第125回(6月1日)教育基本法の攻防激化 愛国心と宗教が争点
 教育基本法改正案は5月16日の衆院本会議で審議入りし、与野党の激しい攻防が続いている。私は衆院に設置された特別委の委員に任命されたが、24日に首相出席の総括審議が開かれ、ようやく実質審議に入った。民主党は「愛国心」や「宗教教育」をストレートに訴える対案を23日に提出し、自民党議員の心理をくすぐるなど揺さぶりを掛けてきている。教育基本法特別委は森山真弓委員長を筆頭に森喜朗、海部俊樹両元首相、町村信孝筆頭理事ら歴代文相の文教族で固め、「小泉改革の総仕上げ」(森氏)として是非とも今国会で成立させようとしている。学級崩壊、ローティーンの凶悪犯罪、ニート族など夢を持たない若者の増加、最高学府に学びながら「カネさえあれば」のホリエモン流拝金主義や、法の盲点を突いて稼ぎまくる村上ファンド、企業モラルを喪失した耐震強度偽装事件の容疑者たち。私はこれらの自己中心主義が、教育荒廃の土壌から生まれたと憂慮している。安保に劣らず「教育の防衛」は重要だ。「一刻も早く戦後教育の“ゆがみ”を是正したい」と私は精力的な活動を続けている。


戦後教育の荒廃が深刻化
 政府の改正案については5月1日付のホームページで、教育基本法が戦後占領下に制定された経緯、改正論議が高まった背景、中教審の答申や与党改正協議会の審議経過、改正内容の要点などを詳しく述べたので重複は避けるが、ポイントだけをおさらいしよう。同法は1947年(昭和22年)に連合国軍総司令部(GHQ)主導で制定されたが、国家主義の復活を阻止することに重点が置かれたため、条文には「個人の尊厳」や「個人の価値」など、権利尊重の文言がちりばめられた。これにより民主主義教育は定着したが、その後1度も改正されないまま時が経つに連れ、社会情勢は大きく変わり、日本の伝統を大事にする心が失われてきた。とくに行き過ぎた個人の権利尊重が、学級を崩壊させ、不登校児童の増加、地域・家庭の教育力低下となって現れ、教育の荒廃が深刻化してきた。


公共の福祉、伝統を尊重
 そこで改正では@「公共の精神」や「伝統と文化」を尊重A「生涯学習」「大学」「私立学校」の条文を追加B義務教育の「9年」の年限を削除し、「家庭教育」「幼児教育」を規定――などを盛り込み、自己中心主義が目立った戦後教育の“ゆがみ”の是正を目指した。
前文に「公共の精神を尊び…伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育」をうたったのは、教育現場で身勝手な行動をとる生徒が増えているのに対処し、自己中心的な態度を改めさせる狙いが込められている。義務教育の「9年」年限削除は、「6.3」制にこだわらない義務教育の弾力化、延長論議を進展させるためのもの。第10条の家庭教育では「父母その他の保護者は、この教育について第一義的責任を有する」と保護者に「しつけ」の重要性を自覚させ、国や自治体には家庭教育、幼児期教育の振興義務を設けるなど、少年犯罪の低年齢・凶悪犯罪化を防止しようとするものだ。また、格差社会が問われている中で、第3章の教育行政では「国は全国的な教育の機会均等と教育水準の維持向上を図るため、教育施策を総合的に策定する」とし、教育格差、地域格差の解消を目指している。


