北村の政治活動

 第102回(5月16日)揺らぐNPT体制 核保有・非核国が対立

 核拡散防止条約(NPT)の現状や課題について5年ごとに話し合う再検討会議が5月2日から27日までニューヨークの国連本部で開かれている。北朝鮮のNPT脱退宣言や同国の核開発を巡る6カ国協議の凍結、イランの核開発疑惑などで世界の核管理体制は大きく揺らぎ、会議は難航。議題についてエジプトが議長案に修正を求めたため、1週間以上も実質審議に入れない異常事態が続いている。開幕直前にニューヨークで約4万人の反核デモが行われたが、被爆60年の節目とあって、秋葉忠利・広島市長が会長を、伊藤一長・長崎市長が副会長を務める「平和市長会議」の加盟市長らを先頭に被爆者を含む多くの日本人が国連本部からセントラルパークまでを練り歩いた。16カ国、70都市が参集した市長会議は、核廃絶の実行を目指す「2020ビジョン」を提唱している。私も被爆県・長崎出身の防衛庁長官政務官として、世界の安全と平和に大きな役割を果たすNPTには多大な関心を抱いている。再検討会議が実りある成果をもたらすことを期待してやまない。

 加盟189、未加盟3カ国

 NPTは、核兵器の拡散防止と原子力の平和利用を主たる目的として1970年に発効、35年を経過したが、核保有5カ国の中でもとりわけ米国と非核国の対立が険しくなっている。NPT加盟国は、70年の発効当時は62カ国だったが、年々増え続け、現在は189カ国に達している。国連加盟国でNPTの枠外に止まっているのは98年に相次いで地下核実験を行ったインドとパキスタン、それに核保有が確実とされるイスラエルの3カ国だけだ。60年代には数十カ国がいずれ核武装すると危惧されていたことを思えば、核不拡散の“要”としての条約の目的は、ほぼ果たされてきている。NPTは67年以前に核兵器を製造、爆発(実験を含む)させた米露英仏中5カ国だけを「核兵器国」として核保有の特権を認めた差別的な条約だ。それ以外の国に核兵器が拡散しないことを最大の目的にしているため、条約の3本柱を@非核国は核兵器を製造・保有しないと誓う(2条)Aその見返りに原子力の平和利用を「奪い得ない権利」として認める(4条)B核兵器国は核軍縮交渉を誠実に行う義務を負う(6条)――と規定。「その目的を実現するため、条約の運用を再検討する会議を5年ごとに開く」と定めている(8条)。10年前の再検討会議で非核国は、同条約の無期限延長まで受け入れ、見返りに核軍縮を求め続けている。

 北朝鮮脱退、イラン開発疑惑

 しかし、北朝鮮が2003年1月にNPT脱退宣言をし、イランの核開発疑惑が深まり、さらに核の闇市場が発覚するなど新たなほころびも目立ってきている。北朝鮮は平和利用を隠れ蓑に技術や施設を入手していながら、脱退宣言後に原子炉の稼働を停止し、使用済み核燃料棒を抜き出す構えを見せるなど、挑発的に核開発を進め、核保有を広言している。NPTを内部から崩壊させる重大なルール違反だ。米国防情報局(DIA)のジャコビー局長は4月28日、「北朝鮮の多段式弾道ミサイルは2段でアラスカとハワイ、3段で米本土の大半が射程に入る。米本土に到達可能な長距離ミサイルの弾道に核兵器を搭載する能力がある」との見方を、上院軍事委公聴会で証言した。米国以上に日本にとっては大きな脅威だ。ブッシュ大統領も同日の記者会見で同局長の見解に同意し、「北朝鮮の核については引き続き6カ国協議で解決を目指す」としながらも、金正日総書記を「暴君」と呼び、厳しく批判した。ラムズフェルド国防長官は上院公聴会で、核軍縮どころか、北朝鮮やイランを念頭に、地下施設を攻撃する新型核兵器開発の必要性すら訴えている。

