第123回(5月1日)やっと教育基本法改正案 愛国巡り審議難航
政府は4月28日、教育基本法改正案を閣議決定し国会に提出した。衆院に特別委員会を設置し、連休明けから大車輪で審議し、会期内に成立させる方針だ。後半国会にはさらに国民投票法案、防衛省昇格関連法案、米軍再編推進関連法案(仮称)など重要法案の上程が予想される。それに小泉首相が会期延長を否定しているため、教育法案の審議時間が少なく今国会での成立は困難で、臨時国会での継続審議、あるいは次期政権に先送りするとの見方も強まっている。とくに自民党内には「愛国心」などで公明党に歩み寄った与党案に反対する声が根強い。これに対し、神崎武法代表が「責任を持てるのは今の案だけ。自民だけで通せるならどうぞご自由に」と反発する一幕もあり、審議は難航気味だ。しかし、相次ぐローティーンの凶悪犯罪、企業倫理を忘れた耐震強度偽証事件、自己中心的で拝金主義のホリエモン騒動など教育の荒廃が生んだ醜悪な事件が多発し、改正案の早期成立が望まれている。同法案の推進者・森喜朗前首相は「延長してでも、改正をやってこそ小泉改革は立派に成功したとなる」とハッパを掛けて自ら特別委の委員を志願。海部俊樹元首相ら歴代の文相、文部科学相経験者で委員会を固め、委員長には森山真弓元文相、与党筆頭理事には町村信孝元文相を充てるなど、重厚な布陣で成立させる意気込みだ。


森内閣で改正論議本格化
教育基本法は「教育の憲法」と呼ばれるものだが、同法が戦後占領下のGHQ(連合国軍総司令部)の主導で制定された経緯から、個人の権利尊重に偏りすぎた面があって、学力低下、モラルの喪失に加え、学級崩壊など様々な弊害が生じている。このため、行き詰まった戦後教育の転換を目指そうと、改正論議が高まってきた。2000年3月27日に教育改革国民会議(首相の私的諮問機関)が設置され、同4月に文教政策重視の森内閣が発足してから改正論議が本格化した。同年12月末、同会議は教育基本法見直しの最終報告を森首相に提出。01年4月に発足した小泉内閣の遠山敦子文部科学相が中央教育審議会に新時代に相応しい同法の在り方を諮問、中教審は03年3月、「郷土や国を愛する心の涵養を図ることが重要」などを盛り込んだ答申書を提出。その後、「与党教育基本法改正協議会」、その下に「与党教育基本法改正検討会」が設置され、「国を愛する心」「生涯教育」「「家庭教育」など11項目について3年間に約70回も検討を重ねてきた。


愛国心で大島座長案
 「家庭教育」では、急速に増加している家庭内暴力や少年犯罪の凶悪化を防ぐため、敬老や公衆道徳の心を幼児期から植え付けることや、「生涯学習」にはスポーツやボランティア活動を包括した概念を盛り込むことなどが協議された。自公両党の最大の対立点は「愛国心」の扱い。「国を愛する心」の明記を求める自民党に対し、公明党は「戦前の軍国主義、全体主義的な教育に戻る印象を与え『国イコール統治機構』を愛せと言う意味になる」と反対し、「国を大切にする心」と表現するよう主張して譲らず、話し合いは難航した。結局、検討会の大島理森座長(元文相)が4月12日、「愛国心」の表現について、「伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛する」とした座長案を提案し両党が同意した。双方の譲歩で、自民党が「国」と「愛する」のキーワードを維持でき、公明党が敏感な「宗教教育」に手を付けず、公明要求の「国際社会」などの文言が入ったからだ。現行法の「男女共学」の条項は既に趣旨が広く浸透したとして削除、新たに「私立学校」「幼児教育」「家庭教育」「生涯教育」など8条を加え、18条で構成することも決まった。


通せるならご自由にと公明
それでも自民党内には、「愛国心を教えることを否定する国は、日本以外にない」、「憲法改正間近というのに、『前文で憲法の精神にのっとり』というのはおかしい」、「公明党に配慮し過ぎだ。自民党単独で法案を提出してもいい」などと不満を漏らす向きが多かった。自民、民主両党や平沼赳夫元経産相ら無所属の議員で構成する超党派議連が「国を愛する心」と「宗教的情操の涵養」の明記などを求めて独自案を発表。対案を提出する動きもある。これらに対し、神崎代表は「公明党として責任を持てるのは今の案だ。自分たちだけで法案を通せるなら『どうぞご自由に』だ。参院では公明党が加わって過半数という現実をよく見て、誠実に成立のために全力を尽くしてもらいたい」と不快感を募らせている。自民党は同24日、文科部会・文教調査会の合同会議と総務会でようやく同改正案をクリアし、28日の閣議決定に持ち込んだ。戦前教育の復活を警戒する共産、社民両党や旧社会党系議員を抱える民主党の1部も同改正案には反発しており、審議は前途多難のようだ。


教育基本法の前文と改正案の要旨は次の通り
前文】我々日本国民は、たゆまぬ努力によって築いてきた民主的で文化的な国家をさらに発展させるとともに、世界の平和と人類福祉の向上に貢献することを願うものである。我々はこの理想を実現するため、個人の尊厳を重んじ、真理と正義を希求し、公共の精神を尊ぶ豊かな人間性と創造性を備えた国民の育成を期するとともに、伝統を継承し、新しい文化の創造を目指す教育を推進する。ここに我々は日本国憲法の精神にのっとり、我が国の未来を切り拓く教育の基本を確立し、その振興を図るため、この法律を制定する。
【改正案】第1条(教育の目的)教育は人格の完成を目指し、平和で民主的な国家及び社会の形成者として必要な資質を備えた、心身ともに健康な国民の育成を期して行わなければならない。第2条(教育の目標)教育は学問の自由を尊重しつつ、次の目標を達成する。▽真理を求め、勤労を重んじ、公共の精神に基づき主体的に社会の形成発展に参画し、環境の保全に寄与する態度を養う。▽伝統と文化を尊重し、それらを育んできた我が国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養う。
=以下略=