第127回(7月1日)急げ社保庁改革 早期に年金改革合同会議を
年金など社会保障制度と消費税アップの税財政改革は、ポスト小泉に先送りされた最重要課題であり、9月の自民党総裁選、来夏の参院選の最大争点になる。官房長官の私的懇談会「社会保障の在り方に関する懇談会」(座長=宮島洋早大特任教授)が5月末にまとめた最終報告書は、7月上旬に決定される政府の「骨太の方針」に反映され、07年度予算編成や税制改正論議の基礎資料となる。しかし、前国会の社会保険庁改革関連法案は、年金保険料の不正免除問題のあおりで継続審議となり、首相指名の臨時国会へ決着が持ち越された。「ねんきん事業機構」への衣替えが1時期遠のき、社会保険庁はほっと一息ついているだろうが、とんでもないことだ。年金保険料の無駄遣い、随意契約絡みの汚職、支給ミスなど数々の不祥事を起こしてきた「伏魔殿」に国民の批判が集まっている。私は衆院厚生労働委員会に属した経験から、一刻も早い組織内改革を断行すべきだと思っている。

25年の国民負担143兆円に
我が国の社会保障制度は、社会保険(医療、年金、雇用、介護、災害補償)を中心に構築され、国民や企業が税や保険料として収めた資金を再配分する制度。1961年に国民年金、皆保険制度が確立して基盤が整った。「社会保障の在り方懇談会」の報告書は将来の年金・医療などの社会保障給付費と、それを支える税・保険料などの国民負担額の見通しを示したのが大きな特徴で、今後の社会保障制度改革の中長期的な指針の役割を果たす。見通しによると、国民負担は、06年度が82.8兆円だが、高齢化の進展で25年には143兆円と73%も増加すると見られている。一方、給付費の見通しは、政府が基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を目指す11年度が105兆円に上り、06年度の89.8兆円の17%増となる。これは経済成長を遙かに上回る伸び率だ。

消費税含め税制全体改革
報告書は「共助のシステムは社会保障方式を基本に国民皆保険、皆年金体制を維持。税財源は主に社会保険料の拠出が困難な者をカバー」することを<基本的な考え方>とし、負担増加への<今後の在り方>としては、「消費税を含む税制全体の改革を検討し、世代内、世代間の負担公平を図る」と明記、「高齢者、女性、若者、障害者の就業促進と担い手の拡大が重要」であることを強調した。<年金制度改革>では@公的年金1元化は、被用者年金制度の1元化から始めるべきだA厚生・共済年金の保険料率を統一(18.3%上限)する考えを堅持Bパート労働者など非正規労働者や専業主婦への年金適用を検討――を提言したが、民主党が求める国民年金を含めた年金1元化など抜本改正については、「(給与所得者と異なる)自営業者の所得把握には一定の限界がある」など慎重な表現に止めた。報告書は<少子化対策>、<医療制度改革>、<留意点>などにも言及している。

年金改革で前回参院選敗北
政府・与党は、04年の年金改革で厚生年金と公務員共済年金の保険料率を上限18.3%まで引き上げて統一することを決定したが、その統一を2018年に完了させる方針だ。保険料率は厚生年金の方が公務員共済より高く、04年から始まった引き上げの幅も、厚生年金が年0.354%であるのに対し、公務員共済は平均で年0.29%だ。現行の引き上げ幅を維持した場合、厚生年金は2017年に上限の18.3%に達するが、公務員共済は2025年にようやく達する計算。それまでは公務員に有利な「官民格差」が続くため、2018年に統一し、格差解消を急ぐことにしたわけだ。しかし、公務員共済側からは「早期の統一は、公務員の負担が重くなりすぎる」との不満が出ている。前回の参院選は、04年の年金改革や国民年金保険料の未納問題で国民の年金不信が一気に高まり、自民党が改選議席を割って49議席だったのに対し、民主党は50議席と躍進した。

消費税の目的税化論高まる
来年7月の参院選でもその轍を踏む恐れは多分にある。谷垣禎一財務相は6月16日の記者会見で、「消費税を社会保障のための安定的な財源と位置づけて、国民への給付に充て、国民の理解と納得を得ることが望ましい」と述べ、消費税を目的税化する時期を「歳出改革を徹底したうで、なお必要な負担増をお願いする時」と指摘した。与謝野馨経済財政担当相も「(目的税化に反対していた)財務省の古い理論は当てはまらない時代になってきた」とし目的税化に前向きな姿勢を示している。福田康夫元官房長官も「増大する社会保障費などの財政再建策には消費税アップが必要」と唱えており、内政では年金と消費税、格差解消が最大の争点になろうとしている。しかし、消費税の導入や税率アップを公約に掲げた歴代内閣は国政選挙でいずれも手痛い苦戦を強いられてきた。おまけに今度は、国民年金の保険料を不正に免除した社会保険庁の不祥事が発覚し、前国会では社会保険庁改革関連法案が流産した。片山虎之助参院幹事長らが参院選に与える影響を憂慮するのは当然だ。