 脱退防止、査察強化策急げ

 NPT再検討会議は、5年に1度、NPTが抱える課題を総点検し、対応策を練り直す会議だ。北朝鮮の脱退問題にどう対応するか。朝日は4月末の社説で、「NPTでは、加盟国と国連安保理に通知するだけで3カ月後には脱退が認められる。抜けてしまえば、条約の規制は受けない。北朝鮮はこれを逆手に取り、脱退、核保有宣言という挙に出た。NPTに加盟していれば平和利用の名のもとに国際協力が得られ、原子力技術を習得することができる。その後に脱退し、核武装に悪用する。国際社会を欺くそんな行為を抑え込む仕組みを作らなければならない」と指摘し、「昨年の準備会合でも脱退防止が議論になった。国際原子力機関(IAEA)による疑惑調査が進む間は脱退を認めない。脱退前の違反は脱退後も国連安保理などで議論され、脱退国はその決定に拘束される――といった提案も出ている。具体化を急いでほしい」と報じ、北朝鮮にはNPT復帰を強く求めたほか、IAEAの査察権限など監視体制を強化するよう提言している。全く同感だ。

 中東、朝鮮半島に非核地帯を

 IAEAのエルバラダイ事務局長は、議題の決まらないまま開幕した2日の開会演説で、「この会議は中東や朝鮮半島の非核地帯創設を奨励すべきだ。国家の安全を保障すれば、不安の除去に繋がる。北朝鮮は明らかにそのケースだ」と非核地帯創設を提唱するとともに、濃縮、再処理施設の新規建設を一時凍結するよう提案した。これに先立ち国連のアナン事務総長が演説。冒頭で広島、長崎の原爆被害に触れ、「冷戦時代の核戦争の脅威は遠のいたが、核の脅威は依然存在する」と指摘、戦後史の中でNPTが果たしてきた役割を評価しつつ「軍縮、不拡散、平和利用すべてが重要だ」と、NPT体制をもり立てるよう呼びかけた。2番目に登壇した町村信孝外相は、北朝鮮の核開発に深刻な懸念を表明、NPT脱退国が加盟中に犯した違反に対する責任を追及し、核物質や施設の提供国は脱退国に施設の返還を求める仕組みの構築、全種類の核兵器削減など「21世紀のための21の措置」を提案した。5番目に登壇した米国のラドメーカー国務次官補(軍備管理担当)は北朝鮮を、「03年の脱退表明前に秘密裏に濃縮、再処理能力を手にしようとした」と非難する一方、「イランはパキスタンのカーン博士のネットワークによって秘密の核開発を20年にわたって続けている。NPT条約は深刻な挑戦に直面している」と述べ、両国を名指しで批判した。

 核軍縮と核不拡散は車の両輪

 北朝鮮の脱退には各国の危機感が強く、カナダの代表は「NPTに戻るべきだ」と北朝鮮に呼びかけ、アイルランド代表は「北朝鮮問題は隣国だけの問題ではなく、国際社会が取り組むべき問題だ」と対応策を促した。核開発疑惑が持たれているイランのハラジ外相は3日の登壇で、「平和目的のためのウラン濃縮を含めた、あらゆる核技術を断固として追及していきたい」と述べ、原子力研究施設は核兵器開発ではなく、あくまで発電用との立場を改めて強調。逆に「新型核開発は禁止する必要があり、ミサイル防衛は新たな軍拡競争を引き起こす」と暗に米国を非難した。5年前の前回会議では「核保有国による核廃絶への明確な約束」を盛り込んだ最終文書を採択したが、核軍縮については、非同盟運動を代表するマレーシアが「95年に決まったNPTの無期限延長は、無期限の核保有を意味しない」と述べ、核保有国の核軍縮努力を求めた。核保有国に核廃絶を確約させるための共同行動を取ろうと98年、7カ国で結成された「新アジェンダ連合(NAC)」の代表と、、して登壇したニュージーランド代表は「核軍縮と核不拡散は車の両輪だ。核軍縮に向けて着実な努力を続ければ、核武装をしようという考えに対処できる」と核保有国を戒めた。

