第130回(8月16日)日米安保に独立章 北朝鮮懸念の防衛白書
政府は8月1日の閣議で、「未来に向けた確かな安全保障のために」との副題が付いた平成18年版「日本の防衛」(防衛白書)を了承、公表した。白書は「日米安保体制の強化」について初めて独立した章を設け、在日米軍再編の速やかな実施を宣言したほか、7月5日の北朝鮮ミサイル7連射について、発射後の短時間ながらも分析を加え、「長射程化が一層進展することは極めて憂慮すべきだ」と懸念を表明している。中国については国防政策や軍事力の透明性を向上させることが重要だと指摘した。そのうえで、ミサイル防衛(MD)システムの向上など我が国の防衛力整備と、防衛庁の省昇格関連法案の早期成立などを強く求めている。在日米軍再編や省昇格関連法案などはこれまでのホームページで詳報してきたので重複は避けるが、私は「国民の安全・安心を確保」するため、総裁選の最中にも07年度予算編成とじっくり取り組み、安全保障環境の改善に努めたいと考えている。

核、宗教で脅威が多様・複雑化
国際情勢の概観では、「国際テロ組織など非国家主体の活動は各国にとって重大な脅威。核・生物・化学兵器などの大量破壊兵器や運搬手段となる弾道ミサイルの拡散も脅威だ。宗教や民族問題に起因する地域紛争も国際社会の大きな問題となっている」と脅威が多様化、複雑化したことを挙げ、国際社会の安定には国家間の協力が一層重要になったと指摘している。確かに、イスラエルが空爆を続けるレバノンでは、イスラム教シーア派組織ヒズボラが激しく反撃し中東戦争再現の様相を呈し、原油価格がさらに急騰。まさに「宗教・民族問題に起因する地域紛争」の拡大だ。アメリカの報道では、「ヒズボラはアル・カイーダと同様のテロ組織でイラン、シリアという“ならず者国家”の操り人形」とされている。

ヒズボラに各種ミサイル支援
ヒズボラはイランが後ろ盾となり、約1万発の短距離ロケット弾を保有、イスラエル北部に連日140〜200発も撃ち返すほか、地上戦でも誘導機能を持つロシア製(シリア経由)対戦車ミサイルでイスラエル戦車部隊を苦しめている。イランへ北朝鮮の弾道ミサイルが輸出され、イランと北朝鮮の核開発が進んだらどうなるか。第1次中東戦争などの比ではなく、イスラエルは廃虚の危機にさらされよう。それだけに米国は、中東和平に積極的に取り組み、国連安保理でイランにウラン濃縮停止を求める決議やレバノンの停戦決議案採択をリード、ウラン決議を拒否すればイランに直ちに経済制裁を実施する構えだ。

北ミサイルの精度高く実戦配備
この点、白書では「北朝鮮は“外貨稼ぎを目的”に弾道ミサイルを輸出していると認めており、こうした開発・配備と移転・拡散によって得た利益でさらにミサイル開発を進めていると見られる」と指摘、「このような軍事的な動きは、朝鮮半島の緊張を高め、東アジア全域の重大な不安定要因となっている」と述べている。日本海に向けたミサイル7連射のうち、射程6000キロのテポドン2号は打ち上げ直後に墜落・失敗したが、日本全土を射程に収めるノドン(射程1300キロ)だけでなく、従来のスカッド(射程300〜500キロ)より射程を延ばし、日本の一部にも到達する新型スカッドも含まれていた、と見られている。しかも、テポドン以外の6発のミサイルは日米両政府の分析によると、北朝鮮が事前に設定した航行禁止海域内の半径50キロ範囲内に、北朝鮮の狙い通りに着弾していた可能性が高いことが分かった。防衛庁は「ノドン、スカッドの命中精度は一定程度高く、実戦配備の段階にあることが実証された」と警戒している。

18年連続2桁の国防費伸び
テポドン2号について白書は「新型ブースターを第1段目、ノドンを第2段目に利用しており、こうしたテポドン2号の派生型が作られる可能性も含め、北朝鮮の弾道ミサイルの長射程化が一層進む」と、予想している。北朝鮮ミサイルの脅威に対しては、ミサイル防衛(MD)システムを今年度末から導入(先のホームページで詳報)することにしているが、日米両政府は、次世代型迎撃ミサイルの共同開発に乗り出し、防御範囲の拡大、迎撃能力の向上に努めなければなるまい。中国については「国防費は当初予算比で18年連続2桁の伸び率を達成した。陸軍の削減と、核・ミサイル戦力や海・空軍を中心とした全軍の近代化を進めている。独自に開発努力を続けている核戦力は、運搬手段として弾道ミサイルのほか、中距離爆撃機H6を百数十機保有。大陸間弾道ミサイルは約30基、日本などを射程に収める中距離弾道ミサイルは相当数保有しており、最近は液体燃料方式のDF3から、固体燃料方式での発射台付き車両で移動して運用されるDF21への転換が進みつつある」とし、「台湾対岸の短距離弾道ミサイルは少なくとも7百数十基あり、年々増加している」と詳述している。中国の軍事的脅威の方が北朝鮮より、遙かに上回っている。

対中国機への緊急発進107回
白書では、04年11月に中国の原潜が我が国領海内で国際法違反の潜没航行をしたほか、海軍艦艇や政府船舶が日本の排他的経済水域で海洋調査を行うケースが増えていると指摘している。中国が海洋における活動範囲を拡大する目標としては、@領土・領海防衛のため、遠方の海域で敵の作戦を阻止A台湾独立の抑止・阻止のため、軍事力整備B海洋権益の獲得・維持・保護の能力アピールC経済活動の生命線である海上輸送路の保護――にあると分析している。読売新聞も社説で、「東シナ海の海底ガス田開発を巡る日中の係争海域で、昨年9月、中国の軍艦5隻が確認された。領空侵犯の恐れがある中国機に対して航空自衛隊の戦闘機が緊急発進(スクランブル)した回数は、05年度に107回にのぼった。前年度の8倍で過去最高だ。自衛隊の通信機能など何らかの情報収集のためと見られる」と報じている。“東シナ海波高し”だ。白書ではまた「中国は国防白書を発表しているが、内訳の詳細は、人員生活費、活動維持費、装備費に3分類し、それぞれの総額を公表しているのみだ」とし、中国が軍事力などの透明性を高めていくことを望んでいる。

日米同盟の深化が益々重要
こうした日本の安全保障上の不安定要因を除去するには、安保環境の変化に応じて、日米同盟関係を発展させる必要があるとしている。自衛隊と米軍の役割・任務・能力については、05年10月に日米が作成した共同文書で、@新たな脅威への対応を含む日本の防衛及び周辺事態への対応A国際平和協力活動への参加や国際的な安全保障環境の改善――に重点を置いて、防空、ミサイル防衛、核拡散阻止活動、テロ対策、海上交通の安全維持、捜索・救難活動、情報・監視・偵察、人道救援活動、復興支援活動など15項目を列挙、今後日米で検討を深めることにしている。脅威が多様化、複雑化する中で、日米同盟の深化は益々重要だが、私はこれらを十分に検討し、来年度予算案に反映したいと思っている。