第121回(4月1日)新東西パワーゲーム 総裁選は対話か対抗か
急激な躍進を遂げる中国。せっせと核開発を進めるイラン――。日米豪は3月中旬、シドニーで初の「戦略対話」を開き、中国の軍事費増大や不透明さへの「懸念」とイラン核開発への「重大な懸念」を表明した。これに対し、中ロは同じ時期、北京で「戦略協力会議」ともいえる首脳会談を開き、イランの核問題解決に向けて共同歩調をとることやエネルギー分野での協力を定めた共同宣言に調印した。新たな東西のパワーゲームの始まりだ。年率10%近い高度成長、18年連続2桁の国防費膨張など伸び盛りの中国は、世界2位の石油消費大国となり、13億の胃袋を満たす穀物が不足するなど内外に大きな問題を抱えている。東シナ海のガス田開発では日本の領土で実効支配している尖閣諸島に近い海域まで日中共同の開発区域に提案してきた。首相の靖国参拝で途絶えた日中首脳会談だが、いかに対話を復活させるかが秋の総裁選の焦点になってきた。中国に目を向けて見よう。


戦略対話で中国軍備懸念
シドニーで3月18日に開かれた「日米豪戦略対話」には、麻生太郎外相、ライス米国務長官、ダウナー豪外相が出席。中国の軍事費急増や不透明さに懸念を表明したが、共同声明に「懸念」を盛り込むことは避けた。背景には石炭などの資源エネルギー輸出を中心に対中貿易が増え、豪州の好景気を引っ張っていることがある。逆に共同声明には「中国のアジア太平洋地域への建設的関与を歓迎する」と表明した。またイランの核開発への「重大な懸念」を示し、全ての濃縮関連活動の停止と、国際原子力機関(IAEA)理事会が求める全ての措置を講ずるための国連安保理で協議した行動をとる必要性を議論。北朝鮮には6者協議への即時・無条件復帰を求めることで一致した。また、核不拡散条約(NPT)に加盟しないインドが米国との原子力協力に関し、民生用原子力施設についてIAEAの査察を受け入れたことについて「国際的な不拡散体制の範囲の拡大に向けた積極的な一歩になるだろうことに留意した」とし、声明では「中東・アジアの平和」に最重点を置いた。


中ロは外交成果の満足
一方、3月21日に北京で開かれた中ロ首脳会談は、中ロ両国が「戦略的協力パートナーシップ」を結んで10年の節目に当たる。プーチン大統領の公式訪中はこれで4度目だ。 会談で胡錦涛国家主席は「両国関係は急速に発展し重要な成果を上げ、双方は子々孫々の友好と平和を確立した」と述べ、プ大統領は「両国関係は大変高いレベルに達した」と応じた。この10年間に、懸案だった国境の領土問題を決着させ、中国はエネルギー需要を賄うためにロシアの石油や天然ガスの供給を受け、軍事力の近代化のためにロシア製の武器をどしどし輸入してきた。両首脳が外交の成果に満足したのは当然だろう。イランの核問題について共同声明は、「政治・外向的解決に向け一層緊密に協調していく」ことを確認、国連安保理の協議でイランへの経済制裁を視野に入れている欧米を牽制した。エネルギー分野でもさらに、ロシアの負担で西シベリアから中国に天然ガスを供給する全長約3千キロのパイプラインの建設に向けて、双方が努力を続けることを確認した。中国は石油消費大国で、02年に日本を抜いて世界2位となり、世界消費量の約3%を占めている。


軍事背景にエネ資源開発
それだけに石油を確保するため、世界第5位の石油輸出国・南米ベネズエラの油田開発に進出、アフリカでも石油開発を進めているが、原油輸入元ではサウジアラビアを抜いてイランが第1位、昨年のイランからの原油取引量は日本企業を抜いてトップに立っている。イランの核問題で中ロが協調するのは、これまた当然といえる。そうした中で3月上旬、日本の国会にあたる中国の全国人民代表大会(全人代)が開かれ、3月14日に閉幕した。中国の予算で国防費の伸びは、前年比約15%。軍事力の不透明さが国際社会から指摘されるなかで、18年連続2桁増を維持している。その軍事力を背景に、13億の民が切望するエネルギー資源の開発に躍起だ。とりわけ海底資源の開発に意欲を示している。東シナ海のガス田開発問題を巡り、3月6,7両日の北京で開かれた日中局長級協議で、中国側は、開発中の春暁(日本名・白樺)など4カ所を含む鉱区ではなく、この鉱区よりも東シナ海北部の海域と、同南部の台湾寄り海域の2カ所を海図で示し、共同開発を提案した。


閣内に対中強硬・慎重両派
この提案が自民党内で波紋を描き、閣内でも対中の「強硬派」と「慎重派」の溝を深めている。中国提案の南部海域には日中双方が領有権を主張している尖閣諸島(中国名・釣魚島)周辺の海域も含まれている。このため、安倍晋三官房長官はすかさず8日の記者会見で「これまでの我が国の立場と相い容れない」と中国提案を明確に拒否。麻生太郎外相も15日の衆院外務委で、中国が春暁ガス田の本格採掘に着手した場合の対応について「対抗措置を取らざるを得ない」と述べ、日本企業による対抗試掘を含む強い姿勢を示唆した。これに対し、二階俊博経済産業相は17日の記者会見で「出来もしないことを色々言っても仕方ない。そういうことを言って交渉が進むのか。交渉再開は我々経産省が努力してきた結果だ」と、麻生外相らの対抗路線に不快感を示した。親中国派の二階氏は経産相就任以来、話し合いにより解決を優先させる対話路線を取ってきたからだ。


