第118回(2月16日)行革論議が党内活発化 省庁再々編も浮上
 今年は年頭から行政改革を巡る論議が政府・与党内で活発化している。1つは、政府が3月中に行政改革推進法案(仮称)を国会に提出すること。首相は同法の制定で、次期政権に小泉改革路線の継承を義務づけようとしている。2つ目は、1月で橋本行革から5年が経過し、中央省庁再編を見直そうとする動きが浮上。竹中平蔵総務相らが放送・通信の融合政策を所管する機構改革などを目指している。3つ目は、ライブドアショックや防衛施設庁談合事件などで、証券市場や防衛施設庁の在り方が問われいること。中川秀直政調会長らが米証券取引委員会(SEC)のような証券取引監視体制の強化を唱えたり、額賀福志郎防衛庁長官が防衛施設庁の解体、防衛庁との統合を主張している。“官から民へ”の「簡素で効率的な小さな政府」を作るのが小泉路線だが、行き過ぎた規制緩和が“勝ち組”“負け組”の格差社会を生み出したとして小泉改革の「光」より「影」の部分が総裁選の争点になろうとしている。今後の行革論議がどのような推移を辿るか予断を許さない。


10分野で行革推進法案
政府が昨年末に閣議決定した「行政改革の重要方針」は、国家公務員を06年度から5年間で5%純減するなど、公務員総人件費、政府系金融機関、特別会計の3改革を中心に10分野に渡っている。その項目とポイントには、@【政府系金融機関の改革】現行6機関を統廃合して1機関とし、約60兆円の貸出残高を国内総生産(GDP)と比べた割合が半減するよう削減A【独立行政法人の見直し】56法人を42法人に整理・統合、職員約1万2000人を非公務員化B【特別会計改革】現行31会計を3分の1程度に削減、5年間で約20兆円を財政健全化に回すC【公務員総人件費改革】国家公務員68.7万人を5年間で5%以上削減、総人件費も10年間に対GDP比で半減D【政府の資産・負債圧縮】国有財産の売却を推進、政府の資産規模を10年間に対GDP比で半減E【社会保険庁改革】2008年10月に社保庁から年金運営業務を引き継ぐ新組織に移行、政管健保は公的な法人を新設F【既成改革推進】官民競争入札で行政サービスを民間開放する市場化テスト法案(仮称)を今国会に提出G【政策評価の充実】政策の費用対効果を省庁が自ら分析する政策評価制度を重点化・効率化させるH【公益法人制度改革】省庁が認可権を持つ公益法人を登記だけで設立出来る非営利法人とする関連法案を今国会に提出I【その他】個別の事業削減に向け、既設の有識者会議を改組し「行政減量・効率化有識者会議(仮称)」を設置――が盛り込まれ、「小泉改革」の中長期目標を明示している。


次期政権に改革継承の義務
政府はこの行革重要方針を実行に移すための「行政改革推進法案(仮称)」を3月上旬に国会に提出する方針。政府は9日、自民党の行革推進本部総会に、国家公務員5%純減のほか、事業の削減対象として、農林統計や北海道開発、社会保険庁関係など8分野を盛り込んだ同法案の概要を説明した。郵政民営化など数々の小泉改革を前進させた首相は、安倍晋三官房長官ら「ポスト小泉」の有力候補を重要ポストに起用し改革推進を競わせているが、さらに、行革推進法を制定することで次期政権に改革路線の継承を義務づけようとしている。その裏には、9月の首相退陣までの半年という長い期間、レームダック(死に体)化を避ける狙いもあるようだ。しかし、@の政府金融機関改革では、政府の途上国援助(ODA)の実施機関である「国際協力銀行」を、財界の意向を受けて「存続」させるか、自民党の「海外経済協力ワーキングチーム」(座長=伊藤達也前金融相・政調会長補佐)の主張に沿って「解体」するか、さらには円借款をODAの実施機関である国際協力機構(JICA)に吸収させ、国際金融は他の政府系金融機関に統合するか――が大きな焦点になっている。


ODA戦略作りに閣僚会議
この問題の処理を預けられた安倍晋三官房長官の私的諮問機関「海外経済協力に関する検討会」は1月下旬、ODA戦略作りの一元化を検討する閣僚会議の設置を決めた。ODAには外務省など13省庁が関わり、現在も「対外経済協力関係閣僚会議」があり、経済協力の基本政策を協議しているが、メンバーは15閣僚にもなり、開催頻度も低く、各省の援助方針にばらつきがあって十分に機能していない。そこで新しい閣僚会議は、首相、官房長官、外相、財務相、経済産業相の5人に絞り、実質的な議論が出来るようにする考え。国際協力銀の解体論には、内閣府に「援助庁」を創設する意見もあったが、これは見送られ、新閣僚会議でODA大綱や中期計画を作る方向となった。新閣僚会議は内閣官房の下に置かれるが、他省庁からは、外務省が企画立案機能を「温存」することになりかねないとして、早くも反発の声が起きている。