 米国とイランなどの対立深刻

 このように各国の演説では、一様に北朝鮮の脱退問題に懸念や批判を表明しているが、「平和利用の権利」を主張するイランと不拡散対策の強化を目指す米国の対立、あるいは核軍縮を求める非核国と核軍縮努力をアピールする米国など核保有国の対立が鮮明になってきた。とりわけ、米国は同時テロ以降、テロ組織や「ならず者国家」の核保有を最大の脅威と見なすようになった。この懸念は「核の闇市場」の発覚で一段と強まっている。核不拡散体制を強化するため非核国に「核の平和利用」の権利を制限したい米国と、核保有国が「核軍縮」を放置したまま「平和利用」に制約を課そうとすることに反発する途上国との対立は深刻だ。この影響で議題は未だ定まっていない。先進諸国は過去3回の準備委員会などで@軍事転用可能なウラン濃縮や再処理の制限A原発建設などで得た技術や物資を取得したままNPTを脱退することを阻止する方策B厳しい査察を課す追加議定書への加盟促進――などを議論してきた。今後の会議ではこれらが議題に取り上げられそうだ。

 濃縮、再処理を5非核国に

 とくに米国は、濃縮や再処理の施設を現時点で持たない国には将来も施設建設を認めない新規参入禁止の構想を昨年2月に打ち出している。それに基づき、核燃料を作り出すウラン濃縮事業を日本、オランダ、ドイツ、ブラジル、アルゼンチンの5非核国に認め、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す再処理は、日本にだけ認めるといった案も最近示している。これは核開発を疑われる北朝鮮やイランのように、原子力の平和利用を隠れ蓑に核兵器開発を進める国の野望を阻止し、核不拡散政策を強化するのが狙い。米国の構想では青森・六ヶ所村で濃縮・再処理事業に取り組んでいる日本政府に配慮したことは間違いない。オランダとドイツは英国と合弁事業ウレンコ社を設立しウラン濃縮の実績を上げているし、ブラジルは自前の濃縮事業推進を国策に掲げている。同国は軍事政権下の70〜80年代に隣国アルゼンチンと核開発競争を繰り広げたが、水資源が豊富で電力の88%は水力発電で賄い、原発はわずか4%に過ぎない。軍事政権下に始まった原子力開発は当初、米国からの技術を導入したが1号機はトラブル多く度々運転停止、2号機は75年に協力先を旧西独に切り換えたが、核開発計画は後退させ、非核国への道を歩んでいる。

 非核地帯会議が核保有国批判

 再検討会議の議長はブラジルのドウアルテ氏が務めており、米国はこれらの点を考慮に入れて、5非核国を「濃縮・再処理を認める国」としたようだ。しかし、いずれは自前の濃縮技術を持ちたい途上国にしてみれば、「平和利用」の権利を正面から否定する非核国の分断策であるとして、強い反発が予想される。非同盟、NACなど途上国のメンバーは4月26〜28日まで、メキシコ市で今回の会議の前哨戦となる初の「非核地帯会議」を開き、「核軍縮の進展がない」と核保有国を批判し、核廃絶への明確な約束を求める宣言文を採択している。今回の会議で重要なことは未加盟3カ国にNPT加盟を重ねて強く促すとともに、イランが脱退の追随国とならないよう新たな方策を打ち出すことだろう。米中両国は核実験全面禁止条約(CTBT)を批准していない。米国はむしろ、CTBTの早期発効など、前回会議の最終文書に盛られた核軍縮に関する合意の多くを死文化させようとしている。このように非核国と核保有国の対立は深刻で、「核不拡散」「核軍縮」「原子力の平和利用」の個別テーマで4日から始まる予定だった3委員会は、議題が決まるまで開会できず、10日以降に持ち越された。加盟国の一部からはドウアルテ議長の責任を問う声も出始め、NPT会議は迷走している。