労組との怠業覚書や不正免除
不正免除行為は、昨年7月に東京・板橋の社会保険事務所から26人分の不正免除が報告されたのが発端。今年3月には京都の事務局で組織的な不正免除が発覚したが、この時の全国調査では、各事務局から「不正なし」の虚偽報告がなされた。それが全国26都府県の社保事務局で、合計11万4千件もあったというから恐れ入る。社保庁ではここ数年、年金保険料の無駄遣い、多額の随意契約に絡む汚職、組織ぐるみで年金制度啓発冊子の「監修料」稼ぎ、国会議員や著名人の年金情報(加入記録)の不正閲覧(のぞき見)など、職員の規律は乱れきっていた。それに加え、読売の社説によると、「職員労組との間で、100件以上の覚書きを交わして、怠業を認めるに等しい労働条件を取り決め、業務は非効率を極めていた」という。そこへ財界(損保会社)から単騎・落下傘で就任したのが村瀬清司長官である。村瀬長官は、ぬるま湯体質を改めるため覚書きを破棄、民間企業同様に成果主義を導入、60%台まで低下していた保険料の納付率を80%まで回復させるよう檄を飛ばした。

事務局ぐるみは1律に局長更迭
ところが、各地の社保事務所は、楽をしながら納付率を上げるために、本人には無断で保険料免除の書類を不正に作成、保険料納付率を高く見せかける姑息な裏技を行使した。東京の中野社保事務所は、郵便物が届かなかった1221件について未納者を十分確認せずに「行方不明者扱い」にしていた。この扱いにすると、納付率の分母から除かれるため、納付率をかさ上げできるからだ。行方不明者扱いは全国で約72万件もあるという。こんな体たらく、不祥事続きでは、自営業者や学生・若者などの保険加入者が保険料の納付を逃げたくなるのは無理からぬところ。事務局長など社保庁官僚は不正を黙認していた疑いが強く、村瀬長官はこれまで大阪、三重、静岡の事務局長を更迭したが、6月16日の衆院厚生労働委で「事務局ぐるみの不正が発覚した局長は1律更迭する」との方針を示した。

「3層構造の伏魔殿」新藤教授
新藤宗幸千葉大教授は6月13日の読売のコラムで、「社保庁は『伏魔殿』と言われてきたように、硬直化して風通しが悪く、中央の監視が行き届かない組織だ。幹部は厚生労働省出身のキャリア官僚が占め、その下に社保庁採用のノンキャリアがいる。地方の出先は都道府県ごとに採用された職員だ。人事体制が『3層構造』になっていて相互のあつれきが強い。しかも、出先の職員は99年度まで『地方事務官』で、都道府県知事の監督を受けていたため、県職員のような意識が強く、中央をないがしろにしがちだ」と痛烈に批判、長官が人事権をもっと発動し、組織内改革を進めるべきだと進言している。また、社保庁改革関連法案については、「年金部門と政府管掌健康保険部門を分離し、年金部門は『ねんきん事業機構』に衣替えすると言うが、そんなことをしても保険料納付率は上がらない。納付率が低迷するのは、国民が年金制度を信頼していないからだ。国民年金を今後も保険料で賄うのか、財源を税に切り換えるかによって、組織の在り方は全く変わってくる。国会で休眠状態の年金改革合同会議を再開させ、与野党が責任を持って年金改革に早期結論を出すべきだ」と述べている。

「税と一括徴収」西沢氏提言
一方、西沢和彦日本総研主任研究員は6月8日の読売のコラムで、「そもそも社保庁改革とは、徴収機関改革の一環である。その本旨は組織の立て直し自体にあるのではなく、小泉政権の掲げる『簡素で効率的な政府』の趣旨に即した社会保険料の徴収体制を築くことにあるはずだ」とし、納税情報を持ち、滞納者の所得も資産も把握できる国税庁か、あるいは地方自治体による「税と社会保険料の一括徴収」を有力な方策として検討すべきだと提言している。確かに、新藤教授が指摘したように、国会での年金改革合同会議の早期再開が望まれるし、社保庁改革関連法案も単に組織いじりだけでなく、西沢氏が言うように一括徴収など年金制度そのものを改革することも必要だ。同法案は継続審議とされたが、閉会中審査も十分に行い、追加対応策も打ち出していかなければならないと感じている。