公務員純減など難題多し
首相は国や地方自治体をスリム化し、民間の活力を生かす「効率的な小さな政府」作りを目指している。その象徴がCの公務員の人件費削減だ。公務員削減の対象は自衛隊などを除く行政機関に属する国家公務員で、05年度末の定員は約33万2千人。政府目標の「5年で5%の純減」を実現するには約1万7千人の減員と、これに伴う6千億円程度の総人件費削減が必要となる。政府はこのうち3・5%分(約1万2千人)について、都道府県の出先機関(地方支分部局)の統廃合など今年度以降の行政改革で対応する。残りの1・5%分(約5千人)は総務省が担当する「定員管理」の中で達成させる。このため今年度は1200人前後の純減が欠かせない。だが、これを実現するには、労組系議員が多い民主党などが強く反対しそうだ。政府は行革推進法案を今国会に提出するため、内閣官房特殊法人等改革推進室を15人増員し、鋭意、作業を煮詰めているが、このように各改革には多くの難題を抱えており、骨格が纏まるのは早くても2月後半か、3月上旬になる。


情報通信省など再々編構想
こうした推進法案の制定作業中に、急浮上したのが中央省庁再々編論議だ。中曽根康弘内閣は第2次臨調(土光敏夫会長)の答申を受け、国鉄、電電、タバコ・塩専売の3公社民営化を断行。橋本龍太郎内閣は1府22省庁を1府12省庁に統合・分割する中央省庁再編と内閣機能強化を実現した。今年は橋本行革から丸5年を経過、1月6日から6年目に入った。安倍官房長官は同月10日の記者会見で、「小さな政府を作り、官邸主導の政府を作るうえで、今の体制でいいのかは当然検討を加えていかなければならない」と述べ、武部勤幹事長も同日の会見で、「省庁再々編、公務員制度改革、官のリストラ、官から民への流れを加速していく」と同調した。これに先立つ同8日、中川政調会長が再々編の可能性に言及、竹中総務相もテレビ番組で「ポスト小泉の最大焦点の1つ」と発言、再々編ムードを煽っていた。これは、小泉首相がかつて総務(旧郵政)省、経産(旧通産)省に分かれている情報業務を1つの省に集約する「情報通信省」構想を提起したのを受けて、竹中氏が放送・通信の融合時代を迎えた今、同構想を推進しようと動き出したもの。放送界では高速大容量(ブロードバンド)の通信設備を用いるIPマルチキャスト放送時代に入り、テレビとインターネットとの垣根がなくなりつつある。これを睨んでの構想だ。


防衛施設庁解体・統合論
ところが「再々編」論は、昨年末に閣議決定した先述の「行政改革の重要方針」には1行も出ていないため久間章生総務会長や片山虎之助参院幹事長らは「省庁再編は大変なこと」と慎重論を唱えた。そこへ水を差したのがライブドアショックと防衛庁官製談合事件。
「私の責任は不祥事が起きた問題点を洗い出し、施設庁を解体するつもりで防衛庁を生まれ変わらせることだ」――。額賀防衛庁長官は1月末、防衛施設庁発注工事を巡る談合事件について記者会見でこう語った。額賀氏は、防衛庁長官として初入閣した98年、調達実施本部を舞台とした背任事件が発生。参院本会議で公明党を含む野党に問責決議案を可決され、辞任している。それだけに、調達本部時代と同様の談合事件が再発し、施設庁の体質が全然変わってないことに額賀氏は憤り、「施設庁解体論」を唱えたわけだ。片山参院幹事長も同月末の会見で「解体的、解庁的見直しをし、場合によっては、組織そのものを統合するとか、全く別の形にすることも考えるべきだ」と述べ、草川昭三公明党副代表も参院本会議で「統合論」を提案している。


商取監視委の機能強化論も
職員数3千人超の防衛施設庁は、駐留軍の施設提供などを担当した特別調達庁の後身「調達庁」と防衛庁建設本部が統合されて62年に発足したが、高級幹部の間には、「役職の高い幹部の天下りを受け入れたメーカーが大きな工事を受注するのがルール」という、官製談合の体質は抜け切れなかった。一方、ライブドア事件に関連し、自民党内では武部幹事長が「金融庁の証券取引等監視委員会は何をやっていたのか、人が足りなかったのか、権限がなかったのか」と批判し、中川政調会長も「監視委の機能強化と金融庁からの独立」論を唱えている。大恐慌の1934年に出来た米国の証券取引委員会(SEC)は「証券取引の不正は国家の存立を脅かす」という危機感から生まれ、組織・権限も強大で独立性が強く、強力な「市場の番人」となった。田中角栄元首相が逮捕されたロッキード事件もSECの報告書がきっかけだ。


SECは行政肥大化と反論
これに比べ、日本の銀行や証券会社の監督は護送船団を操る官僚任せで、市場の公正さはさほど重視されてこなかった。この点に関し、伊藤前金融相は朝日のインタビューで、「商取委(監視委)はこの事件でも検察と緊密に連携し、強制捜査も合同で実施した。市場が大きくなれば監視機能の強化、人員の増強はより重要になるが、日本の商取委(監視委)には米SECにない犯則調査権(強制立ち入り捜索の権限)がある。SECのような組織巨大化だけでは、行政の肥大化に繋がる」との趣旨で述べた。与謝野馨金融相も「現在の組織でよいし、有効に動いてきた。金融庁と監視委の権限、役割を理解すればそうした議論(独立論)はなくなる」と監視委を弁護している。以上の経過から見ても、党内での行革論議は活発化しており、行革推進法案の審議は多方面にわたり曲折が予想される。