北村の政治活動

 第113回(12月1日)国債30兆円を復活 首相公約達成に意欲


 首相は来年度予算編成で、就任当初の公約だった「国債発行の30兆円枠」を復活するよう指示した。定率減税の半減や景気回復によって税収増が期待されるため、自らの手による最後の予算編成で小泉改革総仕上げを演出し、有終の美を飾ろうとしたわけだ。小泉内閣は2010年代初頭に、基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を達成することを構造改革の柱に掲げている。それにはこれ以上借金を増やさないことが前提になる。国と地方を合わせ770兆円を超える長期債務を抱える日本の財政再建には、借金依存体質からの脱却が最重要課題だ。しかし、社会保障費の自然増などがあって1兆数千億円規模の歳出削減が必要となり、目標達成は容易でない。今後、金利が上昇すれば、国債の利払い費用が膨らむ恐れもあり、現在の低金利が継続することが国債圧縮の前提となる。量的金融緩和政策の解除を見越して長期金利が上昇基調にあるため、首相は日銀に対し、「解除はまだ早いのではないか」と牽制したり、全閣僚には歳出削減のために三位一体の改革、国家公務員定員削減など「小さな政府」作りを、懸命に督励している。

 財政改革の評価高めたい

 国債発行30兆円枠の首相公約が実現したのは01年度と02年度の当初予算だけ。税収不足で02年度の補正予算では30兆円を超えてしまった。そのため、03年1月の衆院予算委員会では、民主党の菅直人代表(当時)から「国債発行枠、8月15日の靖国参拝、ペイオフ凍結解除の3つとも守られていない」と公約違反を批判され、首相は「この程度の約束を守れなかったというのは大したことではない」と強弁、内閣支持率を下げてしまった。靖国参拝は日を変えながら毎年1回行い、ペイオフ凍結も今年4月に全面解除し、国債発行30兆円枠だけが残った。安倍晋三官房長官は「首相の最終年度、総仕上げの予算でしっかり目標に進んでいく気持ちを込めている」と首相の代弁に努めているが、来年9月で任期を終える首相としては公約のケリをつけ、財政改革の評価を高めておきたいようだ。今年度の当初予算では税収を44兆円と見込んでいたが、04年度税収が4年ぶりに前年実績を上回り、好調な事業収益を反映して2兆円以上膨らむ可能性が大きい。

 4兆円規模の税収増

 これに加えて来年1月から導入される定率減税半減で1兆2千5百億円、法人税減税の廃止で約1兆円が税収増分として国に入る見通し。一方、今年度当初予算ベースの新規国債発行額は約34兆4千億円。06年度は前記の通り05年度予算比で4兆円以上規模の税収増が見込まれるため、首相は11月15日、「歳出歳入面での改革を行うことで、小泉内閣の総仕上げ予算である来年度予算での新規国債発行額を、30兆円に出来るだけ近づけるよう努力して欲しい」と目標の再設定を関係閣僚に指示したものだ。自民党も同日の政調審議会で、党財政改革研究会(会長=中川秀直政調会長)の下に「デフレ脱却成長政策」と「資産・負債管理」の2つのプロジェクトチームを設置し、政府資産の売却など「小さな政府」への移行を進め、首相をバックアップする態勢を整えている。谷垣禎一財務相が同日、30兆円枠設定の協力要請に出向いても、与党幹部は首相就任時のような反発は見せず、「環境は整っている」(片山虎之助参院幹事長)と答えるなど理解を示した。

 定率減税は全廃の方針

 定率減税はデフレが深刻さを増し、金融危機が心配された小渕恵三内閣の99年に導入された。個人消費を刺激して、景気の底支えを図るのが目的だった。減税額は国、地方合わせ年間3兆3千億円で所得税20%、住民税15%の軽減、サラリーマンでは最大29万円の税金が減った。税収減は赤字国債に頼ってきたが、その見直しを進めてきた政府税調(石弘光会長)は昨年、「定率減税は06年度までに廃止すべきだ」と答申した。まず所得税が06年1月から、個人住民税は6月から半減されることが決まっている。今年末に審議される来年度の税制改正での焦点は、残りの半分も打ち切り、答申通りに全廃するかどうかだ。政府税調は11月8日に基礎問題小委を開き、「定率減税の07年廃止」の見解を再確認、道路特定財源は現行税率を維持したまま使途を限らない一般財源にすべきだと提言する方針で一致した。

 1兆数千億円の歳出削減

 だが、定率減税の半減分は、政府・与党で決定している基礎年金(国民年金)の国庫負担割合の引き上げに回る可能性があるほか、法人税減税の廃止についても与党内に慎重論がくすぶっている。仮に4兆円の税収増が実現しても、歳出面では今年度で82兆2千億円の予算規模を横這い以下に抑えなければ国債の圧縮は出来ない。年金、医療費などの社会保障費は現状のままなら毎年1兆円程度増える。公共事業費など他の予算も含めた見直しが不可欠だ。税収増が予想通りに進まなければ、一般歳出で最低数千億円を削減する必要が出てくる。社会保障費の自然増分を含めれば、1兆数千億円の歳出抑制が必要となる。
谷垣財務相は11月24日の政府・与党医療改革協議会で、「新規国債発行額を(首相指示の)30兆円に近づけるには、夏の概算要求基準(シーリング)で決まった2200億円を遙かに上回る医療費の抑制が必要だ」とし、さらなる上積みを求めた。

 社会保障費抑制がカギ

 具体的な抑制策としては、厚生労働省の医療改革案に沿って、@原則1割の高齢者の窓口負担を2割に引き上げA外来診療で毎回500円までは患者負担とする保険免責制度の導入B診療報酬の大幅な引き下げ――など、5千億円の抑制幅を念頭に置いて要求した。診療報酬引き下げは、マイナス5.3%程度の改定を求める構えだ。これに対し、与党側は、「将来の患者負担引き上げや診療報酬の引き下げを約束することは出来ない」と強く反発した。いずれにしても、国債発行30兆円枠を達成するには、社会保障費の抑制や一般会計の約2割を占める地方交付税の削減にきり込めるかどうか、がカギとなりそうだ。