北村の政治活動

 第112回(11月16日)正念場の三位一体改革 義務教育が焦点


 国と地方の税財政を見直す三位一体改革は、補助金の削減をめぐり中央省庁と地方6団体が激しく対立している。中でも文部科学省の義務教育費国庫負担金削減と、厚生労働省の生活保護・児童扶養手当引き下げ問題が改革の焦点とされ、攻防の火花を散らしている。昨年11月の政府・与党合意では、補助金削減額3兆円のうち、2兆4千億円の内訳を決めただけ。今年は残り6千億円について結論を出さなければならない。総選挙による遅れもあり、政府は10月中旬に補助金削減額の取りまとめを予定したが、関係7省が事実上のゼロ回答を示したため、調整役の安倍晋三官房長官は8日、調整枠3百億円を上積みした総額6千3百億円の個別削減目標額を示し、14日までに回答するよう宿題を出した。小泉首相は11日の全国都道府県知事会議で「地方の意見を尊重していく。これで終わらない」と述べ、07年度以降も税源移譲や補助金削減などをさらに促進する意向を示した。だが、明治維新以来約140年の歴史と伝統を持つ役所の抵抗は、郵政民営化反対闘争以上に激しく、改造後間もない新閣僚がどのように難題をさばくか腕の見せ所だ。

 地方は施設整備の削減要求

 「官から民へ」「中央から地方へ」――は首相が唱え続ける小泉構造改革の根幹だ。国と地方自治体の税財政の在り方を再検討し@国から地方への補助金を削減Aその代わりに地方に税源を移譲B国から地方に配分される地方交付税を見直す――の3つを同時に進めるのが三位一体の改革。国からの補助金は、道路や老人ホームの建設などに使い道が限定されているうえ、老朽施設を改修するよりはそっくり建て替えた方が補助金を出しやすいなどの矛盾がある。こうした国の画一的な指針でなく、県や市町村など自治体が老人ホームに保育園を併設するなどの新しいアイデアをもとに無駄を省き、地域の実情にあったカネの使い方が出来るようにするのが狙い。昨年は首相が地方に丸投げした結果、2006年度までに3兆円程度の税源移譲の方針が決まり、昨年は2兆4千億円分が決まった。今年は残り6千億円に見合う補助金削減を決める運びだ。地方側は、老人ホームや公営住宅などの施設建設への施設整備費5千2百億円を含む補助金の削減と税源移譲を求めている。

 厚労は生活保護費削減求む
 
具体的には厚生労働省に4762(単位億円)、国土交通省2448、農水省359、文部科学省1427、経済産業省101、環境省876、総務省0――計9973億円の補助金削減リストを示している。これに対し財務省は「施設整備費は国債(借金)で賄っているから、渡す税源ではない」と反対した。猛反対する中央省庁にとっては、補助金をどこの自治体に配るかという配分権限こそが「力の源泉」であり、補助金がなくなると担当部署も不要になるから、国益よりも省益、局益のために反対しているわけだ。地方に逆提案しているのが厚生労働省で、「現行4分の3の負担割合である生活保護費と児童扶養手当を2分の1に引き下げて計9180億円削減する」と主張している。削減の内訳は生活扶助2090億円、医療扶助3210億円、住宅扶助(ゼロに引き下げ)2450億円、その他350億円、児童扶養手当1080億円――で都道府県には5750億円、市には3430億円削減することを地方側に提示した。地方側は税源を移譲されても、ほとんどは生活保護費の給付に回すしかなく、「単なる負担のたらい回しだ」と猛反発している。

 文科は義務教育費堅持を主張
 
 一方、昨年決まった2兆4千億円の中には、中学校分の義務教育費国庫負担金8500億円を削減し、それに見合う税源移譲が盛り込まれたが、文部科学省の反発で今秋の中央教育審議会(文科相の諮問機関=鳥居泰彦会長)答申が出るまで「暫定」の扱いとなり、しかも、05年度は半額の4250億円しか予算化されなかった。これには文相経験者の森喜朗元首相が「体を張ってでも阻止する」と述べるなど、自民党文教族の激しい抵抗があったからだ。その中教審は10月26日、「現行の2分の1の国庫負担を堅持すべきだ」とする答申を中山成彬前文科相に提出している。答申は「義務教育こそ外交や防衛とともに国が担うべき最重要政策」であるとし、人材や財源確保は国が責任を持ち、教育の地域格差が生じないよう一定の水準を保つことを強調している。また、地方側が求める自由な教育の取り組みは、義務教育標準法の改正など他の法令の改善で実現できるとしている。

 課長実名で反対メール発信
 
 答申案は地方代表委員から修正案が出されたため、地方代表委員3人を除く賛成多数で採決された。岡山県知事の石井正広委員は審議終了後、「地方案を抹殺した答申で認めるわけにはいかない。官邸、政府・与党に働きかけて政治決着を図ってもらいたい」と述べたが、日経新聞が「政府・与党は今月4日、義務教育教員給与費の国庫負担率を2分の1から3分の1に引き下げる方向で調整に入った」と報道したところ、文科省はすかさず「誤報である」と反論したうえ、「答申により暫定措置は崩れたので、当省は来年度に8500億円の復活折衝を求める」との趣旨を文書にしたため、各方面に配布した。答申が無視された場合、鳥居会長ら教育学者らで構成される中教審の多くの委員は、辞任するとの噂も流れている。読売新聞によると、同省の初等中等教育局が全国の教育委や教育団体に向けて出すメールマガジンには、「義務教育費国庫負担金と三位一体の改革とは、今まさに不倶戴天の関係にある」「職を賭して制度の堅持に励むので、誤報に踊らされることなく、支援をお願いしたい」といった過激な、課長の実名入りコラムが発信されているという。

 官房長官が削減目標設定
 
 三位一体改革の調整役は安倍官房長官、谷垣禎一財務相、竹中平蔵総務相、与謝野馨経済財政担当相の4閣僚だが、中央官庁と地方の対立に業を煮やした安倍官房長官は8日の閣僚懇談会で、補助金削減の目標額を関係7省に提示した。厚労省5040(単位は億円)、国交省620,農水省340,文科省170、経産省70、環境省50、総務省10――で、計6300億円。昨年の残り6千億円に3百億円を上積みし、調整の幅を持たせているが、地方6団体要求の9973億円より約3700億円下回った。安倍長官は「リーダーシップを発揮してまとめて欲しい」と述べ、14日までに具体的な削減項目を決めるよう各閣僚の奮起を促した。しかし満額回答は総務省と経済産業省だけで、他の5省は目標に満たず合計金額は300億円と官房長官が提示した額の20分の1程度に過ぎなかった。この為21日までに再提出を求めるが、削減額が大きい厚労省は、強く難色を示し、地方側が反対する生活保護費の補助率引き下げを主張し膠着状態に陥っている。新閣僚がいかに努力しても、決着までには曲折がありそうだ。