目指し、6カ国協議の議長国として核問題の調整役を担い、忍耐強く米朝双方の間で落としどころを探ってきた。同時に、飢餓に苦しむ北朝鮮の国民に食糧、原油、化学肥料の供給など様々な経済援助を続けてきた。いわば北朝鮮を近隣の植民地に見立てた懐柔政策だ。

 ところが北朝鮮は、その援助で得た資金を核開発に注ぎ込み、警告を無視して核実験を実施した。中国は完全に裏切られ、メンツを失った。とはいえ、各国の本格制裁を受けて北朝鮮経済が破綻すれば、金正日政権は滅亡覚悟で日米韓同盟へ向けて核ミサイルを発射するなど暴発しかねない。これに米国が報復すると東北部(旧満州)に200万人もの朝鮮民族を抱える中国には難民が殺到、イラク戦争以上の不安定をもたらし、順調な中国の経済発展が阻害される。 

 そればかりか、北東アジアの緩衝地帯、あるいは「米国への防波堤」としてきた北朝鮮の金体制が崩壊すれば、米韓同盟と直接対峙することになり、新たな緊張が生まれる。そこで、「対話と協議」の名の下に説得を続け、暴発間際のギリギリの線で強い圧力を掛け、核保有を諦めさせようとしているわけだ。


金剛山、開城事業の中断迫る
 韓国でも金大中・前政権が採った太陽政策を引き継いだ廬武鉉大統領の融和政策に対する批判が噴出、廬政権は窮地に立たされている。最大野党・ハンナラ党は、廬大統領に対し、政府として対北朝鮮政策の失敗を国民に謝罪するとともに、統一・安保関連閣僚の退陣と景勝地・金剛山観光、開城工業団地開発事業を中断するよう迫った。 これに伴い李鐘ソク統一相が10月25日に辞任、尹光雄国防相も辞意を表明している。 この南北経済協力両事業で韓国企業から北朝鮮に支払われる対価は年間2千万ドル(約24億円)に上るため、核開発に資金が転用されている疑いが強く、米国は「北朝鮮指導層に金銭を与えるために作られた事業だ」とし、中断するよう圧力を掛けている。

 韓国国民の間でも核兵器が飛んでくる恐怖や放射能が流れてくる不安が高まり、定期的に行う防空演習にも熱がこもってきた。韓国の軍当局は情報収集のための早期警戒機や軍事衛星のほか、核兵器を無力化する無人爆撃機の導入など、「核戦争」に対する本格的な防衛策作りに乗り出している。ロシアにとっても北の核武装は大きな脅威だ。北朝鮮が暴発すれば、混乱は中国と同様ロシアの国境地帯にも波及し、ロシアが北朝鮮に持っていたこれまでの権益も失われる。


何が何でも核保有の先軍政治
 しからば北朝鮮はどうか。金正日総書記は金日成元首相の主体(チエ)思想を「先軍(軍事優先)政治」に置き換え、同一の思想・政策として継承した。貧困や洪水などの天災で国民が何百万人餓死しようとも、あらゆる資金、資源を軍事に回すのが先軍政治だ。

 中でも核開発の執念は半世紀に渡る。1950年代、朝鮮戦争で米国の圧倒的軍事力を見せつけられた当時の金日成首相は核保有の必要性を痛感、技術者をソ連に派遣して核開発に着手した。米国と対等に渡り合い、体制を維持して行くには「交渉の武器となる核武装しかない」というのが信念で、これは、しっかり金総書記に受け継がれている。  
 北朝鮮は74年に国際原子力機関(IAEA)、85年には核拡散防止条約(NPT)に加盟したが、寧辺の核施設で密かにプルトニウムの抽出を行った。この事実がIAEAの査察で発覚しそうになると、93年3月にNPTからの脱退を宣言し、恫喝紛いの『瀬戸際外交』に転じた。


ならず者国家とブッシュ対決
 この後、数多くの「核カード」を切って交渉に成功している。北朝鮮は94年5月に実験用原子炉(黒鉛炉)からの使用済み核燃料棒の抜き取りを強行したが、クリントン民主党政権が融和政策を示し、米朝枠組み合意で核開発を凍結するために、日米韓共同組織の朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)設立を条件に核施設の稼動を停止、NPTに暫定復帰した。

 だが、02年10月に密かに進めた高濃度ウラン濃縮の疑惑を米国が指摘すると、IAEAの監視員を追放、03年1月にNPT公式脱退宣言、05年5月に核兵器保有を宣言、同年5月に実験炉から再び使用済み核燃料棒を8千本抜き取りプルトニュウム抽出――などと核開発のステップを急速に高めて行った。
 核保有を悲願とする金総書記は、「主権国家としての正当な権利」、「米の核戦争の威嚇と敵対政策に対する自衛的措置」と主張してきた。

 しかし、ブッシュ米大統領は、北朝鮮、イラク、イランを「悪の枢軸」と呼び、大韓航空機事故のテロ、偽札、偽タバコ、麻薬製造など「何でもあり」の国家的犯罪を犯す北朝鮮を“ならず者国家”として強い姿勢で臨んだため、瀬戸際外交はあまり役に立たなかった。


2国間交渉で制裁解除目指す
 しかも、昨年秋に浮上した北朝鮮のマネーロンダリング問題でブッシュ政権はマカオのバンコ・デルタ・アジア銀行の口座を封鎖するなど金融制裁に踏み切った。これは北朝鮮経済に大きな打撃を与え、北朝鮮は何とか米朝2国間交渉でこの金融制裁を解除しようと必死になった。その打開策が核実験であったわけだ。
 
 小此木政夫慶大教授は10月の読売新聞に、「イラクは内戦状態で米軍は引き揚げられない。 米国は11月に中間選挙を控え、中国も2年後の北京五輪を控えて朝鮮半島の不安定化は望まない。イラクが米軍のバグダッド進攻を許したのは、フセイン大統領がイスラエルまで届く核ミサイルを持っていなかったからだ。 北朝鮮はこれを教訓とし、日本にまで届く核ミサイルを保有してしまえば、同盟国の米国は日本を危うくする平壌攻撃は仕掛けてこないと見た」との趣旨の論文を載せている。確かに、北朝鮮がその狭間を突いて実験したことに間違いはない。


2年間は軍事介入なしと見た
 イラクでの米兵死者数が今年最多を記録するなどで中間選挙を前に米国内ではイラク戦略見直し論が高まった。ペース米統合参謀本部議長は「イラクの治安情勢は想定の範囲内」であると強調、世論の沈静化を図ったが、ブッシュ共和党はイラク攻略失敗で中間選挙に敗北、早くもレームダック(死に体)といわれ始めている。 
 北朝鮮は、少なくとも本選挙までの2年間は米国が北朝鮮に軍事介入はできないと分析し、大胆な行動に出たわけだ。
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