愛国心と宗教教育で揉める
 「教育基本法は制定以来、半世紀以上経過し、道徳心、公共の精神などを一層重視することが求められている」――。首相は16日、衆院本会議の趣旨説明後の質疑で改正案の意義を強調したうえ、「(愛国心は)児童、生徒の内心に立ち入って強制する趣旨ではなく、内心の自由を侵害するものではない」と理解を求めた。これは政府案で「愛国心」の表し方について、「心」ではなく「態度」と表現したことについて、民主党の鳩山由紀夫幹事長が「(愛国心に)心がなくても態度だけ示せばいいのか」と代表質問で鋭く切り込んだからだ。首相は「態度は心と一体として養われるものだ」と逃げたが、「愛国心」と「宗教教育」は3年間に渡る「与党教育基本法改正検討会」で散々揉めたいわく付きの部分。自民党は「公共の精神」の延長線上に「国を愛する自然な気持ちがある」とし、すっきりした「愛国心」の表現にこだわったが、公明党は「戦前の教育を思い起こさせる表現はよくない」と最後まで反発。統治機構や国家権力、偏狭なナショナリズム(国家・国粋主義)を想定するステート(国家)ではなく、カントリー(国・郷土・いなか)を愛する純粋な意味でのパトリオティズム(愛国心)的な表現にするよう求めた。結局、政府の改正案は第2条(教育の目標)で「伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う」の表現にした。


ズバリ表現で自民揺さぶる
 これは、大島理森委員長(元文相)が、「心をいかに態度として示させるかが教育」として、「心」のくだりを「態度」の表現に置き代えて自民党内の了承を取りつけたもの。これに対し、民主党の対案(日本国教育基本法案)は前文で「日本を愛する心を涵養し、祖先を敬い、子孫に想いをいたし、伝統、文化、芸術を尊び、学術の振興に努め、他国や他文化を理解し、新たな文明の創造を希求する」とし、自民党が求めていた「愛国心」をズバリ、ストレートに表現している。公明党が敏感だった「宗教教育」についても、政府案は「宗教に関する寛容の態度、宗教に関する一般的な教養及び宗教の社会生活における地位は、教育上尊重されなければならない」と、宗教への「一般的な関心を示す程度の教養」にぼかし、自民党が求めた道徳の基礎となる「宗教的情操の涵養」には触れていない。だが、民主党案は「宗教的感性の涵養及び宗教に関する寛容の態度を養うことは、教育上尊重されなければならない」と「感性(宗教的情操)の涵養」を明解にうたっている。

民主案は玉石混淆だが魅力的
 この点、鳩山氏が「宗教的情操教育は必要でないのか」と質したのに対し、首相は「宗教的情操は内容が多義的で規定しなかった。道徳を中心に豊かな心を育む取り組みが重要」と苦しい答弁を重ねている。もともと自民党内には、「愛国心の教育を否定するのは世界中で日本だけ」と、公明党に配慮し過ぎたと思える政府案に不満を持つ者が多く、下村博文前文科大臣政務官も「民主党案は玉石混淆だが、魅力的な表現がちりばめられている」と率直に評価している。民主党が独自案を提出することで自民党にくさびを打ち込む狙いは成功しつつあるようだ。教育の目的・目標において、民主党は明確な進路を打ち出しているが、小沢一郎代表になって同党は対決路線を強めており、与野党が法案修正協議を進める可能性は低い。実質審議入りした24日の特別委でも、民主党の松本剛明政調会長は、自民党内に異論のある与党案の「我が国と郷土を愛する“態度”」と民主党案の「日本を愛する“心”の涵養」の違いを首相に質し、与党内の足並みの乱れを誘った。民主党は長期的に国民的議論をするための調査会設置や、47都道府県での地方公聴会開催を求め、審議の引き延ばしを図ろうとしている。共産、社民両党も同法案には猛反対だ。


心身ともに健康な国民育成
 従って土曜、日曜を除き精力的に審議を進めても会期内に衆院を通過させるのが精一杯で、このままでは継続審議しかない。成立には最低1カ月以上の会期延長がなければ物理的に不可能で、終盤国会は延長是か非かの攻防が続いている。といっても、改正案は、前文で教育の根本理念をうたい、第1条で「人格の完成」「国家・社会の形成者として心身ともに健康な国民の育成」を教育の目的に規定し、知育・徳育・体育の調和が取れ、生涯にわたって前向きに生きていくことが出来る人間の育成を目指しているわけだ。私は現下の教育の危機的状況を打開するためにも、与野党が一致協力して新しい「教育の憲法」を制定してくれることを念願している。