二階氏がガス田協議打開
共同開発を巡っては、昨年5月の第2回協議で中国は、日本が主張している日中中間線の狭い海域に限った共同開発を打診。これに対し、昨年10月の第三回協議で日本は、日中中間線をまたぐ広範囲の海域を共同開発し、中国が開発を進めている春暁ガス田もこれに含める案を示したが、その後、靖国問題などでこじれて協議は中断していた。そこで二階氏は、2月下旬に訪中し日本政府の要人として温家宝首相,唐家セン国務委員らと会談。ガス田協議の再開にこぎつけるなど努力をしてきた。二階氏と中国指導部との親交ぶりは、谷垣禎一財務相と比べれば一目瞭然だ。谷垣氏は中国の歴史書を原典で読みこなす中国通。ポスト小泉の候補としていち早く関係改善を図ろうと意気込み、3月25日には財務省の事務次官や主計、主税両局長ら総勢30人を引き連れて訪中、初の「日中財務対話」に臨んだ。だが、出迎えたのは金人慶財務相ぐらいで、中国首脳陣との会談は実現しなかった。


閣僚足並み乱すクサイ球
中国は二階氏の努力を承知のうえで、日本の閣僚間の足並みを乱すよう、ガス田開発ではクサイ球を投げてきたわけだ。潜水艦が日本の領海を侵犯するなど、中国は軍事絡みの海洋政策を強化している。中国の軍事費急増について外務省は、06年版「外交青書」で防衛庁の「防衛白書」と同様、「国防費の増額や軍事力の近代化になお不透明な部分がある」と指摘した。首相もまた、3月19日の防衛大学卒業式で「近年、透明性を欠く軍備拡大を進めている国も見られる」と中国や北朝鮮への懸念を念頭において訓示し、「そうした国々の意図も影響して、大量破壊兵器や弾道ミサイルに関する技術が無軌道に拡散する傾向が顕著だ」と述べ、北朝鮮とイラン、パキスタンなどとの間で、ミサイル関連技術が無秩序に取り引きされていることへの警戒感を表明した。


対中円借款決定見送る
政府は05年度の対中円借款についても、新規供与分の年度内決定を見送ることを決め、塩崎恭久外務副大臣が党外交関係合同会議で説明した。今年度は靖国参拝やガス田開発で日中間がこじれているため、党内に「決定できる雰囲気ではない。ガス田協議などでの中国側の対応を見ながら決めるべきだ」との声が強まったからだ。政府は中国が急成長を遂げたことにより、開発資金を自力調達できると判断、08年度の北京五輪開催を機に、新規供与を終了する方針を昨年3月に決定した。当然の措置だ。しかし、登り竜の勢いの外交大国・中国も、内政には大きな矛盾が内在している。温家宝首相は、今年の成長目標を8%前後とし、今年から始まる5カ年計画では年平均7.5%の伸び率を想定した。朝日新聞によると、これは昨年実績の9.9%や過去5年の9.5%より抑えた数字だが、都市と農村の貧富の格差や資源・エネルギー不足、環境汚染など成長優先の経済運営がもたらす歪みを考慮した結果だという。


農民収入は都市の3分の1
中国の農村は、永年の都市への重点投資の影響で疲弊し汚職も横行。農民の収入は都市住民の3分の1以下だ。開発に伴う農地収用で土地を失った農民は4千万人を数え、農民冷遇への反発や土地問題が原因の農民暴動・集団抗議行動は、昨年だけで8万7千件に達している。出稼ぎも増えたが戸籍上9億4千万人の農民の暮らしは発展から取り残され、都市との貧富の差が開くばかり。温首相は、政治活動報告で農業・農村・農民の3農対策重視を宣言。さらに、農民にかかる336億元(1元は約14.5円)の農業税と、末端行政機関財政を補てんする700億元以上の徴税を全廃したと強調。2年以内に農民1人年間数百元の義務教育関連費を全額免除し、5年以内に国の財政から200億元以上を支出して農村医療施設を改善すると約束した。


地域活性化に外資導入
しかし、地域活性化には日本や外国の企業誘致など外資導入が最善の策。日中首脳の往来は01年10月の首相訪中以来途絶えているが、中国は3月31日から4月上旬にかけ、日中国貿促協(橋本龍太郎会長)、日中友好議連(高村正彦会長)など日中交流7団体代表の訪中を受け入れた。胡国家主席は4月に訪米し、米中首脳会談で元切り上げなど経済問題を討議する予定だが、日中交流団体代表との会談では、対日関係の『重要講話』として「小泉首相の靖国参拝が首脳会談開催の障害になっている」との考えを強調しながらも、「中国はまだ発展途上国だ。力を貸してほしい」と述べるなど硬軟を使い分け、「ポスト小泉」の関係改善に向けての意欲をにじませた。このように、日中関係は緊張の中にも新たな展開を見せつつある。私は安全保障、農林水産振興と専門的に取り組んできただけに、東シナ海のガス田開発と日中関係には重大な関心を抱いている。自民党内でも中国を巡る「対話」と「対抗」路線のぶつかり合いが始まっているが、日中問題は総裁選を織りなす一つの綾となりそうだ。